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2-3 王都へ

 無事に自分の馬車に帰還した俺は雇い主に報告した。


「どうやら、暑かったので外で馬を乗り回していた活発なお嬢様が、窓から自分の馬車に出入りなさっていただけのようです」


「ええい、紛らわしいわね。人騒がせな」

「この国の法律に違反していますか?」


「あ、いや。特には」

「だったら我々が口を挟む事ではないのではないかと」


 車中を苦笑いが満たしたが、まあ騒動は収束した。どうやら俺の雇い主は自分が襲撃を受けたので、少々神経過敏になっているようだ。


「大丈夫ですか スカーレットさん」

「え、何が?」


「人間、あまり通常ではない酷い目に遭うと、それが神経というか精神の負担になってしまう心の病気にかかってしまう事があります。僕くらいドンと構えているといいんじゃないでしょうかね」


「無理を言うな。お前みたいにしていたら、逆に神経が持たんわ」

 すかさずロザンナから突っ込みが入った。


「そんなもんですかね」

 伯爵とミョンデ姉は、うんうんと頷いてくれていた。


 酷いな。二歳児にスーパースキルと二四歳の魂を搭載すると、大体こんなもんじゃないのか? 少々オーバースペックなのは認めるがな。


「それにしても大人びた子ねえ」

「よく食べますから」


「いや、そういう意味じゃないんだけどね。よく食べるとこういう幼児になるのかしら」

 馬鹿な。そんな奴がいたら、俺の方がドン引きだわ。


 そして順調に旅は続き、時折おトイレ休憩で止まる以外は順調に進んでいった。なんと、この区間はパーキングエリアがあったのだ。


 綺麗なトイレも完備されていたし。王都付近は綺麗にという事だろうか。飲み物やお菓子を売るスタンドもあったので、さっそくスカーレットお姉さんに強請った。


 もうこのお姉さんをお財布にできるのもあとわずかだと思うと感慨深いものがある。ミョンデ姉と二人で遠慮なくいかせてもらった。ただでさえ遠慮しないコンビが王都目前でハイテンションになっているのだ。


「いや、本当にいい食いっぷりだわ。もう残りの生涯であなたのような二歳児にお目にかかる事は二度とないでしょう」

「光栄ですね」


 そして最後の休憩でのスタンドにて。

「お姉ちゃん、いよいよ最後のお菓子だよ」

「そうね、心していただきましょう。アンソニー」


 まるで、この世で食べる最後のお菓子のような事を言いながらフォークを取った。今回の菓子はミルフィーユのようなものだ。二人でしくしく泣きながら食べた。


「いい加減にしろ、お前ら。王都に着いたら、そんな物いくらでも食べられるだろうが」


「甘いな、ロザンナ。先なんてどうなるかわかったものじゃない。幼児にとって大切な物は今。お前ら大人と俺達じゃあ、時間の進み方っていうものが違うんだから」

「そうよ~。今この時、この場所で食べられるのは、このお菓子だけなんだから」


「お姉ちゃん、お菓子美味しいです」

「うんうん、美味しいね」

 泣きながらお菓子を食べている俺達を見て笑っているスカーレット嬢。


「もう二人とも、今夜は伯爵のお屋敷に泊まるんでしょう? また御馳走してもらえるわよ。お菓子ならまた王都に遊びに来てくれたら奢ってあげるから!」


「本当? 約束ですよ」

「やったあー」


 伯爵も苦笑いしながら約束してくれた。

「ご馳走なら食わせてやる。明日は王宮だ。だから頼むぞ、二人とも」


「あの、王宮でご飯は出るのでしょうか」

 二人して真剣に見上げているので、伯爵も少し困ったようだ。


「う、うむ。そこまでは聞いておらなんだ。とにかく王が会いたいと言われたそうなので。取るものも取り敢えず来たというだけなので」


 それを聞いた俺達が露骨にがっかりするのを見て、伯爵もかなり慌てていた。

「わかった、わかった。飯くらい交渉してやるから」


 俺とミョンデ姉は可愛くハイタッチを交わした。


 そんな様子を微笑ましく眺めていたスカーレット嬢だったが、俺達の機嫌が直り、お菓子を食べ終わったのを見て言った。

「さあ出発するわよ」


 そして俺達は馬車に乗り込み、王都へと向かった。俺とミョンデ姉は御車台にお邪魔して、その光景を待った。


 やがて馬車は丘を越え、そして見下ろす王都の風景と色とりどりの屋根。昔ながらの城が聳え、なだらかな地形に建てられ、その横を大河が流れてゆく。


 少し高台になっているため、よほどの事がなければ水害で困る事はあるまい。水は魔法で汲み上げているのかなあ。


「わあ、素敵。物語の中の絵みたい」

「本当だ。これは凄いな。村にいたら一生見られないよ」

 日本にいたって見られないな。まるで映画のセットだ。思わず撮影隊を探したくなってしまう。


「ふふ。アンソニー、ミョンデ。王都へようこそ」

 そう言って御者台の後ろの窓から、スカーレット嬢が手を伸ばしてくれた。


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