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1-7 お魔法様

「やったぜ、初魔法ゲット!」

「ほう、それはいいものを貰ったのう。さっそく使ってみるがいい」

 そして、ぶっぱなした魔法は。


『ライト』

 これで夜中にも本が読めるぜ。灯りを見咎められないようにしないとな。ベビーベッドの上で魔法の明かりで真剣に本を読んでいる姿を親に見られようものなら!


 この世界、電気が無いから閉口していたんだ。油で灯す暗いランプはあるんだけど、赤ん坊が本を読むためにつけちゃあくれないからな。


 そして教会の人は、さらに学があった。かなり文章や、この世界の会話力なんかに物凄く幅が出たぜ。将来はこれで女の子にもてる可能性が更にアップだ。


「やれやれ。坊は本当に懲りないのお。どうして、この世界にリーンカーネーションする羽目になったのか、もう忘れたとみえる」


「ギクギクギク~」

 そうだった。あまり羽目をはずすと、この世界じゃあっさり首が飛びかねないぞ。


 自重しろよな。貴族の娘に手を出したなんていったらさ。まだ生まれたばっかりなんだぞ。まだ女に手が出せる年じゃないけどね。


「ねえ、魔法って魔法力みたいな物が切れると使えないの?」


「そういう訳ではない。ライトなんか、どれだけ使ったって困りはせん。だが、この世界に大きく干渉する物を使うと負荷も大きい。世界と契約して、その魔法を使わせてもらうわけなのでな。


 精神への負担がきつくなる。続けて何度も使えぬだろうの。そもそも世界と契約するという事自体が難しいのじゃ。後は世界が自動でやってくれる」


「なんだか難しいんだな。MPとかがあって、それがある間は使えるとか、そういうのを想像していたんだけど」


「MPって何じゃ?」

 あー、逆にわからないのか。そうだな、それってゲームの世界の概念だものな。


「魔法の呪文みたいなのはないの?」


「特に必要はないかの。世界へのオーダーのようなものじゃから。使う資格のあるものが魔法名を唱えると、世界が実行に移してくれる」


 なるほど、コマンド命令みたいなものなのか。だが、まずは魔法を一つコレクション。御機嫌だぜー。ファイヤーボールとかないのかねえ。


「ファイヤーボール」

 唱えたが、もちろん何も起こらない。世界と契約されていない命令は遂行されないのだ。


 個人的には水魔法とか希望だな。どこかで野垂れ死にかかった時、それがあるだけで生存確率が増すし。


 何より、我が家は農家なのだ。水は大切なものだ。ここは日本ではないのだから。黒猫先生の話によると、この村、メスリム村は水に恵まれたいい土地らしい。


 近くに大河があり、それでいて水害はなく、井戸からも水は湧く。山からも素晴らしい湧き水があるようだ。それって絶対にいい酒があるって事だよなあ。大人になってからの楽しみにしよう。


 それから来る日も来る日も、魔法持ちの来訪者を待ち望んだが、当然のように誰もやってこなかった。


 当り前だ。ここはただの農家の集まりの田舎の村なのだ。来るはずがない。ああ、早く大人になりたいと思いつつ、その前にはきっと山ほど畑仕事が待っているのだ。


「なあ、先生。この村で他に魔法持ちの人とかいないの?」

「あ? おるよ」

「本当! だ、誰」


「神父様じゃ。回復を司る福音のスキルじゃ。神父様なら、どこの教会でも持っておるよ。というか、教会の威厳を保つために、それが最低の資格になっている。あとは教養とかじゃの」


「あ、ああ。なるほど」

 そういう政治色の強い配置の訳ね。じゃあファイヤーボールとかは持っていないだろうな。


「そう、露骨にがっかりするでない。この世界には、坊が言っておったような医療の技術は無いのだ。それに冒険者になったら、引っ張りだこじゃぞい。大概は、教会や貴族などが囲ってしまうしのう」


「考えようによっては素晴らしい就職先と言えない事もない。是非獲得したい技術ですな。それで、神父様が我が家を訪れるのはいつ?」


「馬鹿者、そんな機会がある訳がなかろう。甘えるでない。歩けるようになったら自分で行ってこい!」

「そうですよねー」


 世間は赤ん坊に冷たいな。洗礼とかの有用な儀式はないようだ。それで、あのアルスラムさんが、わざわざ家まで祝福に来てくれたんだものな。まあ村の人口なんか知れているしなあ。


 そして、その後も黒猫先生の講義に耳を傾ける毎日だった。なんだかんだ言って、この新しい世界について学ぶ事は実に楽しかった。


 そして、ある日、ついに『這い這い』に成功した。通常は首が座るのは3か月から4~5ヶ月までの間と言われるが、セオリーなんか糞食らえで、スキル頼みに強引に首を座らせた。


 単に体を成長させただけである。赤ん坊にはあるまじき強引さだ。そして同時に、物に手を伸ばす、寝返りなどを強引にマスターした。


 夜泣きなど一度もやった事が無い。男のする事ではないからだ。泣くのは『おっぱいを呼ぶ時だけ』と固く定めているのだ。


 お座りはちょっと手強かった。赤ん坊は頭周りから成長していくので。だが、そこからは早かった。俺は6か月のうちに這い這いマスターの称号を受けた。


 俺は這った。一生懸命に這った。それはもうナメクジのように這った。生憎、怪しげな粘液を残す事はできなかったが。いつの日か、ナメクジからスキルを奪ってその技を手に入れたい。その頃にはもう絶対に歩いているけどな。


「まあ、この子はよく這うわねえ」

「はい、アンソニー。お姉ちゃんがゴールよ」


 よっしゃあ、金髪美少女のお姉さまがゴールやあ。だが、お姉さまったら結構スパルタだな。さりげなく、しゃがんだまま後ずさっていくのだけど。


 だが、俺はスキルを発動した。

『スキル這い這い』


 我がDNAに残る、歴代先祖の内、もっとも這い這いのスピードキングであられる藤原大五郎その人のスキルだ。


 俺は超速のスキルでもって、お姉さまの洗濯板な胸に飛び込み、見事に押し倒すのに成功した。そして浮かべる満面の笑顔。


「うわあ、アンソニー凄い。こんな這い這い見た事が無いわあ」

「いや、たいしたものね。お父さんにも見せたかったわ」


 ふふ。この世界にはない日本のご先祖様のスキルですから。異世界から魂の記憶として持ち込んだ藤原隆のDNAは何故かアンソニーにも見事に組み込まれていた。


 金髪美少女のお姉さまに抱かれながら、俺は満面の笑顔を浮かべていた。いや、赤ん坊はこれくらい天真爛漫じゃなくっちゃな。


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