第39話 アンナの決意
翌朝、昨夜の疲れが残っているので今日、明日と冒険活動を休みとした。リヤカーを引いたアントンがやってきて、
「今日はいつもよりも多いな…。上位種の素材が混じっている、この骨…。ソルジャー、ナイト、キングまであるじゃねーか!どんな場所で闘っているんだよ」
「そういう訳だ、察してくれ」
「兄ちゃん、昨夜はとんでもねえー死闘だっただろ。荷物持ちに行っていたら俺は死んでいたな。確認する素材があるので預かるぜ」
「ゆっくり確認してくれ。それから今日、明日は休むからな」
「分かった。それじゃー商用ギルド回ってくるよ。毎度―」
昨夜の宝箱に入っていた指輪は未鑑定なのでアントンに渡さなかった。呪われているおそれがある為である。古びた本は200年以上前の物らしいが幸いエミリィが解読でき、パラ、パラっと読んでいるが苦々しげな表情をしていた。
「で、どんな内容だった。まあ読まないでも予想できるが」
「へぇー。じゃあ、私が答える前に予想を教えて下さい」
「闇に落ちた神官の成れの果てだろ。生前深い恨みを残して死んだのは間違いない。男が強い恨みを残すのは、彼女もしくは奥さん、子供を奪われたか殺された。職場を理不尽な理由で解雇されたか、失敗を押しつけられ借金を背負わされた」
「恋人を貴族に横恋慕されていたみたい。貴族が職場の上司を使って嫌がらせをあの手この手と仕掛けて、ついに職場を追われたみたいだわ」
「なるほど、どうせ貴族とその恋人が結ばれて子供でも連れているのを見たのが止めとなったか。自分は職を失いホームレスとなって目撃でもしてな」
「よく分かりますね」
「分かるさ。俺も昔、彼女に二股かけられたことがある。その彼女と相手の男が街中を楽しそうにしているのを目撃した時の喪失感情は半端なかったからな」
「可哀相…。コウさん、二股されていたのですね」
「その元彼女さん、どんな人でしたか?」
アンナ…さっきまで無関心だったのに何故俺の二股話になると途端に首を突っ込んでくるのだ。女の子は他人の情事に興味津々なのは何処も変わらないのか。
「今は相手の男に感謝しているよ。二股するような女を引き取ってくれたからな」
「うわー、嫌味たっぷりの言い方だわ」
「男も女も未だ許してないのですね」
そうだ許せるか!両名市中引き回し上、打ち首獄門だぞ!打ち首の介錯人は喜んで我が務めまする…って、違―う!
「俺の話はもういいだろ…で、その本の後半は恨みと反魂術についてか?」
「二股話嫌なのね…、それで間違いないわ。但しこれは処分したほうがいい、この男大分頭のネジが外れたみたい」
「ならギルドで処分してもらえばいいじゃないか、指輪の鑑定もあることだし。そろそろ待ち合わせの時間だし」
ギルドで【闘魂の盾】メンバーと合流した。素材は今アントンが確認中の旨を伝え、7番窓口に並ぶ。ルーシーが、
「4階でネクロマンサーが出たのですか!それにスケルトンキングも!えっ!?討伐済みですか?」
「これが証拠の魔石です。A級とB級にC級が12個あります。DとEは…」
「うっ、こんなにありますか…。時間がかかりますが宜しいですか?」
「はい、それからこの指輪を鑑定して頂きたいのですが」
「これは!?少々お待ち下さい。鑑定料は銀貨3枚ですが、魔石納品額から支払うことで宜しいですか?」
「はい、それでお願いします」
ルーシーは忙しそうに動き回っている間にパーティー解除の手続きを行った。解散しても【闘魂の盾】メンバーとは昵懇の仲でありたいものだ。
「解散したがこれからも宜しく」
「こちらこそ仲良くしたいものだ。会食はどうする?」
2人に確認すると明日も休みだから今日でいいとのことだった。
「都合が合うなら今晩18時繁華街入り口でどうだ?」
