二十三話 楽しいデート2
冒険者ギルドを出た次は、商業区のお店を回ってみた。服屋とか雑貨屋とか、女の子が好みそうな店だ。
何も買わず、冷やかしになったが、二人とも楽しそうだったんでよかった。
本当は、プレゼントでも贈ろうと思ったのに、遠慮されたんだよ。
冒険者として日々雑用に励んでる俺は、報酬を受け取ってる。
一回一回は子供のお駄賃程度でも、何度も繰り返せばまとまった金額になった。
領主やクートに半分ほど渡してるが、半分は俺が持ってる。領主の厚意で、格安で屋敷に住まわせてもらってる形だ。
なので、今日のデートが金の使いどころだと思ってたのに、全然使えない。
デートは全額男持ちを当然って考えられても困るが、何もねだってもらえないのも寂しいもんだな。
透歌は遠慮してるし、リュエはそもそも物欲がない。
仕方ないんで、せめて昼食は少し贅沢にいかせてもらって、奢ろうと思った。
小洒落たレストランに入り、各々好きな物を注文する。
ここでも透歌は遠慮してたが、俺が無理矢理押し切った。
俺は、やっぱり肉だ。若い男なら肉が一番。
脂の乗った分厚いステーキが運ばれてきたんで、ナイフで大きめに切ってかぶりつく。デートで食うもんじゃないな。
味はかなりうまい。少し硬い気はするが、歯が丈夫になってるんで問題ない。
なんの肉だろ。異世界特有の動物かな。
魔物は、砂になって消えるから、怪しげな魔物の肉を食わされる心配はしなくて済む。
俺が肉を食ってる横で、リュエはケーキを食べてる。昼食にケーキはどうかと思うが、好きな物を食べればいい。美少女の嬉しそうな笑顔と甘味の組み合わせは、率直に言って最強だな。
透歌は魚だ。ムニエルか? 料理に詳しくないんで知らないが、パンにスープ、メインが魚ってメニューだ。
異世界の食事事情は、現代日本ほど恵まれてはいないが、割と満足できる。
食事を必要としない魔物の俺でも、食べたいって思うほどには。
これは嬉しい誤算だが、日本の食事を広めて一稼ぎって展開は無理だな。やろうと考えてたんだが。
ラノベの異世界転生物だとよくあるパターンだし、領主にはお世話になってるから、俺の知識が役立つなら協力するのはやぶさかじゃない。
だが、この世界の食事は、十分に発展してる。異世界舐めてたぜ。
つうか、ラノベが異世界をバカにし過ぎなのか?
あんまり突っ込むと、どっかから苦情が飛んできそうなんで、ここまでだ。
うまい食事に舌鼓を打ち、満足した俺たちはレストランを出た。
「サズマさん、ごちそうさまでした。でも、本当によかったんですか?」
「平気平気。俺、普段は金を使わないし、こういう時に使わないとな。んで、腹も膨れたところで、どこに行く? また店を回るか?」
「でしたら、お洋服を買いに行きたいです」
「服? さっきも見てたけど……」
「荷物になりそうだったので、後回しにしたんですよ。サズマさんなら、絶対に自分が荷物を持つって言いそうでしたし」
ええ子や。気遣いのできる、ええ子や。
可愛くて性格もいい子なんて、ギャルゲーにしかいないと思ってた。異世界すげえ。
「透歌なら、どんな服でも似合うだろうな」
「ありがとうございます。でも、私じゃなくて、リュエさんのお洋服ですよ。今のワンピースも可愛いですけど、もうちょっとオシャレしてもいいかなって」
マジでええ子や。自分よりもリュエを優先するなんて。
これは、俺が気付くべきだったな。反省。
リュエは、ゾンビから人間に進化した時のワンピースを着たままだし、新しい服を買うのは賛成だ。
女性の買い物は長いって聞くが、リュエのためなら何時間でも付き合う。
てわけで、リュエの服を買いに行く。
午前中も訪れた服屋で、店員には「また冷やかし?」って目で見られた気もするが、今度はちゃんとした客ですよっと。
品ぞろえは豊富だ。ただし、かなり高い。
大量生産が難しいから、どうしても値段が高くなるんだろうな。
正直、俺の懐具合じゃちと厳しい。安めの物ならどうにかってくらいだ。
こんなことなら、昼食で無駄遣いしなけりゃよかった。
金の心配をする俺をよそに、透歌は目を輝かせている。リュエと服を見比べて、どれが似合いそうか。
「これとか、リュエさんに似合いませんか?」
「少し背伸びし過ぎじゃないか? 大人っぽいぞ?」
「そんなことありませんって。リュエさんはどうですか?」
「よく分かんない」
一生懸命に選んでる透歌とは対照的に、リュエの反応は薄かった。
見た目は透歌と変わらない年齢でも、精神的にはずっと幼いからな。
小学校低学年くらいか、下手すりゃもっと下かもしれん。
「サズマさんは、どれがいいと思います?」
「うーん……あるにはあるんだが、俺が選ぶのはやめとくよ。リュエの場合、俺が選んだってだけでそれに決めそうだし、センスにも自信がない。透歌が選んでくれないか?」
変な話、エプロンでも買って、裸エプロンを勧めれば……
やらな……やっていい? ダメ?
