決戦は4時間目
ひだまり童話館開館4周年記念祭「4の話」参加作品です。
ここのところ、3年2組の給食が足りません。
パンも牛乳も人数分よりなぜか少ないのです。一体どうしてなのでしょう。
4時間目の授業中、ガラガラ、ゴロゴロ・・・他の教室の扉が開く音、それから早々と給食のワゴンを運んでくる音がします。
「他のクラスのやつが、2組の給食を盗んでるんじゃないのか!?」
クラスの腕白ぼうずが言うと、みんなもうなずきました。
「先生! 僕たちも4時間目に給食を取りに行きたいです」
そうだそうだとみんなが騒ぎました。4時間目はみんな、お腹が空いていて気が立っています。先生だってそうです。ここのところ給食が足りなくて、先生は牛乳もパンもない日が続いていました。
「よし、良いだろう。4時間目はここまで。給食係、すぐに白衣を着なさい」
「やったあー!」
4時間目の授業が早く終わって、子どもたちは大喜びです。給食係が白衣を着るとすぐに給食エレベーターのホールへ行きました。ところが、
「あっ、遅かった!」
給食係の子どもたちは3年2組のワゴンがすでに荒らされているのがわかりました。
「これはひどい」
「いつもよりやられてる」
「どこのクラスよ。私たちの給食を」
「わあん、パンが半分しかない」
意気消沈した給食係が、荒らされたワゴンをひいて教室に戻ると他の子どもたちも怒ったり悲しんだりしました。
それで5時間目には、お腹が空いて2組だけは早く下校になりました。
次の日、先生は気合を入れて決めました。
「よし! 今日はもっと早くに終わらせて、ワゴンを見張ろう」
「えー、見張るだけ?」
「先にワゴンを持ってきちゃえばいいじゃん」
確かにそうすれば給食が荒らされることはありません。だけど先生はこう言いました。
「それだと犯人がわからなくて、今度は最後に残っているクラスのワゴンが荒らされる。それでは問題は解決しない」
さすが先生。ちゃんといろんなことを考えているのです。だけどそのために、自分たちの給食がなくなってしまうのは困ります。
「大丈夫、給食が盗まれそうになったら出ていけばいいんだ」
先生が勇ましくいうので、きっと大丈夫なのでしょう。
先生はまだ給食のワゴンがホールに着く前に授業を終わらせました。そして給食当番と先生が物陰からそっとホールを覗き見ていました。
1階から給食のいい匂いが漂ってきて、そろそろエレベーターが動くころです。気が付くとエレベーターホールには1年生の給食当番がお行儀よく並んでいました。それからすぐに、2年生と3年生がやってきました。これで2階のクラスの給食係が揃いました。
エレベーターが開いて給食のワゴンが出てきました。給食のオバサンはそれを並べると、すぐに下へ降りて行ってしまいました。
さあ、誰が犯人でしょうか。物陰から見ている給食当番に緊張が走ります。
まずは1年生、それから2年生が4人がかりでひとつのワゴンを引っ張っていきました。
「1、2年生じゃなかったな」
「じゃあ1組か、3組のやつらか」
しかし1組と3組の給食係も、自分たちのクラスのワゴンだけを引っ張っていって、誰も3年2組のワゴンを荒らしたりはしていませんでした。
「あれ、おかしいな」
「変だな」
その時です。
「あ、見て!」
そこに何か、小さなものが1年生の教室から出てきたのです。
「な、なんだ、アレ!?」
「きもっ!」
朽ちた木の枝のような手足を持つ小さな生き物が、わらわらと20人ほど現れたと思ったら、それらは3年2組のワゴンに群がり、あっという間に牛乳やパンやおかずの鍋を開けて、その骨ばった両手に抱えて持って行ってしまいました。
「あっ、待て!」
先生がいち早く反応して物陰から飛び出しましたが、その変な生物は目にもとまらぬ速さで四方八方へ散って行ってしまいました。
この作戦は大失敗に終わりました。
せっかく4時間目をつぶしてまで見張ったというのに、今日の給食も減ってしまったのです。
ところで、その変な生物は一体なんなのでしょうか。
「1年1組では、パンやおかずを机やロッカーに隠していた子がいたらしい」
5時間目の緊急学級会で先生が言うと、3年2組の子たちは悲しくため息をつきました。給食が少なかったので元気も出ません。
「それで、宇宙船がやってきて食べ物を見つけ、いつのまにか1年1組に住みついてしまったそうだ」
「それって、1年1組の子たちは知ってたの?」
「知っていたそうだよ。でな、その宇宙人たちはだんだん大胆になってきて、隠されている給食の残りだけじゃなくて給食のワゴンを襲うようになったらしい」
「そんな大切なこと、なぜ言ってくれなかったんだ!」
そうだそうだ、と子どもたちは騒ぎました。
「校長先生は、どのクラスでも残菜があるから問題ないだろうとお考えだったようだ」
他のクラスの給食も取られていたのですが、宇宙人のことに気付いたクラスから、早くワゴンを回収するようになったのでしょう。それでしわ寄せで3年2組のワゴンだけが狙われることになったのでした。
