十六話 リュエとの再会
投稿を始めて、一週間が経過しました。
初投稿のつたない作品をお読みいただき、ありがとうございます。
一週間記念として、いつもより多めに更新してみようかと。
というわけで、さっそく本日一話目です。
自分の正体を明かしたクートは、俺に尋ねてくる。
「旦那様と我の話はこれだけじゃ。それで、お前は? プリミティブゾンビは、ゾンビの最上位の一種ではあるが、繁殖力の低さと個体数の少なさから絶滅したと思っておった」
ゾンビって繁殖するんだ。プリミティブゾンビ限定なのかもしれないけど。
さておき、クートが丁寧に説明してくれたんだから、俺も隠し事はなしでいく。
全部話した。神様とか転生とか、善行を積んで人間に進化するとか。
ああ、ごめん。正確には、全部じゃなかったな。
スカートめくりみたいな内容だけは、隠させてもらった。言えるか、んなこと。
「けったいな運命を背負ったものじゃな。魔物が進化するケースはあるが、善行を積んで人のためになる行いをすれば進化するというのは、我も初耳じゃよ」
「信じてくれるのか?」
「だてに長生きはしておらん。嘘をついているかどうかなど、顔を見れば判別できる。転生者であると信じ込んでおる、頭が狂った魔物である可能性は残るが、そうも見えん」
信じてもらえないかもって心配だったが、クートは信じたみたいだ。
透歌は、よく分からん。俺やクートが魔物だったり、自分が親に売られたり、驚く情報が多くて頭がパンク寸前ってとこだな。
「お前の事情は理解した。これからどうするつもりじゃ?」
「リュエと透歌を取り返すつもりだったが、領主がいい奴だって知ったし、それならいいんだ。クートと領主がいてくれたら、二人の身の安全は保障されたも同然だ。俺は、適当に旅でもするか。人助けの旅だ。運よく人間に進化できれば嬉しいし、できないならできないでもいい。今のままでも、そんなに不自由はしてないからな。町を歩いてても、よっぽどのことがなければ魔物だってバレないし」
「なるほど、それも一つの道ではあるの」
クートは俺の決断を認めてくれた。
が、きゅっと。
透歌は、一度は放した俺の手を、再び握った。
強い力じゃない。弱々しい力だし、魔物の俺が怖いのか、かすかに震えてる。
「透歌?」
「え? ……あ」
無意識の行動だったようで、俺の手を握る自分の手を不思議そうに見ていた。
けれど、放すことはなくて、代わりにおずおずと口を開く。
「行っちゃうん……ですか?」
疑問形になってはいるが、捨てられた子供のような目が雄弁に物語ってる。
行かないで、と。
「ふむ、フォルナ……いや、ここはあえて透歌と呼ぶが、透歌はお前に去ってもらいたくないようじゃぞ?」
クートの言葉に、透歌は小さく、だがはっきりと頷いた。
「わ、私は、サズマさんに助けていただいた恩を返せていません。私だけがアテニルザ様のお屋敷で幸せに暮らすのは……嫌、です」
「さっきも言ったろ。俺は、善行を積まなきゃいけないから、透歌を助けた。転生して常識も知らなかった俺に、透歌は色々と教えてくれたし、それで十分に返してもらったよ」
「ま、まだ、です。サズマさんが魔物だって聞いて、私は怖くなりました。でも、私やリュエさんを案じてくれるサズマさんは、やっぱり優しくて、悪い魔物とは思えません。サズマさんが旅に出るというなら、私も連れて行ってください。恩を返させてください」
「危険だぞ。魔物も亜人もいるんだ。俺より、透歌の方がよく知ってるよな?」
「知っています」
「この屋敷にいれば、不自由ない生活ができるぞ。領主もクートもいい奴で、透歌と同年代の女の子も多いんだろ? 友達もできて幸せに暮らせる。まあ、領主の妻だから、愛する男性との結婚だけは諦めないといけないかもだが」
「旦那様は、束縛しようとはしておらぬぞ。妻となった少女の幸せを第一に考える人じゃ。その点は、お前と少し似ておるの。透歌に好きな男ができれば、喜んで祝福し、婚姻を認める。実際、旦那様の元から去って行った者は何人もおる」
俺が透歌を止めようとしてるのに、クートが余計なことを言いやがった。
俺だって、透歌と一緒にいたいさ。リュエと三人で旅ができれば嬉しい。
でも、危険なんだ。魔物である俺とリュエはいいが、人間で特別な力なんてない透歌には、危険過ぎる。俺が守れるとも限らない。
「透歌にもしものことがあったら、俺は絶対に後悔する。やっぱり連れてくるんじゃなかったって。頼むから、ここにいてくれ」
「私の人生です。たとえ死んだとしても、サズマさんを恨んだりはしません」
俺と透歌の意見が平行線になってたら、今度もクートが口を挟む。
「まあ、落ち着け。我が妙案を授けてやろう」
「妙案?」
「お前も、旦那様の下で働けばよい。善行を積むなら、人の多いこの町はうってつけじゃ。大小様々なトラブルは日常茶飯事。それを解決せい。魔物と戦える力があるのも助かる」
