第8話 やっかみ
「今日も頼むぞ、フー」
「ホッホー!」
商人アントンに二度ほど狩った魔物を届けた後、遅い昼飯を食べるが、この世界のパンもなかなかいけるな。水筒からグビっと、水を飲み終え立ち上がりカブトを探す。
「ウオリャー!」
今日も絶好調。ボトッ。ボトッ。ボトッ。森の掃除屋フーさんも好調です。
「そっちにいったぞー!」
うん?近くに冒険者がいるな…この声聞き覚えがある、あのクソガキ達だ!
「逃げるな、このウサギ」
「ああー…また逃げられた」
残念、ザマーす、内心ほくそ笑んでいる。
ボトッ。フーさん容赦ないです。さっき逃げ切ったウサギだな…せっかくガキ達から逃げられたのに。止めを刺して振り返ると、クソガキ二人が詰め寄ってきた。
「おい、オッサン。俺達の獲物をとるんじゃねえ!」
オッサン呼ばわりされて、某強い憤りを感じておりまする。しかもこいつらこないだ割り込んだし、煽ろう。
「俺達の獲物!?その割にはまた逃げられたとか聞こえたぞ」
「うるせー!あの後仲間が殺るつもりだったのに、その鳥に取られたじゃねぇか!!」
「ちょっとセージ、リョータやめなさいよ!」
後ろから女の子達が止めようとしている。面白いしもっと煽ろう。
「ああ、そうだったのか?それは悪いことしたな。ほーら、返すぜ!」
悪意たっぷり含めた声で言いながら、素材袋からウサギを投げた。
「なんならもう一匹やろうか?」
「てめー。喧嘩売っていんのか?おいリョータ。このオッサン、ボコボコにしようぜ!」
「おお、その鳥のおかげで結構金持ってそうだしな!」
「リョータにセージ!あんた達完全ないいがかりじゃない!ほらアンナも止めて」
「2人とも喧嘩や私闘はギルドの規約違反です。それに盗賊まがいのことは止めなさい」
女の子達はまともそうだな。
「これは喧嘩でも強盗でもねーよ。稽古だよな、リョータ!」
「そーだ、おいオッサン!俺達が稽古つけてやる。その剣を抜きな!」
セージとリョータが剣を抜いたので鞘ごと刀を構えた。
「稽古だから刀は抜かんよ。それに二人とも構えがひど過ぎるぜ」
「ふざけんなよ、てめー!」
「リョータ挟みうちにしようぜ!」
二人は構えからして素人、その辺のガキが冒険者に憧れて剣を持ったのだろう。
「さあ、参れ!」
剣の世界では師が弟子に対し稽古をつけてやるから参れと号令する。これを目上や他の同格の前でやると侮辱と受け取られるが、そんなことをこいつらは知らないだろう。
リョータと言った少年が、左から剣を袈裟切りに振り下ろすが躱して、鞘ごと隙だらけの小手を打つ。バシッ!痛みで剣を落とした。
「いてぇー…」
泣き声を上げてリョータは手首を抑えしゃがみ込んだ。
「残りはお前だな」
セージに詰め寄るとへっぴり腰で、俺目掛けて突いてきた。遅い!突きを払い飛ばし、がら空きの腹に突きを入れる。ドスッ!
