最後の妖怪
最後に海が見たくなり、はるばる青森までやってきた。
山男も河女もとうにいない。
孤独にも慣れてきたが、あやつらは我を抹殺しようとどこまでも追いかけてくる。
昔、我は澱みだった。
我を産んだのは人間たちの想念。
想念は外殻となり我は形を持った。
そのうち人間は我々に存在の意味づけをした。
敬われれば我は神になり、恐れれば我は物の怪となった。
我々はその名前に合った姿となる、
人間は我らの産みの親であり、愛しい子供であった。
しかし、世は無常である。
人間達はやがて新たな存在を見つけ、それに夢中になった。
やがて新しい妖怪や神々は世界中を駆け巡り、それに反して我らは駆逐され忘れられていく。
この瑞穂の国に我以外の妖怪はもはやおらんのだろうか・・・・・。
ひょっとして野原には飯綱や狢が潜んでおるかもしれんのお。
潜むべき野原が残っておればじゃが。
竜飛岬というところで、蝦夷の国を俯瞰しておる。
波が高いが、我の目にはしっかりとその島が見えておる。
当時とさほど変わらんように見えるが、あの島にも以前は仲間がたくさんおったのお。
寒いのお・・・・・、芯から寒いのお・・・・・。
奴らの気配を感じた。新しい妖怪どもの気配じゃ。
もう見逃してはもらえそうにないわ。
やつらは我らを捉え、彼らのなかの宇井気なるものに閉じ込めていきおる。
そこでは我らは力を失い、いわば標本となるのじゃ。
人間たちは奴らのことを思い、その呪縛から離れられなくなっておる。
悲しいのお、哀れじゃのお。
哀れなのは人間じゃ。悲しいのは我らじゃ。
我は人間というものが好きじゃった。
驚かせることはあっても、我も我の仲間も人間が好きじゃった。
それがどうじゃ、新しい妖怪どもは人間から金を奪い心を奪い、奴隷としてこきつかいよる。
あやつらは人間を堕落させおる。
我にはそれが口惜しくてたまらん。
そして我の本質は澱みにもどる。
気がつくと我の身体はもうとうに半分消えかかっておる。
じきに姿を消し、皮は宇井気とやらに封印されるじゃろう。
寂しいが仕方があるまい。
新しい妖怪とて永遠ではあるまい。
いずれは我らと同じ澱みにもどろう。