「クートがいるじゃないか。俺なんかは足元にも及ばない強さだし、他の魔物だって簡単に倒せるだろ?」
「我は旦那様を守るため、傍におる。迂闊に動くわけにはいかぬのじゃ。旦那様は素晴らしき御仁じゃが、だからこそ気に食わぬと感じる者もおり、敵が多い」
クートの意見は、筋は通ってる。俺にとっても透歌にとっても、ありがたい提案だ。
透歌は、クートの意見を大絶賛する。
「いいですね! サズマさん、私と一緒にお仕事しましょう!」
「だが……クートは、俺を信用していいのか? 領主の命を狙う刺客かもしれないぞ?」
「信ずるに足るかどうかは、様子を見て判断する。最初から信じ込むほど、我も愚かではない。信じられぬと判断した時は、始末するだけじゃ」
「領主が認めるか? クートの一存で決めていい話じゃないだろ」
「グジグジうるさい奴じゃの。有能な人材、魔物材か? とにかく、有能な者であれば、旦那様も拒否はせぬ。朝になれば我が話してみるが、間違いなく認める」
領主も問題ない、と。
全員が満足できる話だ。だったら、俺も決断しよう。
「分かった。ぜひ、ここで働かせて欲しい」
「サズマさん!」
「よう決断したの。まだグジグジ言っておったら、殴り倒していたところじゃ」
あ、あぶねえ……命拾いしたな。
「決断した褒美じゃ。リュエに会わせてやろう。二人とも、ついてくるがよい」
クートは、俺と透歌を連れて、リュエのいる部屋に向かう。
リュエを呼びに行かなかったり、透歌まで連れてきたりしたのは、領主と俺たちを一緒にいさせないためかな。俺や透歌が寝首をかくかもしれないからだ。
寝室では領主が寝てるし、不審者が侵入すれば危険だが、そこまで過保護ではないんだろう。
屋敷の中にいれば、基本的には安全なはずだ。
愛されてんなあ、領主。
外見は幼くても、紳士の領主にはストライクゾーンど真ん中だ。クートも乗り気なのに、なんで手を出さないんだか不思議で仕方ない。
もったいねえ。マジでもったいねえ。
イエスロリータ、ノータッチ、だったか。
触れるのは厳禁ってことなんだろうが、スケベな俺には信じられない話だ。
安心した俺は、そんなどうでもいいことばかり考えていた。
こんなのは、透歌には教えられないな。確実に嫌われる。
「着いたぞ」
くだらない思考にふけってた俺は、クートの声で我に返った。
着いた場所は……台所? 部屋じゃないのか?
「リュエは、他人と同じ部屋にいるのが落ち着かんようでの。かといって、個室を与えるわけにもいかぬ。広い屋敷ではあるが、なにせ旦那様の妻が五十人はいて、住み込みの使用人も多く、数人で一部屋を使っておるのじゃ。リュエ一人を特別扱いはできず、苦肉の策でここにの。決して虐待やいじめではないぞ」
クートが補足してくれなかったら、問い詰めてたな。言ってくれて助かった。
台所に入れば、真っ暗な空間に一人の少女がポツンとつっ立っていた。
透歌には見えないだろうが、俺の目にはくっきりと見える。
探し求めていた少女の姿が、そこにはあった。
「リュ……エ……?」
おっかなびっくり俺が呼びかけたら、リュエがこっちを向いた。
そして。
「サズマ? サズマ!」
無表情だった顔が満面の笑みに変わり、俺に駆け寄ってくる。
そのまま、俺に抱きついたリュエは、俺の胸に顔をグリグリ押し付けた。親に甘えるような仕草だ。
「リュエ! 無事でよかった!」
「うん! わたし、げんきだよ!」
「しゃ、喋れるようになったのか?」
「うん! りょうしゅさまがおしえてくれたの! おねえちゃんも!」
「お姉ちゃん?」
「我じゃ」
クートは、リュエから「お姉ちゃん」って呼ばれてるらしい。
お姉ちゃんっつうか、おばあちゃんじゃ……
「お前、よからぬことを考えたな?」
「滅相もない」
女性に年齢の話題はタブーだ。これは、地球でも異世界でも変わらないってことだな。
「そ、そうだ、クート。リュエは、なんて魔物なのか分かるか? ゾンビだったのに、進化して今の姿になったんだが」
人間そっくりなんで、ラストゾンビかなって思ってたが、正確なところは不明だった。
俺の正体を見破ったクートなら分かると思って聞けば、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「魔物? 何を言っておる。リュエは人間じゃよ」
「に、人間? 嘘だろ? だって、俺が出会った時はゾンビで……」
キモゲジを殺して進化したんだが、俺も同じなんだぞ。
なんでリュエだけが人間に?
それに、魔物っぽい能力も持ってたはずだし。
「人間を超えし人間、じゃな。我の持つ知識に当てはめれば、超人といったところかの」
クート曰く、リュエは魔物の能力を保持したままで人間に進化しているという。
なあ、一つ言っていいか? 俺はゾンビなのに、リュエだけが人間に進化したんだし、先を越された身としちゃ言っても許されるよな?
世の中って、理不尽だよな。




