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十三話 カララドの町の豚領主

本日二話目。

 翌日の夕方に、俺と透歌はカララドの町に到着した。

 町は、高く分厚い壁に囲まれている。外敵から守るためだろう。

 門があり、武装した門番が数人、町に入るための検査を行っていた。

 商人や旅人とおぼしき人々が列を作って並んでるので、俺たちは最後尾につく。


「想像以上に大きな町だな。こんなに立派な外壁があるとは思わなかった」

「カララドの町は、ウェルベンジア王国の中でも辺境にありますからね。亜人も多く、襲われないよう堅牢な守りになっていますよ」


 魔物対策ではなく、人間同士の戦争対策でもなく、亜人対策のための外壁だ。

 俺は、クソ女神から、魔物が人間の天敵だって聞いてたし、てっきり魔物対策だと思ってたが違った。

 というのも、魔物は特定の縄張りから出ることは滅多にないんだそうだ。

 俺は出てるんだけどな。


 透歌と話してるうちに、検査待ちの列が進んで俺たちの番になった。

 俺は怪しげな魔物だが、透歌はれっきとした人間、それも領主の妻となる女性だ。身分を証明するための物も持ってて、見せればあっさりと町に入れた。

 俺は、透歌の護衛として素通りに近い。軽く身体検査を受けただけで終わった。

 プリミティブゾンビになったおかげでもあるな。ラストスケルトンだったら、簡単にはいかなかった。その前に、透歌と旅をすることもなかっただろうが。


 町に入れたのは嬉しいが、これで透歌との旅は終了だ。あとは、どのタイミングで別れるかだが。


「透歌、俺はどうする? 素性の怪しい男と一緒で、領主の印象を悪くするのもまずい気がするし、亜人に襲われた事情を説明した方がいい気もするし」

「……領主様のお屋敷まで、一緒にきていただいてもいいですか? リュエさんを探したいとは思いますが、もう少しだけ」

「分かった。領主に会って、透歌の事情を一緒に説明するよ。できれば、リュエの情報も聞ければなおよしだ」


 透歌の提案は、俺にとって願ったりだった。

 アテニルザって領主の正体を見極めたい。透歌を大切にしてくれそうな男か、リュエを買ってないか。


 はっきり言って、俺はアテニルザを信用していない。悪い噂を聞かないってのが、かえって信用できない。

 悪い奴でないなら、十三歳の少女を嫁にしないはずだ。

 あるいは、女癖は悪くても領主としては立派なのかもしれないが、それならそういう噂が広まっててもおかしくない。ロリコンだけど領主としては立派だ、って感じで。


 悪い噂が一切ないのは、言わないんじゃなくて言えないんじゃないのか?

