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1-5 黒猫先生

「さて。この世界の事が聞きたいのじゃったなあ」

 お猫様は前足で顔を洗いながら語り始めた。どう見ても、ただの歳をとった猫にしか見えないのだが。


「この世界に名はない。世界はここ一つと信じられておるからな。世界は世界じゃ」


 そういや地球って、いつからそう呼ばれていたんだろう。英語のアースは大地、ラテン語ではテラというが、それも最初から地球という意味だったのかな。


 地球という漢字の組み合わせは中国から来たのか、それとも日本で勝手に作られたのか。日本人は中国文化圏の中では唯一漢字を作っちまう国だからな。


 漢字を発明した元の地域である中国でさえ、もう新しい漢字は作れないとか言われるくらいだから。このコンピューター時代に、漢字の大本の国である中国も、字の簡略化は凄く進めているようだが、それもまた考え物だ。


 漢字の利点である、一目で言葉の意味がわかるという利点がなくなってくるからな。そのへんは日本だって似たようなものなのだけれど。学校で習わなかった、昔の漢字なんて書けやしないさ。


「世界は多くの国に分かれ、そこには王がおる。稀に港や島などは自由都市を形成しておるが、それもどこかの王国の影響を受けておる。そして、この国はサンレスカ王国といって大国で豊な国じゃ。農業も盛んで食料は輸出しておるほどじゃでな」


 よかったぜー。この家もなんとなく農家っぽいが、大きいし、あまり貧乏な感じはしない。もともとが裕福な日本生まれで、貧国に生まれ変わるのはキツイ。


 殆どの道が塞がれちまいそうだ。俺は跡取り息子ではない。将来、労働力として今の家に置いてもらえるのか不安だ。


 ここはなんとか、わざわざリーンカーネーションにまで付き合ってくれた、付き合いのいい自前の必殺スキルを使って人生を切り開きたいものだ。


 この世界でこの能力を理解できる人間は迷える魂の持ち主以外にはいまい。そいつらにだって、おそらくは使えないだろう。


 そんな力が存在する事すら想像できまい。あの世界で俺だけがこっそりと唱えて密かに使っていた科学理論のスキルなのだから。


「この世界は頭の良さと体の凄さと、どっちが優れていると見做されるんだい」


「まあ、それこそ適材適所というものじゃが、明晰な頭脳と精悍な肉体を兼ね備えておれば無難な人生が送れるのではないか? 何せ、王国では王族貴族が幅を利かせているのじゃからのう。お前なんぞ、地方の農家の4人目の子供だ。自分の道は自分で切り開かないとのう」


「なかなか厳しいご時世だねえ。俺はその辺を非常に危惧していたのさ。じゃあ、とりあえず体を鍛えておくとしますか。頑張れ、俺のバイオフィードバック。壮健な体と明晰な頭脳を作るのじゃあ。それでは、おっぱい召喚の儀!」


 俺はフルボリュームで思いっきり泣きだした。ほどなく、家の仕事をしていたとみえる母親が駆けつけてくれた。まだ俺が小さいので、背負って畑の方へは出ないものらしい。


「はいはい、アンソニー。またおっぱいの催促ね。はいはい、今上げますから。本当によく飲むわねえ」


 俺は、たらふくと美味しいおっぱいを飲みつくした後で寝ながら、スキルによる肉体作りに勤しんだ。

 オシメなんてほぼ汚さないぜ。だって勿体ないだろ。口にした、すべての物を吸収していく勢いだった。


 起きたら起きたで、黒猫先生の授業の始まりだ。

「この世界には多くの精霊がおる。お前の魂は迷い魂なのが一目でわかるから、珍しくて寄ってくる者も中にはおるじゃろう。手厳しい奴も中にはおるだろうから、気を付ける事じゃの」


