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1-51 フラムの町

 その日は王都より二つ前の街道筋の町、フラムの町に泊まることになった。さすが、王都から馬車や徒歩で丸一日という素晴らしい立地条件だけあって、よく栄えているようだ。


 町の出入りも賑やかだ。商隊らしき馬車が多そうだ。数メートルはある塀に囲まれて、なかなかに厳めしいが、誰でも入り放題よりはマシかな。


「大きな町ー」

「でかいぞ、サラムが田舎に見える~」

 はしゃぐ幼児にお嬢様も、ほっこりしていたようだ。


「おい、あんまりはしゃぎ回るな。お前達は護衛だろ!」

「おっと、そうでした~」


「まったく、まさかあいつが、あの図体で二歳児だったとは。騙されたぜ~」

 念のために言っておくが、ミョンデ姉は護衛じゃないからな。単に金の交渉で欲望のまま口をはさんでいただけで。


「しかし、こんな王都の近くで馬車強盗なんかが出るんだなあ」


「だから護衛がついているんだろうが。馬で移動して神出鬼没だし、魔法なんかで上手に跡を消しやがるのだ。シーフの検知を胡麻化して奇襲をかけ、足がつかないように皆殺しにして逃げるケースも後を絶たん。


 王都の役人も見回ってはいるものの、鼬ごっこだからな。懸賞金をかけるのが一番手っ取り早いという有様だ」


 あちこちにティムを隠しておいて、盗賊狩りをやったら結構なお小遣いになるかしら。

「おい、何を悪い顔して笑っているんだ? 本当にこのチビときたら」


「い、いやだな、ロザンナさんったら。こんな可愛い幼児の純真な笑いを、そのように言うなんて。きっと心が穢れているんですよ」


「こいつ、いけしゃあしゃあと!」

 だが、お嬢様はそれを見て笑っている。ミョンデ姉と仲良くなったようだ。あんな事があった後だと、うちの姉上ときたら意外と心のケアに役立つ人材なのかもしれないな。


「じゃあ、街へ入ったら、みんなでメインストリートへ買い物に行きましょうよ」

「やったあ」


 お嬢様の提案に一も二もなく乗るミョンデ姉。むろん、俺に依存があろうはずがない。使ってみたい、新スキル。


『値切りの極意』

 このロザンナという女、冒険者としてのスキルよりも、こういうスキルの方が得意なようだ。それはそれで有意義なのであるが。


 一応は戦闘的なスキルとして『短剣の舞』がある。だが最近は宴会芸にしか使っていないらしい。この女はお嬢様の護衛専門で、あまり外で荒事をやるタイプではないのだ。


 どちらかというとマネジメントがメインなのか。だが、甘く見ていると、その辺の男など一捻りにされるだろう。


 お嬢様からは『商人の心得』をいただいたが、こちらは真っ当な商人の矜持みたいなもので、真っ黒な幼児である俺にはあまり役に立ちそうもない感じだ。どちらかというと、ロザンナのような少々黒めな人物の持つスキルの方が合いそうだ。


 町の入り口が近づいてきたので、狂王達は引っ込めてある。彼らは不要な時には収納の中に入れてある。生物ではないので収納できるし、案外と中で寛げるらしい。


 残念ながら人間の俺には真似できない芸当だ。草むしりをサボるのには使えそうな技能なのだが。中にお邪魔できたとしても、ばあやに摘まみだされて草むしりをさせられるのが落ちだろう。


 俺のシーフのスキルを使っているし、もう町が見えているのだ。さすがに、ここで強盗は出ない。他の馬車も多く見かけるようになった。


 俺達も馬車に乗せてもらっている。この馬車は高級仕様で揺れないようだ。どうやら魔法技術のサスペンションを使っているようなのだが。


 仕組みに興味があるんだがなあ。丸々の魔法馬車みたいなのは無いのだろうか。うちはこの馬車だけ買ってティムに引かせるのもあるが、なんか人力車みたいだ。今度『リキシャ』を作って町で走らせてみるかな! もちろん引くのはティムの連中なので、町ゆく人みんなが目を剥くことだろう。


 商隊と一緒なので、可愛く手を振っていたら素通りできた。わけがない。盗賊どもを担ぎ上げたティム五体を連れているので。高さ三メートルに達するゴブリン・リーダーだ。


「ちょっと待て、そいつらは何だ!」

「うちのゴブリン・リーダーですが、何か」


「ゴブリン・リーダーだと⁉」

「そう。このチーム・ブックフィールドのな」


 とりあえず、姉ちゃんと一緒なので、そう名乗っておく。将来、姉ちゃんにはマネジメントをやってもらうといいかもしれん。計算とかそういうものと、交渉・渉外というのはまた別の能力なのだ。


「ああ、すいません。彼らは我々が緊急に雇った冒険者です。身元保証なら、そこのブルームン伯爵が」

「おや、伯爵。あなたの管轄なので?」


「そこのチビ、いろいろ問題はあるのだが、国王陛下に招集されているのでな。悪いが、目を瞑っておくれ」


「は、はあ。このチビが⁉ わかりました。お通りください」

 この王都大丈夫かね。俺は六千に百体もの凶悪な奴らと御一緒なのですがねえ。


 まあ悪い事しにきた訳ではないのですが。単に物見遊山でございます。あとは、スキル泥棒しに? 町の騎士団がええかのう。冒険者がいいかのう。


「エヘヘヘヘヘ」

「気持ちが悪いな、お前」


 おっと、ロザンナが胡乱な目で見ていた。いけねえ、いけねえ。不気味な笑いが漏れてしまっていたわ。なんていうか、お顔にチャック?


「大きな町ですね!」

「ええ、そうよ。ここは、古い町なの。かつてから宿場町として栄え、王都へ入る前の物流基地でもあるわ。王都へ入る前の荷物の集積場でもあるの。おかしな物を王都に直接持ち込ませないように一旦こちら側からの荷物はすべてここで降ろさせるの。だから、凄まじい量の物流と利権がここにあるのよ」


「ふうん。それって絶対に必要な措置?」

「え?」


「今でも、その保安措置が必ず必要でやられているのか、それ以外の理由、利権なんかの理由で規制が解除されていないだけなのかって事」


「アンソニー。お前、本当に可愛くないな。でも、お前の言う通りなのさ。当然、その既得権益を手放すような奴らがいるわけがなかろう。だが、お前は本当に可愛くねえ二歳児だぜ」


 そんな事を言われても困るのですが、まあ日頃は可愛くないのは認めよう。でも覚えておくかな。だってさ、その既得権益にしがみついている連中に便宜を図ってやれば、俺が得する話なんだからさあ。だが、ロザンナはそれを見逃さない。


「お前、顔に性格の黒さが滲み出ているぞ。その歳からそれじゃあ将来が危ぶまれるな」

「おっとっと」

 お嬢様に苦笑されたが、ミョンデ姉ったら、指をチッチッチッと振って言った。


「このくらいで黒いなんて言っちゃ駄目。うちの弟の腹黒さはこんなもんじゃないのよ。まだまだ猫を被っているんだから」


 ちょっ、あんたがそんな事を言うのか。まあ、あながち間違ってはいないがな。だが、お嬢様は、くっくっくと笑うと、さもおかしそうに言った。


「もう、あなた達といると飽きないわねえ」

「皆さん、そうおっしゃいます」


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