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1-26 人質

 そして、俺達はその急造の岩石ハイウエイを駆け抜けて、山の麓へ着いた。

 おっと、ここでいきなり本隊のお出ましなのかよ。


 てっきり、山の上に追い詰められた叔父さんのいるところへ一緒に追い込んで袋の鼠にするつもりかと思っていたのに。


 地雷原をチートに突破されたんで作戦変更ってところかな。


 俺が一番恐れていた展開になったな。

 人質を取ったという事か。


 今から、お前らはテロリストだ。

 緑の旅団とでも呼ぶか。


 地球の基準で旅団と呼ぶには少し数が多いようだが。

 そして軍勢の前に進み出る一体のゴブリンキング。


「ヨクゾキタ、ニンゲンドモヨ。

 ダガアレヲミヨ。

 オマエタチノナカマハ、アソコダ。

 ナカマヲコロサレタクナケレバ、ブキハステヨ」


 おっと、拙いが人間の言葉を喋るのかよ。

 たいしたもんだぜ。


「だが、断る」


「ヨイノカ?

 スグニコロスゾ」


「やれるもんならやってみろ」


 そして小さな声でメンバーに言った。


「俺が合図したら、全員で一斉に駆けてくれ。

 俺の魔法の効力範囲から絶対に出るな。


 アネッサ、悪いがここはあんたのパワーで押し切ってくれ」


「了解した。

 頑張ってくれよ、おチビ」


「あたぼうよ。

 死ぬんなら、せめてマリアくらいの歳まで生きてからさ。


 いくつになるんだ、エルフ様。

 他の連中も自分の役割はわかっているよな?」


 全員が苦い顔で頷いた。

 中でもストーガの顔は一際苦い。


 こいつは、今から一人だけ40キロを背負って【ゴールまで休み無しの全力登山ダッシュ】をやらねばならんのだ。

 止まれば死あるのみ。


 それがどういう事なのか自分で試してみたかったら、富士山の登山口の裾野あたりで勾配が急になりだすところをスタート地点にして試してごらん。


 素晴しい体験になる事は請け合いだぜ。

 野犬の群れとか暴走族の集団に追われながらの登山なら、よりリアルな体験になるだろう。


『ブレードアップ』『ファストアップ』『スローダウン』『リジェネレート』をしっかりとかけまくっておいた。


 むろん、例の補正付きでだ。

 そして『光の障壁』を発動した。


 そして、さっき喋っていたゴブリンキングを『神々の裁断』で、真っ二つにした。


「今だ、走れー」


 俺は『バブルアタック』をばらまきまくって、襲ってくるゴブリンは動きを封じた。


 数が多すぎて、一時的な足止めにしかならないのだが、それで十分だった。

 周りに来た奴らだけ封じていった。


 数が多すぎると押し潰されるように思うが、ここまで密集し過ぎると奴ら同士でも足の引っ張り合いになっている。


 味方同士で喧嘩している奴らも多い。

 踏んだり蹴られたりしているからな。


 ここでは大物も襲ってきたが、『神々の裁断』を放ちまくって牽制する。


 これも相手が多すぎてリソースの関係上、致命傷になっていない場合が多いがスキルの性質上、いずれかの手足を失ったゴブリンキングやゴブリン・リーダーなんかが続出した。


『光の障壁』は物理障壁ではない。

 悪鬼を怯ませるものに過ぎない。


 叔父さんとアリエルも人質として使うから殺されずに、ただ追い詰められていたにすぎない。


 その役割を終えたのだから急がないと彼らが数の暴力の餌食になる。


 アネッサはフルパワーで、『バブルアタック』で包まれた相手を蹴散らしていく。


 大まかいところは俺が攻撃しているので、アイリーンはアネッサの邪魔をする奴や彼女が掃い切れない分だけを叩いていく。


 アネッサの傍にはアイサがいて護衛や遊撃を担当している。


 ストーガは当然、俺のロバ役だ。

 もう最後の力だな。

 すげえ顔して走っていやがる。


 俺も遠慮せずにヒールとかを、かけまくっている。


 上まで行ったら、こいつはもう進む事も退く事もできまい。

 つまり足を失った俺も、こいつと運命共同体という事だ。


「ええい、走れ走れ、この駄ロバめが。

 こんなところで死にたいかあ。

 ピシー、ピシー」


「くう、この餓鬼~。

 こいつが要でないんなら、今すぐ放り捨てていくものを」


「無駄口を叩くな、ストーガ。

 ひたすら走るのだ、ピシー、ピシー」


 この状況でも笑ってギャグに乗るマリアは余裕あるな。

 さすがは年の功。


「ああ、もう駄目ー」

 アイリーンは既に息も絶え絶えだ。


 遠慮なく俺の強力ヒールが飛んだ。


 アイリーンちゃんよ、女が「ああ~」とか「もう駄目」って言っていいのはベッドの中だけなんだぜ。


 そして彼女は涙目で走り続けた。

 死にたくなければ、走り続けろ!


