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1-16 森へ

「さて、じゃあ行こうか。勝手に森に入っちゃ駄目よ、アンソニー」


「昨日の夕方までは叔父さんと一緒に、ゴブリンの大群を哨戒して森の捜索をしていましたが、それが何か」


 俺の言い草に思わず苦笑する冒険者達。森には思わぬ危険などもある。見知らぬ森では、地理に疎い彼らの方に何かあってもおかしくはないのだから。


 雑魚ゴブリンの10匹や20匹だったら、冒険者など呼ぶ必要すらない。だが、ここにはかつてゴブリンキングが率いる群れがやってきた。


 幸いにして死傷者が出る前に片付いたのだが、とてもじゃないが、村人だけでやれるような相手ではなかった。


「わかった、わかった。ここはあなたの森ですものね」

 そう言って俺の頭を撫でてくれるアイリーン。いやいや頼りにしてまっせ、大魔法使い。


「フランコさんでしたね。この辺りでゴブリンが集落を作りそうな場所に心当たりは?」


「奴らが集落を整えているというのなら、森に入って獣道を真っ直ぐに行き、最初に出る尾根から見える場所のどこかにいそうだ。昔はあのあたりにある洞窟に居を構えていたんだ。


 だが洞窟とは限らん。父に言わせると、洞窟にいると一網打尽になる可能性があるので【賢者】、つまりシャーマンゴブリンのような老ゴブリンがいる集団だと、洞窟にはいない。


 前にいた奴らはまだ若いゴブリンキングのみが率いていたから、味方にほぼ損害なく嬲り殺しにできた」


「そうですか。もし賢者がいると厄介ですね。まるで人間の兵団のように別物の動きをする場合がある。あと同じく歳を経た老獪なゴブリンキングがいた場合も同様に」


「ああ、村に回り込まれると非常に厄介だ。そういうルートもあるので、奴らはそこにいるとしたら危険なのだ。一応、偵察の人に洞窟を見て確認してもらえないか。そこにいない場合はワンチーム残って村を防衛してほしい」


 だがアイサと呼ばれていた冒険者は難しい顔をした。


「そこまで人員を割くと、こちらが劣勢に立つ可能性が出ます。ゴブリンとはいえ、統率が取れている大集団の場合、数に押されて却って村を危険に晒す事になりかねませんが。我々も今回の討伐では、そこまでは想定しておりません。メンバーに精鋭は揃えてありますが」


 確かにいいメンバーだった。すごいスキルを持っているし、顔つきを見ただけでボンクラでないのはよくわかる。


 こんな人達を呼ぶには金はかかったはずだ。日頃は倹約に務めていても、こういうシーンでは金をケチらない。サラムの町の領主は仕事ができる人なのだ。


「わかった。そこは村の自警団にやらせよう。万が一の場合は、一旦速やかに村まで撤収してくれ」


「わかりました。一応、両チームのリーダーと協議しますので一緒に来てください」

 そして叔父さんは村長の方に向き直った。


「そういう事だ、村長。後は頼んだ。何かマズイようなら俺達も戻る。何か少し嫌な予感がする。森から感じる気配が妙にな。この森で代々猟師をしている者の勘というか」


 それを聞いて真摯な顔をする冒険者三名。そういう物は意外と当てになる事を経験則から知っているのだ。


 いやあ、叔父さん。奇遇だね。同じDNAを持つ者として、俺も同じ事を考えていたのだ。それでも家の防衛のために残ると言いださなかったのは、何故だか知らないが見届けないといけないと感じるような感覚があったからだ。


 体の奥底からロードされてくる、まだ太古の時代に人が凶獣に狩られる獲物だったころからあるDNAから、溢れ出してくる自己保存本能の働きによるものなのかもしれない。


 森の手前にテントや竈が設けられている。そこに女性が二人いた。へえ、女性リーダーなのか。というか、ストーガめ。四人ハーレムじゃねえか! 


 よ、四つ股は大変危険ですぞ。ほれ、この俺自身がそれの何よりの生きたというか死んだというか、とにかく証拠だわ。


 特にこの面子を怒らせたら危険過ぎて跡地に草も生えないわ。美穂の包丁の比じゃない。一瞬にして灰も残らない。


 しかも、その片方はエルフじゃないか。ふいに俺の警戒本能に赤いランプが点った。何かが引っかかるな。なんだろう。


 俺は、まずリーダーの女性に近寄った。長い黒髪の切れ長美人だ。日本人顔ではない。どちらかというとスペイン系なのかな。


 美人だが大人の男にはまた厳しそうなタイプだな。少なくとも、ストーガの女ではあるまい。もしかして、奴って小間使い的なポジション?


 そして俺としてはキュっと可愛く、そのスラリとしたおみ足に抱き着いた。


「あららら。これはまた可愛らしいお客さんねえ。あんたら、何を考えているのよ。子供なんかを戦場に連れてきて。アイリーン?」


「あう。い、いやこれには訳が」

 残念な女がしどろもどもしている間に、俺は至福の時間を過ごし、そしてスキルをいただいた。


 このリーダーの女性、アネッサ様は【戦士】


『クラッシュ・ラッシュ』

 戦士の強烈な一撃をありえない連続技で叩き込む事ができるらしい。戦士版ラッッシュなのだ。俺なんか一撃でミンチになる威力よ。


『戦士の一撃』

 フルパワーを乗せた剣戟だ。極めるとドラゴンの首でも落とせるらしい。むろん、力と体力あっての大技なのだ。


『盾の誓い』

 絶対にここは通さんという鉄壁ガード。盾スキルだ。もしかしたら、フライパンでも強力な攻撃を凌げるかなあ。


『戦士の進撃』

 戦いながら相手を押していくパワフルな攻めの布陣だ。力以上に相手を押してパーティを前進させる。


『戦士の咆哮』

 声で相手を威圧する技術だ。有用そうなトラブル回避術になりそうだが、発声練習が必要だなあ。


 だが、ふいに後ろからの視線に気がついた。エルフのサブリーダーがニヤニヤしながら俺を眺めていた。そして、俺の両目が見開かれる。


 その肩に止まって同じくニヤニヤしている存在に。なんというか、頭に大小の宝石を散りばめ、角を生やした不思議な生き物がいた。あれは精霊!


 やべえ。どうやら俺が何をやっているかバレているようだ。


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