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八話 希望なんてなかったよ

 結局。

 目につく虫を次々と殺していったが、ZPは溜まらなかった。

 基本的にゼロだ。どれだけ殺してもゼロ。

 一種類だけZPが溜まる虫もいたが、たったの1だ。ゾンビと一緒。しかも、キモゲジほど多くいないんで、あまり数を稼げない。

 そして、現在の俺のZPはというと。


 ZP=-199999718040


 こうなってますよ!

 キモゲジと、ZP1の虫を殺して、多少溜まった。

 溜まったんだが、一日が経過して、一千億減少。合計はマイナス二千億近く。

 希望なんてなかったんや……


 笑いすら出ない。俺が感じてるのは絶望だ。

 けれど、絶望の中に残された、たった一つの希望がある。

 それは、我が幸運の女神こと、リュエの存在だ。


「さずま……げんき……」


 リュエぇえええええ!

 喋ったんだよ! リュエが喋ってくれたんだよ!

 片言だし、知能は言葉を覚えたての子供レベルだろうが、でも喋ったんだ。

 異世界のゾンビが、なぜか日本語を喋ってるのも、些細な問題だ。俺の言葉を、意味も分からずに話してるから、日本語なんだろ。


 俺が一方的に話しかけるだけだったのに、今ではつたないながらも会話ができる。意思疎通ができる。

 俺の名前を、サズマって名前を呼んでくれる。

 こんなに嬉しいことはない。自分の進化より嬉しいかもしれん。


 こうなると、ラストスケルトンに進化したのがますます悔やまれる。

 ラストゾンビだったら、間違いなく洞窟を出たね。リュエと二人で暮らしたね。

 俺が骨じゃあ、どうしようもねえよ。人間に出会った瞬間、殺される。

 人間を返り討ちにしてもいいが、ZPがどうなるか不安だ。


 善行を積めばZPが溜まる。だったら、悪行をやらかせば減るんじゃないか?

 人殺しなんて、善悪で論じるなら完璧悪側だ。

 まあ、何もしなくても毎日減るんだし、今さらっていえば今さらだが。


 とにかく、ラストスケルトンじゃ外には出られない。

 洞窟内にいても、進化は不可能。

 詰んだな。今度こそ詰んだ。

 だったら、俺がすべきことは一つだ。


「リュエ……この洞窟で、二人で暮らそう。リュエがいてくれたら、俺、人間に進化できなくてもいい」

「しんか」

「二人で人間に進化して、幸せになりたかったが、もう無理だ」


 俺、結構頑張ったよな? もう、諦めてもいいよな?