 まあここは凄い上り坂だからね。

 足元だってかなりの不整地なんだ。


 俺達、地元の狩人だって「よっこいしょ」って言いながら登るんだからよ。

 こいつら、本当にいかれているわ。


 おっと、バランスが。

 こんなところで絶対に転ぶんじゃないぜ、俺のロバ。


 そこで、このチームの何もかもが終わっちまうからな。


 永遠とも言える激しい攻防の中、俺達はゴール地点を見つけた。


 一体のゴブリンキングが自分の部族を率いて追い詰めている人間。


 当然、俺の叔父さんとアリエスだ。

 かろうじて光の障壁で防いでいるが、ゴブリンキングには通用しないだろう。


 二人とも、もうボロボロだった。

 アリエスも、もう『光の障壁』を張るだけで手いっぱいで回復魔法を使える状態ではない。


 だが、強引に踏み入ってくるゴブリンキングの姿に、彼女の心も折れる寸前だ。

 心が落ちてしまえば、魔法も消えるのだ。


 叔父さんは雄々しくアリエスの前で弓を構えている。

 さあすが、おっとこまえ~。


 俺はすうっと息を吸い込んで、目いっぱいに叫んだ。


「アリエーシュ!」


 噛んだ~!

 超恥ずかしい。


 こんな一番格好をつけるべきシーンで噛んでしまった!


 だが、みんな笑っていた。

 まるで、どこか見えない世界から力が湧いたかのように。


 進む足にさえ、それは如実に表れていた。


「おい、小僧。

 お前に、そんな可愛いとこがあったなんてなあ」


「ほんと、ほんと。

 いやー、意外だわ~」


「アリエシュ~」


 うおおおお。

 なんてこったあ~!


「き、貴様らー」


 あ、ひでえ。

 アリエスと叔父さんまで笑っている。


 思いっきり叫んだから聞こえちゃったよね~。


 その笑顔はゴブリンキングの足すら止めた。


 何故、こいつらにそれほど余裕があるのか、さては何か策が、と。

 賢過ぎて深読みし過ぎなんだよ、お前は。


「ふ。全てはこのための作戦だったのです」

「嘘つけ」


 おのれ、この駄ロバめ。

 即答なのかよ。


 だったら、これでも食らえよ。


「グランドヒール」

「うおおおお」


 いきなり全回復したストーガが、アネッサを追い越して突っ走っていった。


 俺は周りの雑魚どもを『神々の裁断』や『風の刃』の魔法で打ち倒しながら突き進んだ。


「おらっ、どけや。

 この雑魚魔物どもが」


 もう、どこまで行ってもゴブリンの海だ。

 嫌になってくるな。


 ええい、もう面倒くさい。

『戦士の咆哮』を食らわした。


 そして、怯んだ雑魚を蹴散らして目的地まで一気に飛び込んだ。


 もちろん、ロバを回復スキル超連打で鬼のように鞭打って。


 そこまでされると体にとんでもなく負担がかかるので、凄い形相のストーガが何か喚いていたが聞く耳など持たない。


 そして、足を止めたままのゴブリンキングを『神々の裁断』で真っ二つにしてやった。


 相手が一体だけならご覧の通りの威力よ。


 俺は一人だけロバに乗っていたので、実は心身共に結構余裕だったのだ。


 なんで噛んだかな~。ああっ!


「後は任せな、ストーガ」


「ああ! もう走れたって絶対に無理だからな!

 まったくもう、なんて餓鬼だよ」


 くたばって鞴のような息をしているストーガにさらに回復魔法をぶち込んで水もぶっかけてから、俺は他の連中がやってこれるように、ガンガンとこの部族の五百ばかりの手勢を粉砕して道を開けていった。


 もうここまでくると『光の障壁』なんか通用しない。


 そう思って先に駆け抜けて援護に回ったのだ。

 アイサとアイリーンが恨みがましい目で見ていたが。


 山腹というか、上に敵がいないので山頂にも等しい砦のような場所に、要塞砲というか、ほぼ列車砲みたいな威力の怪物を据え付けてしまったのだ。


 この魔王の居城にて今より蹂躙の時間が始まる。


 間もなくパーティ全員が、俺が張りなおした『光の障壁』の中に転がり込んできた。

 それが一種の合図である。


「エリアヒール」

 莫大な補正を受けた癒しの力は全員を見事に回復させた。


 あとは裁きの時間なのだ。


 押し寄せてくる魔物の群れ、ゴブリン・スタンピード。


 だが、ここにいるのは生憎な事に獲物なんかじゃあなくって、お前達の処刑人なのさ。


 なあ、アラビム。


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