「それじゃあ、明日からはどうするの?」
「4時間目が始まったら給食を取りに行こう」
子どもたちはそれで賛成しました。だけど、先生だけは違いました。
「それはダメだ」
「えー!?」
「毎日4時間目がつぶれたら、授業が足りなくなってしまうだろう」
「そんなこと言ったって、先生は給食と授業とどっちが大切なんですか!?」
「授業に決まってるだろうが」
「えー!?」
「いいか。明日こそケリをつけよう! ワゴンが出てきたらすぐにワゴンを包囲するんだ。それで宇宙人が現れたら、先生が追い払う。3年2組のワゴンの給食を取っちゃダメだとわからせるんだ。捕まえて、説教してやる!」
「えー・・・」
「なんだその声は。先生を信用しろ」
今日は先生が大丈夫と言ったのに大失敗したため、子どもたちに信用されていません。
しかし作戦はそれで決まり、みんなは次の日の決戦に備えました。
さて決戦の4時間目。
給食係は白衣を着て、先生と一緒にホールで待っていました。
ワゴンが出ると他のクラスは、給食係の子どもたちがいそいそと持って行ってしまいました。残っているのは3年2組のワゴンだけです。
すると一番近い1年1組の教室から、あの宇宙人たちがわらわらと出てきました。
骨ばった手足としわがれた顔つき。背丈は子どもたちのひざ下くらいの小さなもので、動きが素早いのです。
宇宙人が現れると、子どもたちはワゴンを押さえました。
「やい、宇宙人! これは3年2組の給食だ。お前たちには渡さないぞ!」
先生が勇ましく声をあげると、一瞬宇宙人たちは立ち止まりました。
「お? 俺の言葉通じた?」
先生がちょっと喜びかけた瞬間、宇宙人たちはほとんど見えないくらいの速さで、ワゴンに群がりました。
「お前たち、捕まえろ!」
「はい!」
先生も給食係たちも、鍋の蓋を押さえたり、宇宙人を捕まえようとしたりしました。だけど、宇宙人は思った以上に素早く動いて、なかなか捕まえられません。
「おいっ、こら!」
「このやろう!」
子どもたちも先生も大騒ぎです。先生は給食のスプーンを持ってそれで叩いたり、スプーンを投げたりしました。だけど、宇宙人の方が数が多くて先生ですら太刀打ちできません。
その時、学級委員長がやってきました。委員長は冷静な声で言いました。
「田中君、エレベーターのボタンを押して」
「佐藤さんと鈴木君、ワゴンを教室へ持って行って」
給食係の子どもたちは、すぐに学級委員長の言う通りにしました。田中君がボタンを押すと、エレベーターの扉が開きました。
「宇宙人、コレを見てちょうだい」
学級委員長の手には大きなパンがありました。紙で作ったにせもののようです。だけど宇宙人たちはそれを見ると、嬉しそうに声をあげました。
学級委員長はそのパンをエレベーターの中に投げ込みました。
「そうはいくかー!」
委員長の投げたパンに群がって宇宙人たちがエレベーターに飛び込むと、先生もその宇宙人たちを追いかけて取っ組み合ったまま転がり込みました。
「ボタンを押して!」
先生と宇宙人がエレベーターに入ると、委員長はエレベーターの扉を閉めさせました。
エレベーター前のホールは、先生が投げたスプーンが散乱していましたが、ワゴンはほとんど無事でした。給食係たちは立派に給食を守ったのです。
「さ、給食にしましょう」
給食は無事子どもたちの胃袋に収まりました。久しぶりのお腹いっぱいの美味しい給食でした。
給食が終わるころ、先生が戻ってきました。
先生ごと洗濯でもしたかのように、水びたしでところどころ泡が付いています。それに目の周りは真っ黒にあざが付いていました。
「おう、お前たち、よくやった!」
にこやかに教室に戻ってきた先生に「お疲れ様でした」と言って給食係が給食を準備しました。
「で、どうなりましたか?」
学級委員長が聞くと、先生は給食を食べながら答えました。
「それはもう、大変な戦いだった! 俺は奴らのリーダーを見つけて捕まえたんだが、彼らは見かけによらず力が強いんだ。俺たちは戦いながら給食室になだれ込み、もちろん先生は、宇宙人をちぎっては投げちぎっては投げ、15人はやっつけた。だけど奴らのリーダーはさすがに強くてな、先生は洗浄中の釜に落とされてしまった。大変な戦いだった」
大げさな身振り手振りで説明するのを委員長が冷静に聞いています。
「で?」
「とにかく3年2組の給食に手を出すなと言っておいた」
「で?」
「そうしたら給食栄養士の先生が、予備の給食を宇宙人たちにあげていた。それから、給食後だったら残菜をあげられると言うと、彼らは喜んで1年1組の教室に帰って行ったよ」
「つまり、栄養士の先生が善きに計らってくれたのですね」
委員長が冷静に言うと、先生は頭をかきながら笑いました。
だけど子どもたちは忘れません。宇宙人に立ち向かい、洗浄中の釜に落ちた先生は立派でした。
こうして3年2組の給食は、宇宙人の脅威から守られました。
めでたし、めでたし。