四話 スケルトンへの進化
本日三話目です。
勝った。二十匹以上のゾンビの群れに勝った!
ところで、ゾンビの単位って「匹」であってんの?
どうでもいいが、俺は勝ったんだ!
「っしゃああっ!」
歓喜の声を張り上げて、俺は気付く。
声がはっきりと出せるようになってる。
「マジ? おお、マジだ! 声が出る!」
てことは、だ。
進化したんだ! ついに、ついに、ゾンビの肉体とおさらばだ!
ゾンビの進化形ってなんだろうな。スーパーゾンビとか、グレーターゾンビとか?
確認すれば分かる。俺は、意気揚々とステータスを確認して。
サズマトゥリュエ
スケルトン
ZP=26
地面にくずおれましたとさ。
スケルトンって……スケルトンって……
いや、言ったよ? ゾンビよりスケルトンがマシだって、俺は言ったよ?
でもさ、本当にスケルトンにならなくたっていいじゃない。
自分の体を見てみれば、確かに腐った肉が全部なくなって、骨だけになってる。
臭くなくなったのはよかったのか?
でも、嗅覚なんてとっくに麻痺して、何も感じなくなってたしな。
てか、スケルトンで声が出せるって、声帯は?
目も見えてるけど、眼球もないよな?
突っ込むだけ無駄か。深く考えないでおこう。
思うところはあるが、スケルトンに進化できたのはありがたい。かなり楽になるぞ。
動きだって、のろのろしたゾンビとは雲泥の差だ。人間に近い動作が可能になってる。筋肉はないんだが……これも突っ込まない。
足が速くなれば行動範囲も広がるし、そうすればもっと多くの魔物に出会える。
多くの魔物をぶち殺して、ZPを溜めて、どんどん進化して……
今さらだが、魔物を倒すのが善行って、ありなの?
だって、俺も魔物じゃん? 同族じゃん?
同族の命と引き換えに、自分だけ進化。悪行に近い、というか悪行そのものな気も……
うん、考えない。こんな仕様にしたクソ女神が悪いんだ。
てわけで、スケルトンになった俺は、洞窟探索に戻った。
次なる進化のために、まだ見ぬ魔物を求めて。
俺の冒険はこれからだ!
終わってないけどな。でも、終わってもいいかなって、最近思ってる。
スケルトンになって、おそらく三日が経過した。
おそらくってのは、ZPの減少で日数を確認できるんだが……見てもらう方が早いか。
ZP=-4
マイナスの悪夢、再び。
進化したら、一日で10ポイントも減るようになったみたいだ。
十倍って……十倍って……
せめて2ポイントにしとこうや。3ポイントでも許すからさ。
十倍はあんまりじゃね?
進化後から比較して30ポイント減ってるから、おそらく三日。
でさ、ポイント数から分かると思うが、この三日間、魔物に出会ってない。
ゾンビの群れに遭遇したのは、運がよかったみたいだ。
一つ朗報があるとすれば、ポイントが減ってもゾンビに退化しなかったことだ。
ゾンビに逆戻りしたら、俺はもう、二度目の人生を諦めて自殺してたかも。
今ですら、「終わってもいいかな?」って気持ちになってるんだ。
だってこれ、運よくゾンビの群れに出会うとするじゃん。前回より多くて、百匹くらいとか、幸運に恵まれてさ。
ゾンビを全滅させれば、ZPも100近く溜まる。幸運が続いて、進化したとしよう。
そしたら、ZPは一日でいくつ減るようになるんだ? 50? 100?
数日経過すれば、あっという間にマイナスだぜ。
しかも、今みたいに一桁のマイナスじゃ済まなくなる。
次の進化のためには、どれだけのゾンビを倒せばいいんだ? 千? 万?
ねえ、もういいよね? 諦めてもいいよね?
死ぬ前に、一度でいいから、女の子とエッチなことしたかった……
本番なんて贅沢は言わない。
おっぱい一揉み、いや、パンチラ、いやいや、可愛い女の子を一目見るだけでも。
転生してから、圧倒的に、致命的に、徹底的に、女の子成分が不足してる。
ゾンビは嫌だ。ZPのためには出て欲しいが、キモいのはこりごりだ。
可愛い女性型の魔物とかいないの? ファンタジーのお約束だよな?
サキュバス、アラクネ、セイレーン。
こういった魔物に出会って、殺されるなら、それでいいや。
やけっぱちになった俺は、荒んだ心で、女の子を求めていた。
でもさ、出ないんだよ。
三日前、絶望を感じ始めた時はゾンビが見つかったから、今度もって思ったのに。
出たのは、またあいつだ。ゾンビ。しかも、一匹だけ。
「くそったれえええっ!」
八つ当たりしてやる! 八つ当たりしてやる!
ZP的には、おいしくない相手だ。たったの1ポイント稼いでも仕方ない。
ちりも積もれば、ともならない。なんせ、日々減っていくんだからな。
だからこれは、ただの八つ当たり。少しでもスカッとするためだけの、不毛な行為。
そのはずだったのに。
ゾンビを倒そうと肉薄した俺は、ピタリと足を止めた。
こいつ……女だ。
腹部から下は、かなり腐ってボロボロだ。でも、胸より上は、比較的綺麗。
もちろん、ゾンビ基準での綺麗だ。ところどころ腐ってるし、臭いも酷い。
でも、まぎれもなく、女なのだ。
慎ましやかながら、胸の膨らみがちゃんとある。ボロきれみたいな服、じゃなくて、もう完全にボロだな。ボロが張り付いてるんだが、確かに膨らんでるんだ。
顔だって、二目と見られなくなった状態でも、ギリギリ性別を判断できる。
女だ。ゾンビだけど女。女だけどゾンビ。
人一倍スケベな自覚がある俺でも、ゾンビ女に興奮するような倒錯した性癖はない。
前世でこんなグロテスクな物を見れば、すぐに目を背けた。
でも、今は。今ならば。
「僕とお友達になってください!」
一人称まで変わるほど、ゾンビ女に夢中になった。