 クソ女神も、とんだ無理ゲーを押しつけてくれたもんだ。


 人間になるのは無理。諦めた。洞窟で、リュエと二人で暮らしていく。

 そうと決まれば、新居探しだ。洞窟のど真ん中ってのは落ち着かない。

 壁でも掘るか、もしくは。


「ゾンビの巣っぽい場所があったな。あそこなら、ちょうどいい住処にならないか? リュエ、行ってみよう」

「いってみよう」


 俺の言葉をおうむ返しに話すリュエを連れて、ゾンビの巣を目指す。

 大量のゾンビと戦ってから、十日程度しかたってないのに、随分昔みたいに感じる。リュエと出会う前だしな。

 十日であちこち歩き回ったが、半分以上はリュエの足に合わせてたから、そんなに遠くまできてないはずだ。

 道を覚えてるかどうかは怪しいんで、戻れるとは限らない。

 それならそれでいいだろう。落ち着いて暮らせる場所さえ見つかればいいんだ。


 俺とリュエは、話をしながら歩く。

 やっぱり、俺は人恋しかったんだと思う。口が止まらずに言葉を発し続けた。

 リュエの反応はかんばしくないが、ゾンビの時とは違って、時々言葉を返してくれる。

 それがもう、たまらなく嬉しい。一方通行じゃないって、こんなにも素晴らしいんだな。





 かなり歩いた。ZPの減少具合からも明らかだ。


 ZP=-899999718040


 七千億減ってるな。てことは、七日だ。

 端数が変化してないのは、進化を諦めたんで、ゾンビもキモゲジも殺してないからだ。

 リュエにも、キモゲジを殺させてない。俺に続いて、リュエまでスケルトンになってもらっちゃ困るんだ。

 まあ、一匹や二匹を殺す程度じゃ、誤差かもしれんが。

 俺のZPを見れば、分かるだろ。約マイナス九千億だぜ。挽回なんて不可能だ。


 マイナス一兆まで、あと一息だな。のんびりしてたら、十兆もすぐだろう。

 京にも届くんじゃね? ラストスケルトンの寿命なんて知らんが、適当に五十年生きると考えたら、余裕で届く。

 京って、日常で使う桁じゃないぞ。頭おかしい。

 頭おかしいのは、言うまでもなく、あのクソ女神だ。こんな仕様にしやがって。


 もうさ、どこまで減るか、楽しみですらある。

 本来の、善行ポイントの役割を果たしてないな。暇つぶしになってる。

 あとは、カレンダー代わり。

 カレンダー機能なんていらないって言って悪かった。日数の経過が分かるって、地味にありがたい。

 もちろん、クソ女神に感謝なんてしないが!


 いい加減、あいつのことは忘れないと。俺にはリュエがいるんだから。

 リュエと暮らすための場所は、まだ見つからない。

 道を間違えたかもしれん。とっくにゾンビの巣に到着してもいい頃なのに、全然だし。


「どこでもいいかな。歩くのはやめて、壁でも掘ろうか。リュエはそれでもいいか?」

「いいか? いいか!」


 ああ、リュエの反応がいちいち可愛い。癒される。

 そうやって、リュエに癒されながら、ダラダラと歩いてたら。

 俺が転生して初めて見るものが、目に入ってきた。


 明るい! 進化の時の光じゃなくて、太陽の光っぽい明るさだ!

 俺たちの進行方向が、明るくなってる!


「まさか、外なのか?」


 歩き回ってるうちに、洞窟の入り口にたどり着いていたんだ。


「ど、どうする? リュエはともかく、俺は……」


 ラストスケルトンの姿で、外に出るわけにはいかない。人間に見つかれば、一巻の終わりだ。

 でも、人恋しいのと同じで、外も恋しい。

 暗くてじめじめした洞窟には、飽き飽きしてる。

 外に出たい。太陽の光を浴びたい。


 太陽光を浴びても平気だよな? 吸血鬼じゃあるまいし、焼けただれるとかって事態にはならないと思うが。

 俺には焼けただれる皮膚もないが、リュエが心配だ。

 俺にとって人間が怖いとすれば、リュエにとって日光が怖い。


 隣にいるリュエの顔を見る。

 風呂に入ってないから、若干汚れてはいるが、髪なんかはサラサラだ。

 普通、何日も髪を洗わないと、脂でベタベタになるのに、綺麗なまま。

 靴もはかず、裸足で固い地面を歩いても平気なんだから、やっぱり人間じゃなんだなって思い知らされる。


 ステータスが見れないし、リュエの種族は分からないが、ゾンビなんだろう。

 ゾンビファイブか、ラストゾンビか。

 ゾンビって、日光が天敵だっけか。ホラー映画とか、詳しくないんだよ。


「リュエは、外に出たいか?」

「そと?」


 まあ、まともな返事なんてあるわけないよな。

 俺が決めなきゃならない。外に出るか、引き返すか。

 外に出たいってのは、俺のわがままだ。リュエを付き合わせて、万が一のことがあれば、取り返しがつかない。

 でも……でも!


「ちょ、ちょっとだけ。様子を見るだけでも……」


 少しでいいんだ。外を見たい。

 俺は、自分の欲望に逆らえずに、外に出るって決めた。

 もし、リュエが苦しむ様子を見せれば、すぐに引き返せばいい。

 俺は前進する。足を踏み出すごとに、期待と不安で心臓が高鳴る……気がする。

 ラストスケルトンに心臓なんてないんだが。


 ただし。

 この直後、俺は猛烈に後悔することになる。

 やめとけばよかった、って。


本編中にも出ていますが、主人公のステータスを記載しておきます。


サズマトゥ

ラストスケルトン

ZP=-899999718040

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