 独裁国家にありがちな話だ。悪く言うと粛清されるので、身を守るために誰もが口をそろえて褒めまくる。

 ここは、国じゃなくて一つの町だが、かなり大きい。領主ともなれば権力は絶大だろう。

 権力を握り続けてれば腐敗する。地球でも同じだった。


 あまり言うと透歌を不安にさせるし黙ってるが、こういった理由から、俺はアテニルザを信用してなかった、

 もしも、酷い奴なら、その時は。


「サズマさん、顔が強張っていますよ。領主様はお優しい方ですし、大丈夫です」


 いかん、いかん。アテニルザを疑うあまり、表情に出てたみたいだ。

 透歌に言われて、俺はできる限り普通の態度を心がける。気分を変えて、町の様子でも見てみようか。


 カララドの町は、活気があって平和そうだ。人々の顔も明るいし、独裁者の陰に脅えてるって雰囲気じゃない。

 俺たちは大通りを歩いてるんで、露天の客引きがひっきりなしだ。食べ物のいい匂いも漂ってくる。

 食事を必要としない俺でも、味覚はきちんとあるし、うまい物を食べれば満足感もある。

 興味を惹かれるが、今は領主の屋敷に急ぐ。


 もうじき夜になる時間帯なので、街路灯がつき始めてる。家に帰ろうとしてるのか、足早に歩く人も多いし、飲食店と思われる店に入って行く人もいる。

 異世界っつうか、異国って感じだ。ヨーロッパだって言われたら、多分信じる。

 よくよく見たら、違いもあるんだけどな。鎧を着込んで武装してる人とか、地球にはまずいない。車も走ってなくて馬車なのは、先進国じゃあり得ないだろう。


 それでも、パッと見だと気付きにくいのは、異世界ならではの光景が武装してる人くらいしかいないからだ。

 ファンタジー世界だと、よくあるだろ。エルフにドワーフ、獣人とかさ。

 そういった人がいないんだよ。普通の人間ばっか。

 顔立ちも地球人と変わらない。欧米系の彫りの深い顔の人もいれば、日本人なんかのアジア系みたいな顔の人もいる。髪や瞳の色だって、黒だったり金だったり茶だったり、割と普通。青や緑みたいな突飛な色の人はいない。


 だから、まるで外国を観光してるみたいだ。リュエと透歌のことがなかったら、俺も楽しむんだが。

 おのぼりさんよろしく、キョロキョロしてた俺は、やがて大通りを抜けて居住区の入り口にまでやってきた。

 この先は、貴族や金持ちの市民が住んでいる区域だから、検問がある。

 町に入った時と同様、透歌のおかげでパスできた。

 俺はいいのか? とも思ったが、通してくれるんだからありがたいと思っておく。


 そのまま、豪邸が立ち並ぶ中を進むと、一際立派な邸宅がお目見えした。

 一瞬、お城かと思った。そのくらいの家だ。

 石造りなのはこれまで見てきた家と一緒なんだが、とにかくでかい。敷地も広い上に、五階建てだ。


「ここが領主の屋敷か?」

「そう……だと思います。私も、きたのは初めてなんですが……」


 二人そろってぽかーんと口を開けてたら、屋敷を警備する兵士に見咎められた。


「貴様ら、何者だ!?」


 誰何(すいか)され、槍を向けられるが、ここでも透歌が身分証明すれば反応が変わった。

 疑いが晴れてはないみたいでも、武器は下げてくれた。一人の兵士が屋敷の中に入って行き、残りは俺たちを警戒する。


 しばらくして、屋敷から姿を見せたのは。

 丸々と太った豚、もとい、豚のような人間だった。

 豚が、めっちゃ派手な服を着て、宝石の類をじゃらじゃらさせてる。

 まさか、こいつがアテニルザ・カララド?

 銀髪銀眼は肖像画と同じなんだが、体型がまるで違うじゃねえか。


「おぉうぅ、もじがじで、ザッグの娘げ?」


 豚がしゃべった。しゃべるだけでも苦しそうなのは、俺の気のせいか?

 明らかに太り過ぎ。日本人基準のデブじゃなくて、アメリカ人基準のデブって言えば分かりやすいと思う。体重は、百キロなんてゆうに超えてる。百五十キロか、二百キロか。

 太ってるせいで分かりにくいけど、顔立ちは整ってる方だ。体重を三分の一に落とせば、多分、それなりに見れるようにはなる。老いには勝てなくても、歳相応の魅力はあるんじゃないかな。


 豚だから、全部台無しだ。

 これ、よく生きてるな。自重に押し潰されて死んだり、病気になって死んだりしても驚かないぞ。


「お、お初にお目にかかります。確かに私は、グラナ・ザッグの娘です」


 引きつった顔で、透歌が挨拶した。

 自分の名前を名乗らずに父親の名前を使ったのは、領主につけてもらうまでは名前がないからだ。俺がつけた透歌って名前は、ここじゃ呼べないし名乗れない。


「ぶむぅ、やっばあの娘が。がんなり遅がったみでぇだが」


 濁音ばかりで聞き取りにくい。「かなり遅かったみたい」って言いたいんだろう。


「も、申し訳ございません。道中、亜人に襲われ、随伴の者が殺されてしまいまして。私だけは、こちらのサズマさんに助けていただき、なんとか無事にここまで。砂ぼこりに汚れた姿でお目通りするご無礼をお許しください」

「おぅ、ぎにぜんでええ。はよぅ入りや。風呂で汚れをおどじて、服も用意ざぜるべ」


 豚は、グフグフといやらしい笑い方をした。

 言葉だけなら透歌を歓迎してるんだが、俺は素直に受け止められない。

 第一印象は、悪いなんてもんじゃなく、最悪だ。これのどこが立派な領主?


