御所巻(ごしょまき)
大和の十市遠清は、畠山義就の依頼を受けた。
義就派の越智家栄と、政長派の筒井順永は、遠清の仲介で和睦する。
大和での戦が止む。
大和の戦いから解放された義就は山名宗全の求めに応じて京都に軍を進める。
十二月二十六日に義就は大報恩寺(千本釈迦堂)に陣を置いた。
畠山政長は、義就との市街戦に備えて春日小路(丸太町通り)の邸を要塞化する。
年が明けて、文正二年(一四六七年)正月元日。
この時代、将軍と守護大名にとって、正月は重要な儀式の時期だった。
元日には、その時の管領が足利将軍の邸を訪ね、将軍に食事をもてなす。
二日目以降は、将軍が有力守護大名の邸に行き、それぞれの食事のもてなしをうける。
この儀式により、主従関係を確認する。
この日、不穏な空気の中、管領畠山政長は、義政の住む室町の御所を訪ね、食事のもてなしを行った。
「右衛門佐(畠山義就)をなんとかしていただけませぬか」
「うむ、武蔵守(細川勝元)と相談はしておるのだが、宗全が頑なでな」義政はそういって、クラゲの酢漬けを噛む。
「一万もの兵を洛中にいれておるのですぞ」
「わかっておる、まさか京都で戦をはじめることはないじゃろ」
義政はそう言うが、いま花の御所の周囲は、細川勝元、畠山政長の兵が固めている。
義政に訴えても頼りないばかりであった。それでも元日のもてなし役をまかされている、ということは、政長を管領として認めている、ということだ。そう思うことにして自邸に下がっていった。
正月二日は、反対に将軍義政が管領の邸を訪問することになっていた。ところがこれが中止になる。この日は義政が義就と対面している。
さらに五日は将軍が畠山邸を訪問する日であった。この日義政は畠山政長の邸ではなく、義就の所を訪問した。義就は京都に邸を持っていなかったので、山名宗全邸に座を設けた。
この席には足利義視や諸大名も同席しているとのことであった。欠席したのは政長と細川勝元など、わずかだった。
翌六日、政長は管領職を解かれるとともに、春日小路の邸を義就に引き渡すように、という命令を義政から受けた。
この邸は義就の父、畠山持国の邸であった。少年だった義就が持国に引き取られ育った邸だった。
八日には斯波義廉が政長の代わりに管領に任命され、十一日に義廉が管領として初出仕する。
ここに日付に従って書いたことは、当時の貴族や僧侶が日記などに書き留めて伝わったことだ。従って、正月二日の義政と義就の対面でなにがあったのか、義政がなぜ政長支持から義就に変わったのか、説明しているものはない。
義就方の圧倒的な武力のために義就支持に変わった。あるいは、我が子義尚を将軍にしたい日野富子が山名宗全と結託した、などといろいろな説が出されている。
ここに至って細川勝元は動かざるを得なくなった。分国に兵の上洛を命ずる。一方で、在京の自軍と畠山政長軍、朝倉孝景を擁す赤松政則軍などで将軍御所に押し寄せ、義就の追討命令を出させようと計画する。
大名が軍を動員して将軍御所を囲み、直談判することを『御所巻』という。ここで言う御所は将軍御所である。天皇の在所も御所というが、以後は内裏と呼んで区別することにする。
細川勝元は、まだ気付いていない。いま起きていることが、畠山氏のお家騒動の延長にすぎないと思っている。
しかし、義就の背後にいる山名宗全の狙いは細川勝元の追い落としであった。
あるいは、義政はこの細川勝元追放に乗ったのかもしれない。義政が狙うところは細川と山名を弱体化させ、伊勢貞親などの側近を復権させることにある。
正月十五日は、例年将軍が山名邸でもてなしをうける日と決まっていた。勝元の御所巻の準備が済んでいないこの日、山名宗全が決行する。
山名宗全、畠山義就、斯波義廉が将軍警護の名目で将軍御所を占拠する。
「右衛門佐(義就)をご赦免なされた以上は、(義就には)万里小路(現柳馬場通り、万里小路と春日小路の交差するところに畠山の邸があった)の館に移り住んでもらわなければならない。しかるに細川は右京太夫(政長)をかばい、上意にそむいている。反逆を企てるつもりか。細川に将軍の使いを送り、右京太夫に協力するのを止めさせていただきたい」宗全が義政に直談判した。
山名宗全に御所巻で先を越された勝元は、足利義視擁立を図る。しかしこれも宗全は予想していたとみられ、十六日には義視を含む足利一族を将軍御所に移動させてしまった。
事態がここに至り、政長は京都を落ちるだろう。誰もがそう思った。かつて山名宗全ですら、将軍から追討命令が出された時には家督と守護職を息子に譲り但馬に退去している。
双方に加勢する軍が増えてくる。もはや畠山の邸に拠って戦うような人数ではなくなっていた。
十七日夜、政長は、義就なんぞに渡してなるものか、とばかりに邸に火を放った。軍とともに邸から東に進み、鴨川の河原に出る。河原を北上して内裏北方の上御霊社に陣を構えた。




