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1-8 悲しい別れ

 そこからは掴まり立ちをマスターし、そしてなんと俺は数か月ぶりに大地に立つことを神から許された。感涙した。


 夜泣きなど一度もしなかった俺が、両の拳を握り締めて泣いてしまった。いやあ、歩けないから不自由していたんだぜ。もう結構片言で喋って周りを驚かせていたしな。


 そして、とうとう悲しい日がやってきた。それは乳離れだ。この日が来るのはわかっていた。究極の滋味との別れ。


 すでに這い這いは卒業し、体は成長している。おっぱいも前ほどには美味しくない。周りの大人も、もう小さな赤ん坊ではないと判断したようだ。


 俺はあまりにも前を向きすぎて、大切な時間を生き急ぎ過ぎたのかもしれない。俺は泣きながら、大好きなおっぱいに別れを告げた。


「さようなら、おっぱい。本当に大好きだったよ」

傍では黒猫先生が大笑いしていたのだが。


「何を言うか。あれだけ、散々飲み散らしておいて、よくぞ言う。一人で四人前くらい飲んでいたのではないか?」


「いいの! 普通の赤ん坊は気にしないかもしれないけど、俺はそれが珠玉なものであるのを知っているんだからね」


 だが、ここからは御馳走の時間だった。猟師の叔父は俺のためにあれこれと用意してくれていた。超嬉しいぜ。


 この御恩はいつか必ず。叔父さんが、よぼよぼになったら、俺が御馳走してあげるよ。料理スキルは両世界を通じて、まずまずのものなのだ。これからも精進するぜ。


「さあ、たんとおあがり」

 お母さんはそう言ってくれたが、最初から遠慮する気など欠片もない。


 こういうのって、赤ん坊は普通まだ離乳食なので、格好だけの儀式のようなものなのだが。だが、俺はスキルで強引に体を成長させていたので、すでに『乳歯』の入手に成功していた。


 さすがに、うちの親もこれには呆れていたのだが。皆が見守る中、俺はスキルを発動した。遺伝子レベルで凄まじい消化力というか、エネルギーへの変換力を持った一族が存在するのだ。


 それは、イタリアでたった一人の始祖から始まったというが、老人になっても朝から油たっぷりの肉を山ほどバリバリいけてしまう特別の遺伝子だ。


 解析されたDNAの一部に、そういう特別な情報があるという。俺は幸運にも、その子孫の一人と出会い、その情報をいただく事に見事に成功した。


 だから、俺は夜の生活でも、いつもパワフルそのものだった。セックスの合間に補給する俺の食いっぷりの良さに女達は惚れ惚れとしたものさ。発動『暴食のミカエル』


 俺のそのあまりの勢いに、他の家族たちが思わずフォークを取り落とした。まあ少なくとも赤ん坊様の食いっぷりじゃあないわな。


 普通はまだ固形物など食わないものなのだ。それに、俺は知っているんだ。この家で、ここまでの御馳走が食えるなんて、叔父の好意が寄せられる年に数回しかない事を。


 今日の主役は紛れもなくこの俺なのだ。文句を言われる筋合いはない。それにどうせ、赤ん坊用の量しか盛ってくれてないじゃん。


「ね、ねえあなた。まだ赤ん坊なのに、この子は大丈夫かしら」

「うむ。俺の子なんだ。きっと大丈夫さ」


 うん、何の根拠も無い信頼をありがとう、父。でも大丈夫なんだけどね。その理由は、生憎な事にあんたの子だからという理由じゃないんだが。


 そして、俺はあっさりと自分の分を食い終わり、じーっと家族用のテーブルの上の御馳走の山を見ている。


「まんま!」

 俺がこの世界で最初に覚えた言葉だ。おっぱいの事もそう呼んでいた。そう言って、ぐいっと皿を突き出した。その真剣そのものの表情を見て爆笑する家族。


「いや、こいつは久々に見る大物だな」


「だって、この子、三ヶ月で他の子の倍以上の目方があったわよ。この子を久しぶりに見た産婆さんが抱いてくれたら、思いっきりよろけていたじゃない」


「アンソニーったら、凄く食い意地が張ってる~」

「すげえ。俺も負けてられねえな」


 見事にお替りをせしめた俺に刺激された兄弟姉妹が頑張ったので、みるみるうちに御馳走の山は片付いていった。そして、俺は叔父さんのところに歩いて行ってお膝に向けて、手からダイブした。


