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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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片田商店炎上

 塩飽しあく水軍が、村上・片田合同艦隊に完敗し、大内側に寝返った。

 兵庫、尼崎の津に大内が上陸し占領した。片田艦隊が上陸軍を海側から支援した。

 その後、白い帆に『片』の字を染めた艦隊が明石海峡と紀淡海峡を封鎖し、航行する船を拿捕だほし、大内が占領する尼崎に曳航えいこうしていった。細川の船と積み荷は没収された。

 細川が瀬戸内や四国に持つ領地から運ぶ兵や兵糧ひょうろう、武器などは、危険な熊野灘くまのなだを経由して土岐とき政康まさやすが支配する伊勢いせ国北部に運ばなければならなくなった。

 鏡台事件の腹いせか、はじめ細川勝元は、そう思った。豪商ごうしょうとは言え、一介の商人が大名同士のいくさに参戦するなどとは、この当時には考えられなかった。

 若狭わかさ国に派遣されている、武田信賢のぶかたの弟、武田国信くにのぶから知らせが来る。

 若狭湾に四隻の片田艦隊が現れ、湾を封鎖した。敦賀つるが小浜おばま高浜たかはまなどに入ろうとする細川方の船は拿捕だほされ、こちらの水軍では対抗できない。

 若狭以北の細川方、越前えちぜん加賀かが飛騨ひだ越中えっちゅうの兵と兵糧は北陸道ほくりくどうを陸路で運ばなければならず、上洛が遅れる、とのことだった。

 この時期、東軍は、京都みやこに閉じ込められた西軍を攻め立てていた。大内氏の大軍が到着する前に、なんとしてでも京都で勝利してしまう必要があった。これらの軍が遅れるのは痛い。

“若狭だと、なぜそんなところに片田艦隊がいる”細川勝元は思った。

 これは、腹いせなどではない。片田商店は明らかに西軍についた、ということであろう。


「堺の片田商店をつぶせ」細川勝元が命じた。




 その夜の不寝番ふしんばんは、野村孫大夫まごだゆうだった。

 虫の音が止むのに気づく。


 片田商店の表の板戸を激しくたたく音がする。

「堺代官所のあらためである。戸を開けよ」

 店内の三人の忍びからの返事はなかった。

「戸を打ち壊せ」代官が叫ぶ。

 そのつもりで持参してきた角材で、商店の戸を二度、三度突く。戸が壊れた。代官所の兵が店内に突入する。

 暗い店内に踏み込んだ兵の足が、孫大夫達が仕掛けた紐に触れ、天井で幾つもの煙玉が炸裂する。兵たちが咳き込み、その場にかがむ。

 その騒ぎの間に、忍び達は天井裏から、屋根に出る。

 兵が引っ掛けた紐は煙玉だけに繋がっているのではなかった。一階の奥の間と二階に仕掛けられた発火器にも結び付いていた。

 紐が引かれて発火器の木片を外す。撃針が雷管を叩き、油を入れたかめが割れ、火の付いた油が店内に飛び散る。

 代官所の兵たちが混乱している間に、火が店内に回る。

 充分に火が回り、手のほどこしようが無くなったことを確認した忍び達は、屋根伝いに西に走り、菅原神社の茂みに紛れ込む。

 そのまま西に走り、堺の町を囲む堀を泳ぎ、覚慶運河にたどり着く。片田商店の屋根が落ちたのであろう、周囲が一時的に明るくなる。運河のとまり脇に片田が置いたえきがある。その駅の馬を拾う。野村孫大夫が馬にまたがり、応神天皇陵を目指した。

 楯岡たておか同順どうじゅん治兵衛じへいは駅に待機した。


 野村孫大夫は、くらから延ばした竹竿の先に提灯ちょうちんを下げた。馬を速足(時速十四キロメートル程度)で半刻はんどき程走らせ、河内新田の小山七郎のところにたどり着く。


「堺の代官所には、どれほどの侍がおるのか」小山七郎さんが尋ねる。

「通常は五十名程です。本日の昼間もこれといった動きはありませんでした」野村孫大夫が答える。

「代官所以外に、現在堺に細川の部隊が入っているか」

「入っておりませぬ。これは毎日確認していますので、確かです」

 少数で奇襲をかけることが出来る、ということだ。

「わかった、ではすぐにでも二百名程の兵を送ろう。犬丸殿、百騎を連れ、運河の馬道めどうをたどり、堺の大和口で待機せよ。馬は並足(時速五キロメートル程度)でよい」

「わかりました」犬丸が答える。

「そちは、自分の百名を船に乗せて、運河を下れ」七郎さんが百人隊長の一人に命令する。

「犬丸殿、舟航しゅうこうの部隊が到着したら、夜明けとともに堺の代官所を襲い、これを制圧すること。次に摂津せっつ口、和泉いずみ口、大和口を押さえよ。各口を押えたら、前面に斥候せっこうを放て。わしはひるまでには、軍の先陣を大和口に到着させるよう、こちら側を動かす。堺の民には手をだすな。犯罪は厳罰と処す。解ったか」

「了解しました」


 夜が明けたら、一万の兵と兵糧、臼砲、弾薬などを堺に向けて出発させなければならない。小山七郎さんと千人隊長は、輜重しちょうの計画を立て始める。夜明けとともに進軍するためには、徹夜の作業になるだろう。


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