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悪役令嬢で最高の追放後人生を!

作者: 如月霞

「悪役令嬢になって、ヒロインにざまぁされたい、とな?」


何でも(但し現実的にイケそうな範囲で、後からメン倒が起きない限り程度の)願いを叶えてやるという、タダイケ縛りをする謎の白髪碧眼イケメンは、こてんと首を傾げた。


イケメンのポカンこてん首傾げ尊い。


「ざまぁとは何だ?」


「ええと、説明すると面倒なので乙女ゲーム『ドキドキ恋協奏曲(ラヴコンチェルト)☆シャグディラ王立アカデミー』の悪役令嬢に転生させてくれれば大丈夫ですっ!」


私は死んだらしい。白髪イケメン曰く、まだ17歳の高校生で、美術部コミック班の逆ハー女王と言われていた栄光の日々も虚しく、学校帰りに予約していた乙女ゲーを買いに行く途中、浮かれて渡った交差点でボケた信号無視のセダンに殺られたと。


せめて予約していた『聖カミカンデ学園魔術部魔術科召喚始めました』やってから死にたかったなあ。


あ、でもカミ召やってたとしても、他に悠アルと熱エミとバル疾も予約してたから、死ぬタイミング無かったわー。次々予約するから延々ループするわー。死ぬまで死ねないわー。


兎に角、死んだからには仕方無い。


「カミ召カミ召、エルディット王子とラッヴラヴ〜」などと浮かれたまま、すっごい衝撃を脇腹に受けて、『お空綺麗』と思った次の瞬間、この真っ白な空間にいて、目の前の白髪碧眼が『早世した者の悲しみを軽減する為、願いを叶える』って言うから、元に戻してって言ったら『お前死んでるから無理。それ以外』って返されて、だったら一推しゲームの世界に転生しか選択肢無いじゃない?


「ゲームの世界の悪役令嬢とやらに生まれ変わりたいのだな?」


「そうです!『ドキドキ恋協奏曲(ラヴコンチェルト)☆シャグディラ王立アカデミー』のディオネシア・アルテー・バルクルドに生まれ変わりたいんです!」


白髪碧眼イケメンは目を眇めて、斜め下を見た。


「わかった。強くなりたいものを思い浮かべよ。然すれば、汝の願い叶うであろう」


ゆらりっと歪む視界。


待っててね!ラヴアカのみんな達!ディオネシアの悪役令嬢高スペックフル活用で、ヒロインにざまぁされて追放された後、すっごく楽しい充実人生を送っちゃうんだからっ!

目指せ!一推しキャラの白騎士ポリュディクス様とのラブラブ生活〜!

時代は今、追放前に用意したステータスで、追放後に幸せ生活の始まり始まり〜、何だからっ!


ーーーーーー


と、思っていた私がバカでしたーっ!


転生したのは良いものの、精神年齢17歳で、まさか新生児からやり直しとは思っていませんでしたーっ!


女子高生時代に見たテレビCM『お尻さらさら!赤ちゃんニコニコ!』な紙おむつと違って、貴族の娘でも布オムツは漏らしちゃったらぐっちゃぐちゃ。『お手軽便利!栄養たっぷり』な粉ミルクも無いから、同性とはいえ恥ずかしさを我慢しておっぱいにむしゃぶりつくしかなく、泣いたところで思った通りのお世話をしてもらえる方が少なく、自力移動もままならない時期を乗り越えたと思ったら、『良家の子女の常識』というスパルタ教育が始まり、常に最上の結果を求められる。


素敵なドレスを着て、侍女に傅かれ、優雅にお茶を飲んでキャッキャウフフ。時にはお忍びで街に出て、平民の高スペックイケメンとドキドキの出会い。社交会デビューでは私の煌めく美しさにイケメン達の視線を独り占め、お忍び参加の王太子や宰相の息子とラブラブワルツ。な生活は何処へやら。

ドレスは重いしコルセットは痛い。お腹が空いてても食事とお菓子の時間は決まっていて、体調管理ガッチガチ。何とか侍女を説き伏せて街に出れば、着ている服で貴族と見破られ、盗難や誘拐の危機に陥り、助けてくれるのはイケメンではなくゴリゴリマッチョな冒険者や街の自衛団。社交会デビューすれば悪役令嬢面のせいでイケメンどころか優しげな令嬢達にも遠巻きにされ、公爵家バルクルドの名前で何とかダンスパートナーが見つかる状態。


