表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒白のヴェンジェンス  作者: ロウボ
8/8

第七話 決着

 アレは不気味だ、アレは異質だ、アレは歪だ、アレは邪悪だ、アレは……ヒトではない。


 目の前の男を見て感じ取った、感じ取ってしまった……。

 アレは危険すぎる、アレをミレニア様の側に置くなど断固として許容できるわけがない。

 私はアレに気づかれないよう慎重に魔力を練る。


 アレを――殺すために。



--------------------------------------------------



 ノイは一昨日ミレニアに教えてもらった名称――魔眼の力を使いファニエールを視る。

 

 ……あの魔力のうねり、今までより強い大技を撃つつもりだろう。あんなのをまともにくらえば確実に魔力障壁が壊れ、最悪体が真っ二つにされ死ぬだろう

 

 流石に殺す気は無いだろうが、あの魔術にはそれを感じさせるほどの圧力を感じられる。そもそもそんな危険なものを人に向けて撃とうと思った時点で正気を疑うが。


 まあ、今そんなことを考えていても状況は変わらない。一刻も早く対処しないと次の瞬間にはあの世行きだ。


 そんな無意味な思考をしている内にファニエールの魔力はどんどん高まっていき、そして爆発した。

 ――来る!!


 「魔技『狂嵐(きょうらん)集破斬(しゅうはざん)』!!」


 ファニエールから放たれた風の刃はものすごい速度でノイに迫っていく。それを防ぐために半ば反射的に、無意識に氷の壁を十枚作り出して迎え撃った。だが次の瞬間、風の刃と氷壁はぶつかり一瞬で五枚の氷壁が砕け散り、六枚目も一秒も満たずに砕け散る。そして七枚目八枚目九枚目も風の刃によって砕け散った。最初の五枚よりかは壊れる速度は落ちているが、それも誤差の範囲だろう。このままでは確実に十枚目も破壊される。


 ただしさっきとっさに作った氷壁は、速度と確実性を重視したせいで耐久面は心許ない。

 だからとっさに作った氷壁で時間を稼ぎつつ、その稼いだ時間で耐久面を高めたモノを作り出せばどうなるか。


 ノイは十枚目の氷壁が破壊されるのと同時に自分の体をすっぽりと隠せる大盾を生み出す。

 そして次の瞬間、風の刃と大盾は激しく衝突しものすごい衝撃が大盾を通じて伝わってきた。


 「くっっ!」


 風の刃も大盾も最初の内は拮抗していたが、徐々に大盾が地面を削りながら後退していく。

 このままいけば風の刃は氷の大盾を破壊して致命的な一撃を与えるだろう。ならまだ余裕のある今の内に風の刃に対処した方が良い。


 ノイは大盾を支える腕と足にありったけの力と気合を込めて大盾を押し出す。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!」


 そしてそのまま大盾を――薙ぎ払った。


 大盾によって弾かれた風の刃は大きく横にそれてそのまま壁を大きく削り消失する。そして風の刃を弾いたと同時に大盾は大きな亀裂が入り崩壊する。ノイはそのあまりに大きな破壊力に瞠目する。


 「おい!相手を殺さないってルールじゃなかったのか?今のは完全に殺しにかかってただろうが!」


 「……なんだお前は」


 「は?」


 突然突っ込んで来られてもいいように氷剣を生み出してファニエールへと視線を向ける。するとなぜかファニエールはまるで理解できないモノを見たかのような眼差しでこちらを睨みつけていた。


 「先程まで放っていた異質な気配が噓かのように一瞬で霧散した……。一体何なんだ、何者なんだお前は!?」


 意味が分からなかった。異質な気配に何者なのかという問いノイは本気で意味が分からずに疑問符を浮かべる。ただ何者なのかという問いになら応えることができる。


 「はぁ?俺が何者かって?そんなの――俺は俺だろ」


 「ッッッ――!」


 答えが気に入らなかったのかファニエールは真っすぐに剣を構えて突っ込んできた。

 ノイはそれを冷静にいなして背後を取りその無防備な背中に一撃入れる。

 ファニエールは小さく呻くと振り向きざまに攻撃を加えてくる。だが、ファニエールの苦し紛れの攻撃も余裕で受け流した。


 そしてふと気づく、あの大技を撃った前より格段に攻撃を受け流すのが楽になっていた……。恐らくさっきの風の魔術を防いだのと魔力を大量に使ったせいで焦りが生じたんだろう。