 人を外見で判断しちゃいけないとはよく言うが、限度があるだろ。

 成金趣味のごとく、ゴテゴテと着飾ってるのもマイナス印象だ。立場のある人間なんだから、みすぼらしい格好をするわけにはいかないし、一般市民と同じ服ってのもよくない。

 にしたって、ここまでする必要もないはずだ。

 もしくは、この世界はこれが普通?


 そこで、豚領主は俺を見た。お世辞にも好意的とはいえない目だ。


「サズマだっが? おめぇ、儂の嫁に手ぇ出してねぇだが?」

「……もちろんです」

「ぞうが。まあ、今夜はじっぐり見ぜでもらうべ。ぐくぐぶぅ」


 透歌を抱く気満々ってか。夫婦になるんだし当然なんだが、釈然としないな。

 透歌がどう思ってるのか気になって、横目で見てみると、薄い笑みを張り付けていた。

 喜んでるって感じじゃない。とはいえ、俺も透歌との付き合いは長くないし、内面を見通せるわけじゃない。


 嫌がってるのか諦めてるのか、こんなもんだって受け入れてるのか。


 まいったな。これ、どうする?

 結婚して、透歌が幸せになれるなら、俺の出る幕じゃない。ここで別れておしまいの予定だった。不幸になるなら、連れて逃げる気でいた。

 判断がつきにくい時はどうするか、考えてなかったのは失敗だな。


 もっとあからさまに「悪徳領主!」って態度なら敵認定できるのに、外見が悪いってだけで割と親切な感じがするから判断に困る。


 透歌を心配してる様子だし、風呂に入れようとしたり着替えを用意したりと、邪険にはしてない。初夜だって、夫婦ならごく普通。

 俺には好意的じゃないのも、自分の妻となるべき女性が、どこの馬の骨とも分からない男と二人旅をしてきたって聞いたら、不安にもなる。俺が豚領主の立場なら、手を出された可能性を考えるし、これもいたって普通。


 しばらく様子を見たいが、俺が助けようとした時には手遅れになってるかもしれない。

 少なくとも、処女は奪われた後だ。

 俺が、豚領主の人となりを見極められないでいると、彼はポケットから何かを取り出して地面に放り投げた。

 それは、金貨だった。


「褒美だぁ。ぞれ持っでがえれぇ」


 透歌を助けて、ここまで連れてきた報酬か。

 手渡さずに、地面に放った金貨を拾えってのが気に食わない。人を見下してる雰囲気をひしひしと感じるし、厄介払いをしようって魂胆も透けて見える。


 やっぱり、善人には思えないよな。透歌を任せられる相手じゃなさそうだ。


「……お金は結構です。それよりも、教えていただきたいことがあります」

「あぁん? 金がいらないげ? 変わりもんだぁ」


「俺が教えていただきたい情報は、お金にできない価値があります」

「言っでみ」


「ありがとうございます。俺は、人を探しています。リュエという名前の、長い金髪に黒い瞳をした、愛らしい少女です。歳の頃は透……こちらの子と同程度。ご存じありませんか?」

「……ぞ、ぞんな娘はいぐらでもいる。分がらんなぁ」


 豚領主の視線が泳いだ。言葉もどもってるし、怪しさ満点である。

 こんなに分かりやすくて、海千山千の猛者が集まる貴族社会でやっていけるのか、他人事ながら心配だ。

 ド素人の俺にですら見破られるんだぞ。腹芸とかできるのか?

 食い下がってもいいが、教えてくれそうにないな。一旦、引き下がっておくか。


「ご存知ないのですか。残念ですが、諦めます」

「お、おぅ、ぞうじろ。女の情報はおじえられんが、金を持っでぐが?」

「結構です。では、俺はこれで」


 俺は、最後に透歌を見た。彼女は、相変わらず薄い笑みを張り付けたままで、俺に一礼した。


「サズマさん、本当にありがとうございました。リュエさんと再会できるといいですね」

「うん。君も幸せになれよ」


 俺は、透歌に手を振ってから、豚領主の家の前から立ち去った。

 豚領主の兵士数名が、俺を見張るように付き添ってる。金持ちが住む区域だし、怪しい男が一人でフラフラするのはよくないんだろうな。

 貴族街の入り口まで送ってもらってから、兵士たちは帰った。

 それじゃあ、俺も準備しますかね、っと。


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