白騎士ポリュディクス様との出会いを心の支えにして、辛いノブレスオブリージュと自分磨きを続ける日々。


「もうだめ。王立アカデミー入学までに死んでしまう、主に心が」

「ディオネ、それ聞き飽きたわ」


私の悪役面を気にしないで付き合ってくれる貴重な友人、アルグリット公爵令嬢ミデイアが美しい所作で紅茶を飲みながら美しい微笑みを浮かべて、だらしなくテーブルに突っ伏した私を、美しく睥睨する。


「16歳のアカデミー入学まで後一年じゃない。貴女と会って10年、5歳の頃から死ぬ死ぬずっと言われるのも飽きたわ。こうやって飽きたというのも飽きたって10歳くらいから言ってるわよね」

「ごめんなさいいいいい」

「それに少し経ったら『大丈夫ポリュディクス様の為に生きる!』って言うんでしょ」

「ごめんなさいいいいい」

「それで、ポリュディクス様には会えたの?」

「未だああああああああ」

「頑張ってるのにね。それだけは本当にかわいそうだと思うわ」


ミデイアが頭を撫でてくれる。いつものパターンだ。


「尊いー!瑠璃色の髪と榛色の瞳の麗しの令嬢が優しくて尊いー!ありがとうございます、ありがとうございます」


ほとほとと涙を流す私を苦笑しながら撫で撫でしてくれるミデイアの優しさで頑張れる。


それにしても、王立アカデミーで第二王子の護衛になるポリュディクス様と入学前に会うべく、両親や祖父母、数少ない友人のつてを頼ってはいるものの、全くエンカウントしない。彼が現れると聞いて参加した園遊会や夜会に現れず、全く彼に関係無いと思われ私が参加しない会に現れる。

アカデミーに入学してから出会うのでは遅い。ヒロイン、イリス男爵令嬢のヒロイン力がどれくらいかは分からないけれど、乙女ゲームの無印とスピンアウトの傾向として、ヒロインをプレイするとヒロインが弱く悪役令嬢が強い。悪役令嬢をプレイすると悪役令嬢が弱くヒロインが無双状態となる。

イリスに出会う前に、攻略対象5名に嫌われるフラグを回避する為の行動と、一推しキャラポリュディクス様と出会って好感度を上げておこうと頑張っているのに……。

ポリュディクス様以外の4人には会えて、少なくとも命を狙われたり、島流しにされたり、呪われたりしないレベルにまで仲良くはなって、好感度キープの為に頑張っているのに。


「ポリュディクス様あああああああああああ!会いたいいいいいいい!」

「はいはい」

「優しい!ミデイア様が野菜いいいい!」

「野菜じゃ無いから」


ーーーーーー


激しくミデイアに迷惑をかけつつ、それなのに優しく相手をしてくれる彼女に支えられ面白がられつつ、何とか入学式にこぎつけた。


そして、入学前にあらゆる手段を使って仲良くなった第二王子の護衛ポリュディクス様へ私の能力全てを使いつつも、鬱陶しくならない様に細心の注意を払いアカデミー生活三年間を最高効率になるように心がけて距離を詰めていく。


勿論ヒロインのイリス嬢も放っておかない。何故なら、様式美ざまぁは大歓迎だが断罪エンドだとディオネシア処刑だから。

私、死亡。

追放されたいのであって、死にたくは無い。死ぬつもりも無い。

目指せ、悪役令嬢追放後のハッピーエンド。

イリス嬢とある程度の親交を行い、私が犯人とされる嫌がらせを阻止したり、誤解を解いたり、代わりに水をぶっかけられたり、落とし穴に落ちたり……。

合間にはイリス嬢相手に築いたクラスメートレベルの友情と、入学前から頑張った第二王子友情関係を利用し、二人が仲良くなるべく、しかし深入りしない様に暗躍する。

気を抜いたら友情エンドになってしまう。


第二王子とイリス嬢がぐっと接近する嫌がらせイベント、階段落ち。

成功で二人の距離は近くなるが、私が犯人となるのはまずいのでイリス嬢が落ちるのを阻止すべく間に入った時には、第二王子にイリス嬢をパスしたのちに代わりにがっつり転げ落ち、一週間生死を彷徨った、らしい。覚えてない。起きた後、お見舞いに来てくれたミデイアから「一週間で復活するなんて、さすがディオネは面白いわねー」と鈴を転がすような優美な笑いと感想をいただいた。