 ファニエールは形勢が不利なことを察したのか大きく後退する。


 「いろいろ聞きたいことがあるんだが……まぁ後にするよ。それで?お前もう結構きついだろ。諦めて降参する気はないか?」


 「はぁ、はぁ、っ黙れ……!」


 気丈には振舞っているが余裕が無いのが丸分かりだった。魔力も底をつく頃だろう。


 「警告はしたからな?」


 ノイは三本の氷弾を作り出し、わざと体すれすれで外れるよう狙いを定める。


 「ここ!」


 氷弾が発射されると同時に元々生み出していた氷剣ともう一本氷剣を生み出してファニエールへと駆け出す。

 ファニエールに好き勝手に動き回られないようにファニエールの上左右に放った氷弾はどんどんと迫っていく。

 避けなくても当たらないと分かったのかファニエールは待ちの姿勢を取った。


 狙い通りファニエールが動かないのを確認すると。ノイは両腕に持っている氷の双剣の一本をファニエールに向けて投擲する。

 投げた氷剣はファニエールに吸い込まれるように向かっていきそして、弾かれた。

 これまた狙い通り。うまくいきすぎて何か怖いものを感じるが気にせず切りかかる。今のファニエールは氷剣を弾いたことによってほんの少し隙が生じている。そこを上手くつく。


 氷剣がもう少しで届くというときに不意に、ファニエールの手に魔力が集中しているのに気付いた。

 至近距離で魔術を発動させる。自分ごと巻き込みかねないファニエールの暴挙に一瞬動きが止まる。そして……。


 『ウィンドバースト』


 「ぐッッ!!」


 ファニエールが放った魔術はノイとファニエールを巻き込み爆発する。その反動で両者共にかなりの距離を正反対にぶっ飛んだ。

 爆発の衝撃が抜けきりノイとファニエールは立ち上がる。


 「これ以上お前の好きにさせたら私の魔力が持たないと判断した。だからこうさせてもらったぞ」


 「だからって選んだ手段が自爆かよ。正気じゃねぇぞお前」


 「バカかお前は、いくら余裕がなくともそんな自暴自棄のような真似をするか。その様なことをしても無駄に魔力を散らすだけだろう」


 「ならどうやって……あそこまでの至近距離ならかわすなんてできないはず……」


 そう言っている途中で気づくファニエールの周りに風に変換された魔力が漂っているのに。


 「風の障壁か……!!」


 上手い使い方だ。魔術が炸裂するその前に予め風の障壁を展開することによって上手く衝撃を受け流したのだろう。ただ無茶をした反動かその場から動こうとはしない。


 ノイはファニエールに動く気配が無いのを確認すると新たに氷剣を一本と氷弾を数発作り出す。ファニエールはそれを見て顔を歪め、


 「チッ、またか」


 「安心しろよ。同じ手を二度も使うほど俺はつまらない人間じゃねぇよ」


 今度はしっかりと当てるつもりで氷弾を一発づつファニエールへ放つ。高速で迫る氷弾を当初の速さではないもののファニエールは危なげなく左回りで避けていき俺に近いづいてくる。


 消耗しているとはいえ尚も俊敏に氷弾を避けていく。やはりあの速さで動き回られては当てるのは至難の業だろう。だが、()()ぐらいはできる。

 ノイはファニエールが誘導地点に来たのを確認した後、自分の頭上に巨大な氷塊を出現させる。流石にこの大きさに驚愕したのかファニエールは接近するのを止め様子見の構えを取り何が起きてもいいように全身に魔力を巡らせて万全の構えを取った。


