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獣人をモフる魔女

作者: 雨森あさひ

 私は最近あることにはまっている。

 一緒に旅をしている獣人をモフることだ。

 今日もいっぱいモフモフした、そのいきさつを語ろうと思う。


 まず、私たちのなれそめから。

 旅を共にしている理由は大したことではない。酒場で意気投合して、そのままの腐れ縁なのだ。

 最初の印象は寡黙なとっつきにくい男だった。しかし話してみると口数は少ないがなぜか惹かれるものがあった。獣人の方でも同じだと言う。お互い暗い過去を背負っている同類なのかもしれない。


 秋も終わろうとして、少し肌寒くなってきたこの頃。落ち葉を踏みしめながら私たちは森の中を歩く。

 ザッザッという足音が耳に心地よい。


 「なあ、私は兵士じゃないんだ。もうちょっとゆっくり歩いてくれ」歩きっぱなしで疲れていた私は獣人に文句を言う。

 「疲れたのか? ならもう少し進んでから休憩しよう」

 「もう少しだと!? 足が棒のようになってるんだ。もっと可憐な少女である私を気にしてくれてもバチは当たらないんじゃないか?」

 「ここは魔物の気配がある。休むのはもう少し進んでからだ」


 獣人の体力と警戒心に、私はげんなりした。

 魔法の発達したこの世界ではかつて大戦があった。獣人とは、強靭な肉体を備え、敵を圧倒する兵士となるべく、魔法で姿を変えられた人間たちのことを言う。だから戦闘に適した身体をしている。つまり、彼らは疲れ知らずなのだ。


 獣人が私の体力にまで気を使ってくれていないのは仕方ない。誰だって真に他人の心を思いやれはしない。私だってそうだ。でも、だからこそ楽しいのだ。そこには人と分かり合える楽しみがある。完璧じゃなくてもいい、少しでもお互いに歩み寄ろうとする姿勢が美しいのだ。


 ちなみに、私と共にいるのは犬の精霊を身に帯びた獣人だ。だからモフモフだ。もう一度言おう。モフモフなのだ。


 「そろそろ晩飯にしないか?」私のお腹がぐーと鳴り、発言に重要性を添える。

 「まだ日はある。もう少し進もう」


 私は夕日を浴びた獣人の横顔をまじまじと見つめる。犬の獣人である彼の表情は読めない。しかし、どこか悲しそうにも思えたのは、私の思い過ごしだろうか。


 「もしかして気にしているのか、守れなかったあいつのこと」

 「……」

 「魔物がいたとしても大丈夫だ! 私は常闇の魔女であるぞ」


 私は着ていたローブをひるがえし、魔女であることをアピールした。事実魔女なのだ。しかも、かつて世界を闇の中に沈めた恐ろしい魔女だ。しかし、私の魔女アピールは獣人の頑なになった心を溶かしはしなかったようだ。


 獣人には友人がいた。獣人は戦時中から兵士というより兵器のような扱いを受けていたため、戦争が終わってからは恐れられ、何かと理由をつけて投獄される者も少なくなかった。そんな獣人を人間扱いしてくれた少女がいたのだそうだ。その少女はもうこの世にはいない。獣人はきっと、いまだにその子を気にしているのだ。


 「魔女さん。あんたも可憐な少女なのだろう?」ぽつりと言う獣人は私を見ずに夕焼けに目を細める。


 私のことが心配なのはわかるけれど、もう少し常闇の魔女を、その強さを信頼してくれてもいいと思う。

 私は立ち止まって、もう一歩も歩かない態度を示す。獣人はそれでもお構いなしに先へ進もうとする。私が獣人から離れられないことがわかっているからこその行動だろう。


 ええい、こうなったら。


 私は見事な跳躍を決める。獣人の大柄な体に抱き着くと、モフり始める。モフモフモフモフ。うん、気持ちいい。見事な毛並みである。だが、私が獣人をモフる理由は触って気持ちいいからではない。獣人が触られて気持ちよさそうにしているからである。


 今、私たちの関係が、ちょっと気持ち悪いと思わなかったか? まあこれぐらいのこと恋人なら誰しもやっているだろう。気にしない、気にしない。


 モフられた獣人はその場にへたりこんだ。毛がなければ、頬を紅潮させていたのが見られただろう。


 「わかった、今日はここで休憩を取ろう」

 「うむ。今夜は寝かさぬぞ」


 私たちは顔を見合わせてはにかむように笑った。

 私たちはすっかり興奮していて気づいていなかった。獰猛な魔物が木立の中から虎視眈々と私たちを狙っていたことに。

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