そんな私の全力が実を結び、友情しかない第二王子と私の婚約も整った。親の地位万歳。

アカデミーの学生生活以外に、王家嫁入り教育も空き時間ギッチギチに追加され、何とか捻り出した隙間時間に第二王子の婚約者として許されるレベルのポリュディクス様アプローチを行う。難易度ルナティックカーニバル。


「もうだめだけど、後1日だから頑張れりゅー」

「ディオネ、遂にお昼休みカウントダウンも残り1なのね。感慨深いわ」


明日はアカデミー卒業式。

前日の今日、最後のお昼休みのアカデミーの食堂で私はテーブルに突っ伏していた。

目の前にはお馴染みミデイア。卒業式一ヶ月前から毎日お昼に「後何日」とカウントダウンする私を励ましてくれた野菜、じゃなくて優しい親友。

突っ伏しつつも、視線はミデイアの花の顔に。会話は相手の目を見ないと失礼です。


「それでディオネは明日どうなるの?」

「第二王子に卒業式の最後、婚約破棄されるんですー」

「うん、それね、無理じゃないかしら?だって、破棄される理由が無いじゃない」

「だって、王子とイリス嬢は相思相愛だーかーらー」

「でもイリス嬢は男爵令嬢よ。ディオネみたいにずっと最高の教育も受けていないから正妃は無理でしょう。イリス嬢が側妃になるなら、婚約破棄する必要は無いわ。それに卒業式なんて衆人環視の中、婚約破棄するわけないでしょう?貴女に瑕疵は無いし、王子とも仲が良いじゃない」

「でーもー、卒業式の婚約破棄は乙女の浪漫だーかーらー」

「何度聞いてもわからない浪漫ね」

「ありがとおおおおお。いつも聞いてくれて、ありがとおおおおお。明日までだから、明日には婚約破棄だから。本当に、こんな理解しにくい話を聞いてくれて、仲良くしてくれて、ありがとおおおおお」

「っ!」


ミデイアの顔がサッと赤くなった。

ここでデレ、だ、と?


「ミデイアあああああああああ!好きだあああああああ!尊いいいいいいいい!ツンデレご馳走様です!」


すぱーん!

私はツンデレ様に思いっきりトレーで殴られた。


ーーーーーー


「卒業式の最後に皆に伝えたい事がある」

第二王子、イリアス・バルド・シャグディラが講堂の壇上で声をあげた。

「ディオネシア嬢、イリス嬢、壇上に」

呼ばれて壇上に向かう私とイリス嬢。イリス嬢の横をキープし、彼女の足を引っ掛けようとして出された足や手を、高速かつ優雅に払い退けたり、靴のかかとをめり込ませて撃退する。

残心。

最後まで気を抜いてはいけない。私のラヴラヴ充実追放後人生の邪魔は誰にもさせないっ!


第二王子の横に並ぶ私達。当然イリス嬢が王子側。婚約者である私に遠慮して私を内側にしようとするイリス嬢をうまく誘導出来た。

ふー、危うく、『チキチキ第二王子からより遠くなる競争』が開始されるとこだったぜ。


「三年間のアカデミー生活はとても貴重なものだった。今後、立場は変わるが皆と一緒に過ごした日々はこれからの糧になるだろう。そして、3年の間私を支えてくれた、イリス嬢に皆の前で私の気持ちを伝えたい。イリス・ディル・クレメント男爵令嬢、私の妻になってこれからもずっと側で支えてくれないか?」


キタキター!

いやふぅううううううううう!

叫び出したい気持ちをグッっと抑えて、ぷるぷると震える口元と体に力を入れる。


「はい、殿下」


美少女素直デレありがとうございます!ありがとうございます!

ふと、下にいるミデイラと目が合うと、にこっと微笑んでくれる。


「そしてディオネシア・アルテー・バルクルド公爵令嬢、婚約者であるディオネシア嬢の前で大変失礼な事を私はしている。しかし、ディオネシア嬢と過ごした時間は、ディオネシア嬢の素晴らしさに感心するばかりだった。これからも私と、イリスを支えてくれ!」


あれえ?