 このまま強行すればそれで終わりだったのだがさすがにそこまでファニエールは甘くはなかった。ノイがこの氷塊を生み出したのはファニエールの足を止めさせるために作ったものだ。もちろんこのまま氷塊放ってもいいがそれだと少し効果は薄い。だからこうする。ノイは頭上の氷塊を大量の氷弾に変えファニエールへと向ける。


 「クソッ!」


 『アイシクル・レイン』


 放った大量の氷弾は無差別に降り注ぎそして止んだ。氷の雨が降り注いだ場所を見てみれば、所々に氷の破片が散らばっており幻想的な空間を生み出している。ファニエールの方を見ると防御の姿勢を取って被害を最小限に防いでいた。


 全くの無傷という訳にはいかないだろう、少なくとも数発は当たったはずだ。ノイは魔眼でさっきよりも減ったファニエールの魔力量を視る。

 これぐらい減れば魔力障壁を破壊できるだろう。ノイは氷剣を構え直し罠になりそうな氷片を適当に見定める。その様子を見ていたファニエールは怪訝そうな声色で、


 「お前、これだけの魔術を行使しておきながら疲弊した素振りすら見せない……。お前本当に人間か……?」


 「心外だなっと言いたいところだが、俺だって自分自身の魔力量には疑問を抱いてるよ」


 ファニエールは訝しげな顔をしながら膨大な魔力量について問いかけてくる。自分自身の魔力量についてノイはさほど理解できている訳ではない。ただ師匠に言われるがまま修行をしていたらいつの間にか膨大な魔力量が身についていた。そして固有魔術とも汎用魔術とも違う特殊な能力も。


 「ただ、例え自分が人間じゃなくたって、普通とは違う特殊な能力を持っていたってどうだっていいんだよ俺は」


 ――俺の復讐の邪魔さえしなければ……。


 足に力を入れ一思いにファニエールへと駆け出す。急に突っ込んできたせいか、虚を突かれたファニエールは慌てて騎士剣を構える。そしてそのまま前に踏み込み騎士剣と氷剣は甲高い音を鳴らしてぶつかり合う。


 一合二合と打ち合うが次第にファニエールから余裕が失われていく。隙を突かれたというのに一時的とはいえ対応できていたのだから見事と言わざるを得ない。ノイは剣戟の途中瞬間的に思いっきり氷剣に力を入れてファニエールを押しのけた。


 「なっっ!ぐッッ!!」


 押しのけられ体制の崩れたファニエールへとノイの蹴りが叩き込まれる。そして蹴られたファニエールは五メートルほどぶっ飛び、地面と接触する瞬間受け身を取って体勢を立て直す。そしてそのままノイに向かって駆け出そうとした瞬間、仕込んでおいた魔術を発動させ、散らばった氷片がファニエールの足を絡みとる。


 「くっっ!足が……!」


 ファニエールが氷に気を取られているうちにノイは氷剣を構えてファニエールへと近づく。今から氷片を振りほどいても回避できないと判断したファニエールは姿勢を低くし受けの構えを取った。ファニエールの目算ならファニエールの目算では多少不利な状況とはいえ、問題なく防げるはずだった。だが……。

 ノイの氷剣はファニエールの騎士剣へと接触し、ファニエールごと弾き飛ばした。


 「はっっっぁ?」


 このような状況はありえないはずだった。例え弱っていたとしても先程まで剣を交わしていたのだから膂力に関しては互角のはず。だから人一人をしかも力が互角の者を弾き飛ばすなど不可能。しかし現実としてファニエールは弾き飛ばされている。その理由は魔力の再分配による爆発的な膂力の上昇。ノイは魔力障壁維持に割いていた魔力のほとんどを身体強化の魔術に再分配してそれを実現していた。


その再分配によって上昇した膂力に弾き飛ばされたファニエールは地面を二、三回跳ね転がり壁と衝突しようやく動きを止めた。


 「かはっ!一体……何が」


 「俺の勝ちだ、ファニエール。降参してくれ俺は人をいたぶって喜ぶ趣味は無い」


 ノイはゆっくりとファニエールへと歩を進め氷剣を突き付け、自身の勝利を告げる。


 「まだ、だ……まだ、私は……!」


 「いいやもう終わりだよ」


 ファニエールはノイのその言葉を聞いた瞬間嫌な予感を感じその場を跳び退ろうとした――その瞬間突如として後ろから伸びてきた氷に全身を覆われて拘束された。必死になって脱出しようと試みても拘束が思った以上に強く指先すら動かせない有様だった。