 主に四つ股とかに厳しい評価が? 世の習わしにより自動的に裁判抜きで死刑になったくらいの大罪だし。


「さて、この世界には魔法やスキルなどが存在する。お前の持っているような理屈っぽい自己開発したようなものではない。本物のスキルというものじゃ」


「それは単に『能力』という意味じゃあなくて?」


 あれか。必殺技とか、何か特別の力みたいなもの。俺みたいに『お金を楽して儲ける方法』『女の口説き方』『最高のセックス技術』みたいなものじゃなくて。


 黒猫先生ったらくすくす笑って言った。どうやら精霊は人間の心も読めるらしい。だから悪しき者を見分けられるのか。


「まあ、そういうものではないのは確かじゃな。そういう人間は音に聞こえた人物じゃろうから、すぐにわかるじゃろう」


「へえ、主にどういう人?」

「そうじゃな。貴族はそういう物を血統に取り込みたがるので、そういう力を持つ者は多い」


 ピクっ。血統、つまりDNAに記憶できる能力か。これはコピーできそうだ。だが、そういう人間といかに知り合うかだ。そして能力をコピーするために、俺の能力には一つだけ重大な欠点がある。


「あとは高名な冒険者じゃな。魔法は比較的、多数の物が持っている。持てる才能により、系統は違うがのう」


「その魔法とやらも遺伝するのかい?」

「そうじゃ」

 よっしゃあ。絶対にコレクションしてみせるぜ。


 魔法として実力で覚えるのであれば系統や相性が問題になるのかもしれないが、スキルでコピーした場合はどうなるのだろう。


 俺は今すぐにでも世界の魔法をコレクションしたくって、手足をじたばたさせたが、そんな真似をしたって猫に笑われるだけだった。


「ちくしょう! 俺はこんなにも才能に溢れているというのに、世界はつれないぜ」


「はっはっは。おぬしは見ていて本当に飽きないのう。ほれ、仕方がないだろう。今は、おっぱいを飲んで眠って、体を作るべき時なのじゃ」


 そう言って猫ばあやにシーツを被せられ、耳元でニャーニャーと子守歌のようなものを聞かされて寝かしつけられるのであった。


 また起きてから黒猫先生に訊いてみた。

「ねえ、学校ってどうなっているんだい?」


「農家の子は学校などには行かぬ。家の手伝いじゃ。裕福な農家の子は村の教会に行き字を習うが、ここみたいな零細農家では、それすらもないな」


「そういや、母親から言葉の技能は学んだが、この世界の字は学べていないぞ」

 やべえ。学歴どころか、近所に学校すらなさそうだ。


 この世界には株やギャンブル場もないみたいだし。なんとかして成り上がらないと、早々と人生が摘んでしまう。


 永遠の小作人人生だわ。とりあえず、この家でやってる農作業に関するスキルは習得済みだった。家のお手伝いをこなす技術はすでに身につけられたようだ。これは結構大事な事だ。


「農家の子が目指せる、一番儲かる商売はなんだろう」

「まあ一般的に言って冒険者だが、あれは命がいくつあっても足りないがなあ」


 そう言って猫が笑った。うーん、前世ではあれだけ鍛え上げていたのに、あえなく女に包丁で刺されて死んだしなあ。それも考えものなのだが。


「魔物とかっているの?」


「それはもう仰山な。だから冒険者とかいう仕事もある。だが馬鹿にはできんぞ。冒険者も上級クラスになれば、それはもう稼ぎ放題だ。


 中でもダンジョン探索者は稼ぐが、その分も危険は大きい。いい仲間がおれば別じゃがなあ。当然の事ではあるのだが、おぬし自身も強くあらねば奴らに相手にはしてもらえぬぞ」


 そうかあ、信頼できる仲間を募って頑張るか。いや、その前にスキル集めからかな。最初の資金となる金集めのためのスキルや、あれこれ戦闘に役立ちそうなスキルを入手して。


 命あっての物種だからな。そのうち、どこかで剣とか槍、弓などのスキルを手に入れよう。今のところ、鍬や鋤の振り方しかわからん。これがあるだけ、この世界はマシだ。これだって十分な威力なのだ。


 そのうちにシャベルでも作って売るかな。この世界にシャベルサンボでも流行らせるか。実は東京のパブで飲んでいたロシア人から、そのスキルは手にしてある。元はロシア軍の特殊部隊出身だったらしい。


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