「ありがとー、おじちゃん。ごちそうさまー」

「はっはっ。どういたしまして。いやあ、この子はよく喋る。先が楽しみだなあ」


「いやー、こいつには驚かされてばかりなんだがな。いや、まったくだ」


 そして、その翌日には教会行きを強請った。

「きょうかい、きょうかい~」


「あらあら、アンソニーったら。そんなに神様が大好きなの?」

 いえ、神様の僕たる神父様のスキルが目当てなだけ。スキルっていうか、スキルの一種の魔法だよね。


「仕方ないわね。ミハエル。今日の畑のお手伝いはいいから、ミョンデと一緒にアンソニーを教会まで連れていってちょうだい」


「はーい、お母さん。もう、アンソニー。お前は変な子だね」

 ふふ。兄上、その心配はもっともだ。


 だが、これだけは譲れんね。何しろ何か月も待ちに待ったのだから。お世話かけます。エマ姉さんは、もう当然のように畑の手伝いだ。


 俺も数年後には同じ運命だろう。とりあえずは叔父上に弟子入りして、家への蛋白質の供給源を目指す手もある。


 日本での狩猟の知識もあるのだ。この世界にはないかもしれない高性能な罠を張りまくるぜ。


 歩けるようになったからには、こっちのものだ。とにかく、この世界で通用する強い体を手に入れるためには大量の蛋白質が早急に必要なのだ。


 俺は幼い兄姉に両側から手を繋がれて御機嫌だった。何しろ、一人で出歩くのはまだ許されない。生後8ヶ月になったばかりなのだ。


 普通なら、まだベビーベッドに寝かされているところだ。反対側から歩いてくる男の人が、こちらを見て話しかけてきてくれた。


「おや、もしかしてマリアさんとこのアンソニーかい。もう歩いているのか。早いなあ」

 俺は物問いた気に兄の方を見たが、笑って答えてくれる。


「村長さんところのベルックスさんだよ」


 俺は彼をじっと見ていたが、何か気になるのでちょこちょこと歩いていき、足にキュっと可愛く抱き着いた。そして下から見上げながら、天使の微笑みをプレゼントした。


「こんにちはー」

「おお、こんにちは。いや可愛いなあ」


 いや何ね。何かいいスキルもっていそうなんで、できたら頂こうかと思って。こう考えると子供って便利だなー。


 スキルいただくために知らない人に抱き着いても、可愛いで済むし。子供っていうか、まだ赤ん坊なんですけどね。考える事があざといのは玉に瑕。


 おおっ、これはなかなかの物だ。この世界の『会計スキル』だ。あくまで村レベルだけど、初級編としては悪くない。心の中でガッツポーズ。


 あとは、この人は結構採集に長けているようだ。薬草集めは子供でも可能な作業だし、食料集めも可能にしてくれる。


 なかなか悪くない収穫だった。俺は心から感謝の籠った感じに手を振って彼と別れた。もう少しアクティブに一人で歩き回る事を許されるようになったら、さっそく試してみたいスキルだ。


こういう超消化力のような力は実在しますが、入手して有用に使うのは一難儀ですね~。

この場合はスキル化するよりも、結婚して子孫を作るのが手っ取り早い方法です。

元々食った物がすぐに消化されてパワーになる能力は、人類自体が種族特性として持っているスーパースキルなのですが。その中でも、こんな事をやってのける『超血統』はあるんだものなあ。

超羨ましいです。

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