 「な!?こんなのいつの間に……」


 「さっきお前が弾き飛ばした氷の大剣あるだろ?あれを使ったんだよ」


 答え合わせをしているつもりなのだろうか、なんてことの無いようにこの意味が分からない状況を淡々と語る。説明されてもなお理解出来ない、いや説明されたからこそ訳が分からなかった。一体どうやったら氷の大剣で人一人を拘束できるというのだろうか。――いや、もしかすると……。


 「魔力密度操作による過剰分の魔力を使った氷の生成……?」


 「正解だ。あの大剣には許容限界ギリギリまで魔力を注ぎ込んだからな。お前ひとり捕まえるぐらいの氷の生成なんて訳ないさ」


 「…………」


 ファニエールは深く考え込む、これからどうするべきかを。普通の感性をしているならここで諦めて降参するだろう。だが――、


 「わた、しは……!、まだ……!!」


 ファニエールの体は幾度も行使した固有魔術の負荷でボロボロだった。だがファニエールは痛む体に鞭を入れて、動かせない手足に力を込めてなおも足搔く。絶望的な状況の中なおも足搔くその姿を見たノイは一瞬驚愕した表情を見せすぐに取り繕う。そして、


 「なんでそんなボロボロになっても諦めないんだ?なんでそんな状態でもまだ立ち向かえるんだ」


 ノイの中にいつまでも焼き付いている記憶があるファニエールのように傷だらけになりながらもなおも足搔く人の姿。だから気になった。どうしてそんなことができるのかと。


 「――決まっている。ミレニア様の安寧を……貴様のような得体の知れない物から守るためだ!!」


 「……」


 覚悟が宿った眼をしていた。何があっても、例え己の命を投げうってでも主人を守るという強い覚悟が。ノイは経験上知っている、この目をしている人間はどんなことがあろうとも自分を曲げないことを。だけど……。


 「お前が何で俺のことを殺す気で嫌ってるのかは知らない。だけど俺の目的を果たすためミレニアの力が必要だ。だからお前が嫌っているっている理由で諦めるつもりは毛頭ない」


 ファニエールは怪訝そうな顔でこちらを睨んでくる。それはそうだろう、ノイだって何でこんな長々と話をしているのか訳が分からなかった。今この瞬間にも魔力障壁を割ればノイの勝利が確定してこんな話をする必要もなくなる。だがノイはここでファニエールと話をしなければいけないと直感的に感じ取っていた。


 「でも、力ずくでっていうのも俺は違うと思っている。だから――俺を見ていてくれないか?」


 そう言われたとたんファニエールの表情は怪訝から困惑した表情に変わった。


 「俺がこの場でどんな綺麗ごとや耳障りのいい言葉を言ったってお前は信用しないだろうし納得しないと思う。だからお前が俺を信用できると思うようになるまで見ていてくれ。お前にとっては不本意なことかもしれない、だけど俺にチャンスをくれないか。お前が大丈夫だと思えるようになるまでの時間が欲しい。頼む!」


 そう言ってノイは頭を下げた。観客席から見れば訳の分からない行動だろう。だがいまのノイにとっては自分の気持ちがファニエールに伝われば人にどう思われようがどうでもよかった。


 「…………」


 ファニエールはうつむいた状態で数秒間黙り込みそして――


 「分かった……降参する……」


 そう言うとファニエールは気力で保っていた意識を糸が切れたかのようにぷつりと暗転させる。


 「勝負あり!ファニエールの気絶による戦闘続行不能により勝者ノイ!」


 こうして学院長の宣言によってノイの勝利となり決闘の幕は降ろされた。


 


 


 

 




 

<補足>学院長は魔道具の力で二人の会話が聞こえていますが、観客席からは聞こえていません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