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1-50 騎兵隊参上

 幸いな事にミョンデ姉と伯爵は寝こけているので、ばあやともう一体のメイジには二人を守るように言い、他に四体のティムを護衛につけた。


 そして、俺はゴブリンキング五十体を率い一気果敢に攻め込んだ。時速百五十キロオーバーのスピードで。しかし、なるべく軽やかに音を立てず、身も屈め加減で。


「な、なんだあ⁉」

 奴らがそれに気がついた時には、もはや完全に手遅れ。全員見事に馬上から跳ね飛ばされていた。


 ゴブリンキング・ラリアットが見事に決まったぜ。さすがに手加減したけどな。まともに食らわせたら死んでしまう。


 奴らは四台の馬車に三人ずつ張り付いていたが、こっちは総勢五十一騎なのである。もっと増やせるけれども。ゴブリン達は奴らを縛り上げた。縄は奴らがたくさん持っていたので拝借した。


 その間、女性は呆然としていた。何しろゴブリンキングである。普通の人は見た事すらないものだろう。だが、お付きの女性は完全に顔が引きつっていた。


 そして何故か手にいつの間にか隠し持っていたらしいショートソードを手にしている。その顔に浮かんだ絶望は筆舌にし難い雰囲気を醸し出している。


「ねえ、こちらの方は?」

「お嬢さん、何を暢気な事を言っているんですか。下がってください。こいつら全員ゴブリンキングですよ。あ、ありえない光景です。これはマズイですよ」


「え! じゃあ、あの子もそうなのかしら。子供のゴブリンキング?」

「は?」


 そして、彼女はようやく俺を認識できたようで、狂王に抱かれながら片手をあげて挨拶する俺と目が遭った。そしてゴブリンキング達が悪党どもを縛り上げている事にも気がついたのだった。


「はあ?」

 どうやら女性の護衛をしていた女冒険者らしいのだが、なんだか更に面白い顔をしていたが、とりあえずそいつは無視して、お嬢様の方から攻めた。


「わあい、きれいなお姉ちゃんだー」

「待て待て、そこの子供」


 しゃがんでくれた彼女に抱きつきながら、甘え放題の俺に奴は声をかけてくる。お前は後で構ってやるから邪魔をするなよ。


「お前は何者だ。この大量のゴブリンキングは一体なんだ」

「アンソニーと愉快な仲間達に決まっているじゃないか」


「アンソニー?」

 俺は自分を指さすと、続きを楽しむ事にした。


 うーん、ええ匂いやー。女性っていうのは、こういうもんだよなあ。村娘と冒険者しか抱き着いてなかった気がする。


 領主様の娘のフレイラさんは、お母さんって感じだしな。この金髪女性は大人っぽいが、多分十五歳くらいじゃないかな。


「君、アンソニー君って言うんだ。このゴブリン達は君のお友達なの?」

「まあ、そういう事にしておいてちょうだい。君みたいな美人は細かい事は気にしちゃいけないな」


 俺みたいなチビが生意気な口を利いているので、彼女は微笑ましそうに笑っていた。まあこうなるわね。しかし、可愛い子の方は細かい事を言うようだった。


「おいおい、どうなっているんだ。それにこのゴブリンども、なんか変だ。ゴブリンキングって、こんな感じだったか? しかし、どう見てもゴブリンキングだし。しかし、中に一体でかいのがいるな」


 小煩い奴だな。俺はそいつをジロっと見て言った。

「お前、冒険者だろう。何、迂闊に全滅してるんだよ」


「う、煩い。奇襲を受けたんだよ。ここは見通しが悪いからな。奴らスキルで隠蔽していたんだ。真っ先にシーフがやられて、混乱する中で次にリーダー、そしてサブリーダーがやられていった。


 後はなし崩しだった。次々と数を減らされていって皆殺しさ。お前らが来なかったら、男は皆殺しで女と積み荷、そして馬は奪われていたろう。感謝する。しかし、何故ゴブリンキングなんだあ~」