「確かに、リュエさんなら、サズマさんが選べば即決しそうですよね」
「だ、だろ? だから、透歌に任せた。リュエを可愛くしてくれるって信じてるぞ」
「任せてください!」
スケベな妄想は隠す。やってもらうとすれば、正式に恋人になってからだ。
今は、透歌に頼もう。冗談めかして透歌に押し付けたんだが、透歌はやる気十分だった。
これまでにも増して、服選びに夢中になる。こうしてると、日本の女子中学生と変わらないな。
ああでもない、こうでもないって悩み抜き、透歌はリュエの服をチョイスした。
せっかくなんで、ここで着替えさせてもらう。
店の奥に引っ込んで、着替えてから再登場したリュエは、それはもう可愛かった。
俺には、可愛いとか天使とか女神とか、そういった程度の表現しかできないんだよ。リュエの愛らしさを全く伝えきれないことが、無念でならない。
上は、純白のブラウス。襟元や袖にあしらわれたフリルが特徴だ。
首には、チョーカーみたいにリボンを巻き付けてる。なんでも、このリボンが都会で流行してて、オシャレなんだとか。
今はブラウスの色に合わせて白だが、色違いのリボンをセットで購入した。
したというか、させられたというか。店員さん、商売上手っすね。
下はライトブルーのスカート。本来なら、コルセットで腰のくびれや胸を強調させるらしいが、体が締め付けられる感覚をリュエが嫌がったためコルセット抜き。
そもそも、リュエに強調するような胸は……ゲフンゲフン。
リュエがくるっと体を回転させれば、スカートのすそがふんわりと広がり、細い脚があらわになる。
オーバーニーソックスでもはいてたら、絶対領域が形成されてるところだな。普通の靴下なのがもったいない。
「……いい」
俺は、呆けつつ、短く呟いた。
可憐な服なだけあり、それなりのお値段になったが、値段分以上の価値はある。
惜しむらくは、リュエの服を購入するのが限界で、透歌には何も買ってあげられなかったことだ。
それどころか、リュエの服の代金を一部、透歌に負担してもらった。
デートなのに、プレゼント一つ贈れないとか、我ながら甲斐性なしだ。
「透歌、ごめん。今度、金が貯まったら、透歌にも服をプレゼントするから」
「い、いえいえ、気にしないでください。サズマさんは私の恩人ですし、この上贈り物までもらえませんよ」
「俺がプレゼントしたいんだよ。受け取ってくれないか?」
「あ……あの、その……た、楽しみにしてます」
押し付けがましいかとは思ったが、約束を取り付けたぞ。
楽しみなのは俺の方だ。リュエも可愛いが、透歌も着飾れば絶対に可愛い。
どんな風になってくれるか、本当に楽しみだ。
さてさて、今日のデートもこれで終わりかな。そろそろ帰らないと。
デートっぽくはなかった気もするし、俺のエスコートもいまいちだったかもしれないが、まだ恋人でもないんだからこんなもんだろ。
俺の初デートとしちゃ上出来だ。