「分かった、18時繁華街入り口だな。今晩は飲むぞ」
会食場所だがこれだけ仲良くなったからその辺の居酒屋でいいのではと思い再び7番窓口に移動した。俺達を見つけたルーシーが、
「皆様大変お待たせしました。魔石1345個で金貨17枚に銀貨6枚となります。また鑑定結果ですがこちらのメモを確認下さい」
メモを見ると、
◇◇◇◇◇
魔力の指輪
呪い無し
魔力10%上昇
◇◇◇◇◇
【闘魂の盾】に聞くと俺達で使ってくれとのことだった。
「エミリィの装備がベストだろうな」
「そうみたいね。ありがたく使うわ」
魔力の指輪で更にパーティー火力が上昇するぞ。
「それじゃー、【フクロウの剣士】また後で―」
ギルドを出たところで、【闘魂の盾】と別れた。エミリィはギルドに古びた本の処分依頼と新たな本を仕入れるので別行動、アンナとルボンの街を歩いている。
「コウさん、少しお付き合いして頂けますか?」
「構わないぞ。何処に行くのか?」
アンナの顔を見るとどこか思い詰めた表情をしているように見える。
「実は武器を新調しようと思いまして、武器屋を見てまわりたいのです」
魔力の指輪でエミリィが益々火力アップするからか。
「回復術士は攻撃がメインではないぞ。パーティーのサポートがメインだ」
「理解しているのですが…やはりコウさんやフーちゃん、エミリィと比べると私の投擲は火力が低いです。アンデットには回復術が有効で役に立てましたが、今後を考えると火力不足は明白です。それに私にも得意な武器があるのです」
「得意な武器?」
「父から教わった弓です。狩人の父は幼い私に短弓を作ってくれて、一緒に狩りに出掛けていました。投擲ができたのも弓の知識があったからです。弓術士のマリアさんが使っているのを見て、武器を弓に新調しようと思いました」
「そうだったのか…」
「父は私が12歳の時、森で狩りに行ったまま戻りませんでした。私は短弓を持って何度も森に入り父を捜しましたが、手がかり一つ見つかりませんでした。そんな私を見て母や姉はアンナまでいなくならないでくれと泣いて懇願されて、弓を置きました。今の投擲だけではこの先足手まといになる。それなら得意な武器の方がいいと決心しました」
「分かった。それでは武器屋を見てまわろう」
アンナが踏み出して心を曝け出してくれた、付き合うに決まっている。3軒ほど武器屋を見てまわったが、彼女は弓の知識が優れている。親父さんはいい腕前だったのだろう。
「なかなか私に合う弓が見つかりませんね」
「弓について俺は分からないからな…」
俺に弓の知識は無い。どうしたものかと思ったが、弓が得意な種族といえばエルフだったはず。師匠はエルフと旅していたって言っていたし、良い弓について聞くのが一番だ。
剣聖上泉信綱は、陰流、香取神道流、念流を学び、陰流を基礎として新陰流を興した。剣術だけでなく槍術や馬術にも長けたと伝わっている。武芸多才な師匠が、弓術を学んでいないとは考えにくい。それに当時は戦国の世で、師匠も何度も戦に参加し、遠距離攻撃に関して知識が無いとは考えられない。
「一人心当たりがある」
「誰でしょうか?」
「師匠だ。幸い明日修行の間に行くことができる」
「師匠さんが?剣の師匠じゃなかったのですか?」
「師匠は武芸多才で多くの技能を修得している。それにエルフと旅したことがあると言っていた。弓に関して何か聞くことができるはずだ」
「剣だけでなく弓まで才能があるとか凄い方ですね。エルフは人との交流を結ばない種族です。エルフと旅をしたなんて…」
こっちの世界あるある話で俺にはわからない知識だ。エルフは人と交流しないか。まあ、この世界の知識はゆっくりと深めればいい。
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