「ぐはー…」
鳩尾を突かれたセージは、腹を抑えてしゃがみ込む。
「二人とも女性の前で粋がるのは構わないが、相手を見る目を養うことだ。それと強くなりたいならしっかりと稽古を積むことだ」
俺剣道三段ですからね、剣の素人が束になっても負けませんよ。
「すいません。うちの馬鹿達がご迷惑かけまして」
「本当に情けないです。ほら、セージにリョータこっちに来なさい」
「私達、ヒポイの村の幼馴染で有名な冒険者に憧れルボンの街に来たのですが現実は残酷でした。この10日間、薬草を集めと、時折現れるホーンラビットを狩っていますが、4人がかりで逃げられてばかりでした。魔物がうまく狩れなくて2人ともいらだっていたのです」
優しいなこの子、幼馴染をしっかりかばっているよ。銀髪のセミロングよく似合っていますよ。もう一人の子はショートカットの赤髪ですか。二人とも二重瞼に大きな目、色白で結構可愛い。
ボトッ。……フーさん魔物もいいけど今俺の恰好をつけるターンですよ。
薬草一日集めても一人銅貨60枚程度で先がない。俺は運よくフーと出会えたから金欠は解消しているけど、フーがいなかったらカブト狩りしか思いつかなかったからな。
旅は道連れ、世は情けっていうし聞いてみるか?コウ クリバヤシは異世界転移し、冒険者として生まれ変わった。ウジウジナメクジな性格とおさらばで、剣と魔法の世界を満喫するのだ。
「剣の稽古でよければつけてやろうか?同じ初心冒険者みたいだし」
銀髪のアンナと、赤髪の子が顔を見合わせている。小手打ちしたリョータも俺を睨みながら立ち上がった。残りはセージだが、鳩尾に入ったからしばらく無理そうだな。
「盗賊まがいの私闘を仕掛けた私達に稽古をつけてくださるのですか?」
赤髪の子が俺に尋ねる。
「わが国に旅は道連れ、世は情けって言葉がある。そこの男の子2人の腕では、弱い魔物にも勝てないだろう。俺はコウ、職業は剣士だ。ウサギを落としているのは、オオフクロウのフーだ」
「剣士コウさんにフーさんですね。私はアンナ、回復術士です」
銀髪のアンナ。
「コウさんにフーですね。私はエミリィ、魔術士です」
赤髪のエミリィが続く。
「ほらー、あんた達もこっちに来なさい。コウさんに謝ってから、挨拶しなさいよ」
お腹を押さえていたセージはようやく立ち上がった。
問題はこの2人、まずはきちんと謝罪させるべき、謝罪と反省が見受けられれば、ギルドへの報告は無しにしてやろう。
「盗賊まがいのお前達には人としてすることがあるな。それを行わない限り俺は、お前達2人をギルドへ通報する。見事冒険者追放だな」
「セージ、リョータ。まずはコウさんに謝りなさい。どんな理由があれ貴方達の行った行為は許されません!」
アンナが言い横でエミリィも頷いている。
リョータとセージは俺を睨んでいたが、
「すいませんでした。もうしませんのでギルドの通報は止めてください」
「それは今後のお前達次第だな。2人とも心から反省しているならギルドに通報しない」
「具体的にはどうしたらいいですか?」
「それはお前達が考える課題だ。俺からの忠告は人様に迷惑をかけるな!強くなりたいなら努力することだ!」
日も暮れ始めたし晩飯でも誘ってみるか。聞きたい情報もあるし。
「さて俺は帰るが、晩飯でも一緒にどうだ?4人くらいなら奢るし、稽古もつけよう」
4人は分が悪いので誘いに乗ってくれた。
「合計で銀貨4枚、兄ちゃん今日は調子悪いのか?」
「今日は街をブラブラしていたから狩り始めたのが昼前だった」
「なーんだ。明日もくるのだろ?頼むぜ、兄ちゃんは大事な稼ぎ頭なんだから、毎度―」
4人と待ち合わせ場所は宿泊先リカバーの食堂にした。
「女将さん、急で悪いですが夕食、4人追加出来ますか?若いのでいっぱい食べそうです。料金は先に払います」
「大丈夫ですよ。腕を振るいますので大銅貨5枚でどうですか?」
「分かりました」
すぐに四人組が食堂にやってきた。
「いらっしゃい。準備できていますよ―」
愛嬌よく出てくる女将さん。
テーブルに案内された俺達だがすでに料理が並んでいた。パン、クリームスープ、焼いたボア肉に豆の煮物。シンプルだが量が多いのは若い子向けだろう。
「これ、コウさんの奢りなの?いただきます」
女将さんナイスです。
「話はとりあえず食べ終わってからにしようか」
すでにフーは細切れ肉を啄んでいた。
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今日はもう1話投稿予定です。