 ふふ。これには深い訳がありましてねえ。あ、伯爵が起きてきた。

「なんだなんだ、これは。アンソニー、お前、今度は何をした」


「騎兵隊ごっこ。盗賊団は全員捕縛したよ。賞金かかっていないかと思って。王都でのお小遣いが欲しいので」

 その言い草には伯爵も呆れかえったようだったが、一応は盗賊を検分してくれていた。


「あの、もしかしてブルームン伯爵なのでは」

「おや、あなたは、ベネディクト商会のお嬢さんですか?」


「あれ、伯爵。その人知っているの?」

「ああ、王都の顔見知りの商会のお嬢さん、スカーレットさんだ。そうか、お手柄だぞ、アンソニー。盗賊捕縛の報奨金はかけあってやろう」


「「やったー‼」」

 むろん、一緒に喜んでいるのはミョンデ姉である。自分の買い物もしたいのだろう。


「これでお小遣いには事欠かないね」

「村のみんなに御土産も欲しいしね」

 それを見た女冒険者は、困ったように頭をかいていたが、伯爵に頼み込んできた。


「ねえ、ブルームン伯爵。頼みがあるのですが」

「おや、君はたしかロザンナ」


「覚えてくれていましたか。あの時はどうも。実は商会の冒険者が私以外全滅してしまいましたので、王都までの護衛をお願いしたいのですが。ここは王都までは、あと一日といったあたりですが。何分、こんな事があったばかりなので、さすがに護衛無しでいくのはね」


 盗賊のスキルを一通りパクってきた俺は、話が回ってくるのを待った。

「いやそのう、このゴブリン達はアンソニーの管轄なのです。私にどうこうするとかは言えなくって。この子がやたら急いでいるので、自分の馬車を置いてきてい」


「お礼、くれる?」

 伯爵の台詞を全部言わせる前にミョンデ姉が話を切り出した。


「え、ええ。それはもう」

 お嬢様は、しゃがんでミョンデ姉と話し始めた。それを見て、ばあやはうんうんと頷いていた。しっかりしている事はいい事らしい。


 まあ、お小遣いが増えるのは悪い事じゃないのだが。どうせミョンデが無駄遣いする気満々なのだろうし。


 そして交渉は伯爵が契約をとりまとめてくれて、魔法金貨十枚でまとまった。僅かな間の護衛にしては破格の条件だ。


 この魔法金貨というのは金貨状の丸い物質でレコーダーのようになっている、一種の簡易な魔道具のようなものだ。各国家でデザインした物があり、色が独特だったり、独特な形があったりする。


 壊れやすい穴あきのものはないらしい。それに魔法で価値とクレジット(信用)の履歴を刻み込み、基本情報は魔法暗号化してロックされる。


 改竄は技術的に基本できないが、金貨のようにその物自体に価値がないため、おかしな真似をすると極刑となる。製造コスト自体は非常に安いのだ。まあお札みたいなもんだな。


 とは伯爵の講義だ。だから、拾ったり盗んだりした魔法金貨を使うと、これを使える店なんかだと一発御用となる。


 身分証とセットでなければ使えなくて、常に所持する人間と中の情報が一致していなければならない。ラスベガスなどで使われるICチップ入りのカジノチップに近い代物だ。


 あれよりも厳格な扱いだが。基本的に落としても情報が確認できればその価値(金額)を再発行すら可能という代物だ。


 チャージタイプのICチップ入りカードのような機能がある。もちろん、勝ちを担保してくれる王国が滅びたら価値はゼロだ。金貨のように希少価値が出たりはしない。酔狂なコレクターはいるかもしれないが。


 まあ地球の技術と一緒で、人間が作ったもので人間が偽造や改竄できないものはないけどね。これを使えるというのも、使う人も使わせる店にとっても、また一種のステータスなのだ。


 地球でいえば、プレミアムなクレジットカードみたいなものだろうか。これを拾ったなら、その町の治安維持をする部署に届けるか、領主館のような役所などに届けるかしないといけない。


 領主がいなければ代官の館か。うちなんかだと村長のところだな。まあ村では拾うどころか誰も見た事がないわけだが。


 盗んだ場合も、やはり抜け道はあるらしい。むろん、バレればヤバイのだが。そういう事を副業にする役人もいるっていう事なんだろう。もちろんバレたら斬首だが、一旦手を染めた以上は抜けられないよね。一生ビクビク生きるのだ。俺なら御免だ。


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