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2-10 王宮内へ

 近づいてくる王宮、それはまた大迫力のスペクタルだった。

 カツカツと響く馬の蹄の音、そして車輪が石畳を蹴る音がBGMだ。


 映画の音声とは違い、生の音だからな。生演奏のBGMでトーキーの映画を見るかのような迫力だ。その全てが自然体で構成されているのだから、これはもう堪らない。


 しばらく俺はその快感に身を委ねた。

 馬車の窓から乗り出してみていたら、伯爵から声がかかる。


「おい、落ちるから身を乗り出さないように。

 ここで落ちられたら堪らん」


「はーい」

 俺達は前進守備で前が見える位置に移動した。

 いやあ、堪能堪能。


 やがて、馬車は王宮前の門へと着いて停車した。

 この世界は今平和なのか。

 ここは城ではない。


 塀も何というか、ごつい石壁ではなく木製で装飾性の高い、高さ二メートルくらいの細めの素材で作られたフェンスとでも言った方がいいような、向こう側がよく見えるものだ。


 その代わり、歩哨が頻繁に行き来している。


 門も何者かを阻止するといったものではなく、通行チェックのための『ゲート』といった方がいいようなものだ。


「ブルームン伯爵だ。

 本日謁見の予定でまかりこした」


「お疲れ様です。

 このまま、王宮正面に乗りつけて、チェックを受けてください」


「ご苦労さん」


 そして、内部の通路、広くなった馬車道を進んでいった。


 なかなか立派な通路になっており途中で馬車が止まっても、他の馬車が安全に通行できるような広さがあり、また広めの歩道まで完備されている。


 馬車道なので一方通行ではあるが。馬車は三台くらい通れそうな感じだな。


「へえ、伯爵、ここは立派なものだね」


「それは当たり前だ。

 我がサンレスカ王国は富裕な国だからな。


 この通路も各チェックポイントがあって、平民や業者は荷物検査がある。

 何かあれば封鎖する事も可能だ。

 そら、そこにもある」


 伯爵が挙手をすると、そこに詰めている兵士達も挙手を返してくれる。


 なるほど、直接門から王宮の入口へ行かずに、ここはぐるっと回って何重かの警備ポイントを回ってから王宮正面の停車場へと向かうのか。


 さすがは王宮だけの事はある。

 うちの村なんか、ロバが二頭いるだけなのだ。


 時折は彼らも荷馬車を引いてお仕事しているのだ。


 荷物を括り付けて人を乗せていく方が多いのだが、農作物を収めに行く場合は。

 町からも回収に来てくれたりはするのだが。


 貴族の馬車は止められないようだ。

 まあ、その分信頼を裏切るようなおかしな真似をすれば打ち首になったりするのだろう。


 しばらく、あまり面白くない景色が続くのであるが、俺達は初めてで面白いので、チェックゲートの兵士や商人さんなどに手を振った。


 歩いている人は、王宮で働く人達のようで殆ど顔パスで通過している。


 そして、三個目のチェックポイントを通過して間もなく、王宮の正面に着いた。


 白亜の宮。

 正面には大きな噴水が設置された巨大なロータリーで、石畳はアーティスティックな文様を象っている。


 前衛的なデザインなのか、俺には何を表しているのかよくわからない。

 福音書の一説を表現しているのかもしれない。


 そして、降り立って見上げる宮は、高さ二十メートルくらいはある? 


 遠方から眺めた限りでは、この更に上の区画があるようだ。


 コンクリートではなく素材は石っぽいのだが、魔法建築なのか、あるいは魔法素材を用いているのか、かなり大掛かりなものだった。


 こういう技術を入手すると、高収入の建築技師になれるかもしれないな。

 是非欲しいスキルだ。


 いつか俺も家族のために自分の家を持たねばならないのだろうし。

 王都で技師さんとお知り合いになれないものかしら。


「さあ、お前達。中へ行くぞ」


 案内のためにやってきてくれた兵士に挙手をして挨拶をする伯爵。

 俺達も真似をすると、笑顔で答えてくれる。


「やあ、君たちが本日王に謁見する子達だね。

 そう緊張する事はないよ。

 王は気さくなお方だ」


 そして、彼は俺達がまったく緊張していない事に気がついた。


「君達は肝が太いねえ」


「ああ、いえ僕らはただの田舎者ですんで、王様と言われましてもまったく実感がございません。

 それにわたくしはまだ二歳児でございますので」


「え」

 そう言って彼は伯爵を見たが、苦笑いで頷く伯爵に彼も目を見開いた。


「伯爵、その子の手を繋いでいてあげてください。

 ああ、お姉ちゃんでもいいかな」


「大丈夫だよ、兵隊さん。

 このアンソニーは、そのような柔な玉じゃないからさ。


 それよりもこいつが一体王様にどんな口を叩くのか、そっちの方が心配かな。

 うちの弟はとんでもない奴なんだもの」


 兵士は更に口をあんぐりと開けたが、俺は彼を急かした。


「いや、それよりも先を急ぎましょう。

 僕たちが遅れると、伯爵が怒られてしまうから」


「君は大人びているねえ。

 本当に二歳なのかい?」


 全員で頷いてやったので、彼も首を竦めて歩き出した。


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