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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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メガネ!

 煉瓦製の皿に、石英砂せきえいさ重曹じゅうそう、卵の殻を混ぜ、すりつぶして粉末にした物を、厚さ五ミリほどにして炉に入れた。

重曹(炭酸水素ナトリウム)は、炉の中で勝手に熱分解して炭酸ナトリウムになるはずだった。


 炉から皿を出してみる。なんだろう、まだらに融けたガラスと石英砂の塊としか言いようのない物が出来た。重曹と炭カルが少ないのか。冷めたところで、皿から剥がしてみる。皿との接面は綺麗きれいにガラスになっていた。


”融けた重曹と炭カルが、煉瓦に染み込んでいる、ということか。どうしよう”

 なんで煉瓦製の皿を使ったのか。そうだ、ガラスが出来る千五百度の温度に鉄が耐えられないと考えたからだ。炭素を含んだ鉄はガラスよりも低温、千二百から千三百度ぐらいで融けるから、容器にならない。そう考えて、煉瓦皿を作ったのだった。

 今作ろうとしているソーダ石灰ガラスは千度で出来る。鉄の皿でも耐えられるはずだ。


 村の鍛冶に頼んで、縦横が三十センチ、四十センチ、高さが二センチ程の鉄皿を作ってもらった。曲がった農具を直す程度の技術しかないので、多少歪んでいるが、構わない。ついでに直径四センチの鉄の円筒を作ってもらった。円筒は型抜きに使う。こちらは真円しんえんになるべく近づけたいので、丸木の型に当てて成型してもらった。


 改めて鉄皿に材料を敷き詰める。炉の中に入れて、フイゴを動かす。簡易温度計の銅が融けない程度に火力を調整する。


”お、融けた”


 皿の中の石英砂が、融けて液体状になった。ちょっと皿を揺すってみる。波打つ、という訳には行かない。強い粘りがあるという感じだった。少し柔らかくしてやるために温度を上げた。


もういいかな、皿をゆっくりと炉から出す。

 鉄の型抜きを使って、五十程の丸い型を押す。十個も型を押さない内に手を火傷しそうになる。手拭てぬぐいで型抜きを巻き、続ける。後半、ガラスが硬化してきたので、もう一度炉の中に入れて、残りの部分も型押しした。


 冷めるのを待って、型抜きをする。薄くなっている部分は、石でこすり、鉄皿に落とした。五十個の丸いガラスが出来た。




 次は、このガラスをレンズにする。老眼鏡ろうがんきょうの需要が多いと思われるので、まず凸レンズを作ることにする。


 ガラスの場合、焦点距離しょうてんきょりとレンズの曲率半径きょくりつはんけいがほぼ等しいことを片田は知っていた。そこで、背嚢はいのうに入れてあった巻きまきじゃくで、まず半径十センチの円弧を木の板に描き、それに沿って鋸で切る。これが焦点距離十センチのレンズの型枠になる。木に十と書いておく。


 次にロクロの上に煉瓦れんがを置き、水車からロクロに動力を与える。回転する煉瓦に石を押し付けて削る。研磨剤けんまざいとして、石英砂せきえいさを入れる。

 時々、型枠を当てて、必要なカーブになるよう調整する。これで研磨台が出来た。

 煉瓦は摩耗まもうが速いかもしれないが、石で研磨台を作れるようになるまでは、これで代用することにした。


 研磨台の窪みに石英砂を少し入れて、ガラスを押し当てる。両面を削り、粗いレンズが出来上がる。

 まだレンズは半透明なので、水を付け、太陽の光で焦点距離を測ってみる。木の板から十センチほど離した所で、上手く焦点が収束した。

 研磨台に溜まった石英砂の中の粗いものを皿に取り、細かい砂のみでさらに削り、透明になるまで仕上げをした。


 同様にして、焦点距離二十センチから八十センチまでの研磨台を作り。さらにレンズを作った。




「ほう、これが一番よくきょうが読める」好胤こういんさんが言った。

「好胤さんは、左目が三番、右目が四番ですね」片田はそう言って、三番と四番のレンズを取り出し、試作品の眼鏡枠に嵌め、パチンと音をさせて、押さえ枠を被せた。眼鏡枠の両側に付けた小さな鉄輪に紐を通して、その紐を両耳に掛けてもらう。

「お経を読んでみて下さい」

「どれ」そう言って好胤さんは眼鏡を掛けた目で経本を見た。

「読める!これはいい。これで夜でも文字が読めるようになる。これは凄い物じゃ」

「どうやったら、こんなことを思いつくんだか。大したものじゃ」

「その眼鏡、興福寺の方々に買ってもらえますかね」

「売れる!これならば、十貫であっても、買うと言う者はおるじゃろう」

「いえ、そんなに高い銭を取ろうとは思っていません、まず、二百文くらいで売ろうと思っています」

「二百文じゃと、それでいいのか」

「はい、生活に必要なものでお金を取ってはいけない、とおっしゃったでしょう」

「確かに言ったが」

「大丈夫です。興福寺の偉いお方達には、十貫、二十貫で買ってもらえる方法を考えてありますから。贅沢品ぜいたくひんとして買ってもらいます」

「何を言っておるのか、わしにゃあさっぱり解らん」

 片田は微笑んだ。


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