こてん、と私の首が傾ぐ。


「ディオネシア嬢、私とイリス嬢は愛し合っている。しかし、ディオネシア嬢の素晴らしさはシャグディラに必要とされるものだ。是非王太子である兄、第一王子や王弟である叔父達に会って欲しい!私から紹介させてもらおう!兄もアカデミーでディオネシア嬢を見て、紹介して欲しいとずっと言っていた」


第二王子の後ろから第一王子がすっと現れ、私の左手をすくい上げそっと唇を落とした。


「ディオネシア嬢、アカデミーでも夜会でも、貴女を見かける度、貴女への気持ちが募っていった。是非私と正妃を前提に交際して欲しい」


ぎゃああああああああああああ!

ありえない方向から流れ弾があああああ!

第二王子の後ろに護衛として控えるポリュディクス様が慈愛に満ちた目を私に投げかけつつ、うんうんと頷いている。

凄い!ポリュディクス様最高!死ねる!尊死ねる!

って!

ちがあああああああああああう!

うんうんじゃなああああああい!


その後、式場から出て王子達に連れて行かれた控え室で、五体投地して涙を流し命を賭して、プロポーズを無効にしてもらった。


ぺそぺそと泣きながらポリュディクス様をずっとお慕いしていたと訴える私に、先ずはイリス嬢が同情してくれて第二王子が味方になり、失礼を承知で控え室に来てくれたミデイラが、その白磁の様な肌を心配で青ざめさせ第一王子に訴えてくれた結果、第一王子も苦笑いしながらプロポーズを撤回してくれた。


そしてそれを見ていたポリュディクス様からは。

「俺は20歳以下は子供に見えてしまうんです」

と、ありがたいお言葉をいただき、私は真っ白に燃え尽きた。

「可愛らしく頑張り屋の御令嬢だと思いますよ」

とも言われたが、25歳のポリュディクス様からすれば19歳の私はお子様。守備範囲外。

死のう。

いや、せっかく19年間色々頑張ったんだから、経験を生かして生きよう。

そうだ、修道院で保護されている子供達のために生きよう。

そうすれば、第二王子の正妃から外され、第一王子に失礼を働き、貴族令嬢としてあってはいけない五体投地を行った事もいつか風化するに違いない。そうだ、そうしよう。


絶望ポーズのまま、ぺそぺそ泣き続ける私の横で、

「ポリディスク様は早計でいらっしゃいますわ」

とミデイラが声を上げた。


「いいですか?確かにディオネ、ディオネシアは今19歳ですが、来年には20歳になるのです。こんな面白ではなくて魅力的で、変わではなくて個性的で、おかしではなくて周囲を笑顔にしてくれるディオネシアですもの、断るのは一年保留にしていただけませんか?勿論、顔が悪人ではなくて少々きつい面差しですが、とても素敵な笑顔を見せてくれるんですのよ」


女神か?いいえ、女神です。

何だか色々言い換えられた気がするけれど、ミデイラの優しさに包まれた!


すっと目の前が暗くなったと思ったら、目の前にポリュディクス様の顔がある。

紫がかったクセのある髪。長い睫毛に縁取られた深い海の様な瞳。健康的な肌。鍛えられた体を包む白騎士の儀式用ジュストコール。

美しい!

私の為にかがんで下さった!

尊い!死ねる!

いや、この瞬間を心に刻み込んで生きる!


あまりの攻撃力の高さにやられ、ぽてしっと倒れふした私。


頭の上でふふふっと笑い声が漏れた。


死んだ。声の尊さに死んだ。


「アルグリット令嬢のお話も一理ありますね」


すっと私の体に手が回されたかと思うと、またしてもポリュディクス様が至近距離に!

起こしてもらえた!

もうなんか、全部、全部注ぎ込まれたんじゃない?私の幸運、もう一生分使っちゃったんじゃない?

ぷるぷると震える私をポリュディクス様が見つめて来る。


「ではバルクルド令嬢、先ずはお友達から如何ですか?」

「ぁぁぁぁぁぁ」


声が出ない私を見て、ミデイラが呟く。


「何で13年ずっと好きで、ずっと追いかけてた相手を前にして声すら出せなくなっちゃうのかしら。私の親友は」

「それはそれは。実に光栄ですね」


まともに声も出ない固まったままの私を抱えたまま、ポリュディクス様とミデイラが楽しそうに話しだした。

錦上添花。

美しい光景ご馳走様です!

もう、お似合いの二人、付き合っちゃいなよ、ひゅーひゅー!

って!

違うから!


悪役令嬢ディオネシア、私の戦いはまだ始まったばかりなのである。

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