一話 超潔癖な女神様
「あなたは、救いようのないクズですね」
のっけから、キツイ一言を浴びせられてしまった。
やめろよ。興奮するじゃないか。
俺を罵倒したのは、これまでお目にかかったことのない、超美人のお姉さんだ。
アイドルやモデル、女優ですら、これだけの美人はまずいない。
超美人のお姉さんからの罵倒。ご褒美です!
と、俺の性癖はさておき、お姉さんの罵倒は続く。
「女の敵です。生きている価値ありません。死んで正解です。魂レベルで浄化すべきだと思います。いえ、浄化し切れるか怪しいですね。永久に魂を幽閉しておきますか」
うん、突っ込みどころ満載のセリフだ。
女の敵。これはまあ、事実だな。身に覚えはある。
生きている価値ありません。そこまで言うか、とも思うが、ギリギリ納得できる。
死んで正解です。日本語おかしくね? 死ぬのが正解です、じゃないか? 今の言い方だと、俺が死んだみたいに聞こえるぞ。
「自覚がないようなので言っておきますが、あなたは死にましたよ」
はい?
「その証拠に、口がきけませんよね? 目もほとんど見えていませんよね? 私の姿以外に、周辺の景色が確認できますか?」
言われて、声が出せないと気付いた。
お姉さん以外は真っ白だし、景色が見えないのもその通り。
え? マジ? 俺、死んだの?
「死にました。不慮の事故です。即死でしたので、死を自覚する暇もなかったのでしょう」
い……
「い?」
嫌だあああああああああっっ!
俺はまだ死にたくない! だって、童貞なんだぞ! 女の子とエッチしたかった!
「どこまでもクズな」
悪いかっ! 男なら当然の夢だっ!
「他の男性に失礼です。とにかく、あなたは死にました。ですが、あなたにとっては幸運なことに、また私にとっては不運なことに、あなたを転生させなければなりません」
マジ!? それって、あれだろ? ラノベなんかでよくある転生物。
「創作物と一緒にされるのは不服ですが、その認識でおおよそ正しいです。私は、転生の女神。諸々の事情があり、あなたが転生者として選ばれました。よって、転生させます」
キタアァアアアアアアッッ!
捨てる神あれば拾う神あり! つうか、まさしく女神様がいらっしゃる!
「ただし!」
……あれ? 女神様、なんかお怒りですよ?
「人間に転生させるわけにはいきません。あなたは、前世で犯した罪が大きすぎます。このまま人間に転生させれば、多くの人を不幸にするでしょう」
嘘だろ!? 俺、そんなに悪いことやってないぞ!
いや、俺に問題があるのは自覚してる。相当なスケベだし、子供の頃は女子のスカートめくりとかやりまくってた。何度やったか数え切れないほど。
だからって、凶悪犯罪者みたいな言い方されても……
「神の目はごまかせません。あなたがこれまで見た、大量のエロ動画、エロマンガ、エロアニメ、エロ本、エロゲー、エロ小説、エトセトラエトセトラ。未成年のくせにこの始末とは、なんと汚らわしい。許されざる重い罪です」
それが罪になるの!? 厳し過ぎじゃね!?
もしくは、神様基準だと、これが普通? エロ系は全部アウト? それとも年齢?
俺は大学生だが、実は中学生の頃からエロ系コンテンツに手を出してた。
十八歳未満禁止のコンテンツに、中高生で手を出すのは、罪といえば罪だろう。
健全な男の子なんだし、欲望を発散させる程度は許してもらいたいと思うが。
微妙に納得いかん。納得いかんが、納得するしかないのか? やっぱり納得いかんな。
てか、人間になれないなら、なんになるんだ? 動物?
可愛い犬猫になって、美人のお姉さんのペットになれるなら、ある意味ではおいしい人生かもしれない。
虫だったらどうしよ。まさか、微生物とか言わないよな?
「あなたが転生するのは、魔物です」
は? 魔物?
「地球ではなく、別の世界に転生させます。地球から見れば異世界ですね。異世界では、魔物と呼ばれる生物がいます。あなたは魔物に転生するのです」
魔物ねえ。ますますラノベになってきたな。定番なところだと、ドラゴンとか?
「ドラゴン? そのような高位の魔物になれるわけがありません」
違うのか。となると、ゴブリンやオーク?
「あなたがゴブリンやオークになれば、人間の女性を犯すに決まっています。私の目が黒いうちは、非道な真似は許しませんよ」
いや、あんた、碧眼だし。黒くないし。
慣用句だから、「生きているうち」みたいな意味なのは知ってるが、どうしても突っ込みたくなった。
俺の突っ込みは置いといて、女性を犯したりはしないぞ!
俺はスケベだし、嫌がる女性を無理矢理、みたいなエロ作品も好きだったが、あくまでフィクションだからだ! 現実でレイプじみた行為なんかしないっての!
「スカートめくり……」
ごめんなさい! でしたね! 嫌がる女子のスカートをめくってましたね!
いやでも、あれは俺もガキだったから……今では悪かったと思ってるし……
「言い訳は無用です。あなたが転生するのは……言わないでおきますか。どうせ、転生すればすぐに分かります」
怖いわ! 俺、なんになるの!?
神様っつうか、この人むしろ、地獄の閻魔様とかじゃね!?
「まあ、私は神ですので、慈悲の心はあります。あなたが魔物に転生し、世のため人のためになる善行を積めば、上位の魔物に進化できるようにしてあげましょう。進化を繰り返せば、いずれ人間にたどり着けます」
前言を撤回します! 神様でした!
「調子のいい。さて、他に伝えておかなければならないのは……ああ、そうです。転生はこの一度きりと考えてください。二度目はありません。魔物は人間の天敵とされていますので、魔物を退治しようとする人が数多くいますが、殺されればそこで終了です」
キツくね!? 魔物を退治する人間の目をかいくぐって、人のためになる善行を積めと!? 無理ゲーだ!
もしくは、チート能力とかもらえたり?
「あなたが聖人君子であれば、特別な力を授けていましたね。実際に、力を授けて転生させた人はいます。クズには授けられません」
因果応報ってことか……
昔、言われてたよな。悪いことしたら地獄に落ちるとか。
地獄じゃなかったが、俺の行いが巡り巡って、こうなってると。
「せいぜい、反省してください。では、そろそろ転生させますよ。もう二度と会うこともないでしょう。会いたくもありません」
もう!? まだ聞きたいことは山ほどあるのに!
やっべ。チュートリアルすら碌に見ずに、超ハードモードのゲームに挑む感じ?
しかも、ゲームじゃなくて、自分の命がかかってる。死ねばおしまい。
デスゲームですら、もうちょい説明とかあるんじゃ?
あ、お姉さんの顔がぼやけてきた。これ、転生するってことなのか……
そこで、俺に届いたのは、若い男の声だった。
「遅かったか。既に転生が始まっているな。もう止められん」
「何か問題でもありましたか?」
「馬鹿者! 裁定が厳し過ぎる!」
待ていっ! どういうことだよ!
「私がこれまで所属していた部署では、これが普通でしたが?」
「お前の上位者が潔癖過ぎたのだ。部下まで潔癖になりおって」
やり直しだ! やり直しを要求する!
やっぱり、スカートめくりとかエロ動画とか、たいした罪じゃないんだろ!
「潔癖……でしょうか?」
「まあ、やってしまったものは仕方ない。誰にでもミスはある。次からは気をつけるように」
「承知しました」
次ってなんだ、次って! 俺は!? 俺はっ!?
おいコラ、そこの二人! 神様なら二柱か!? どうでもいいがやり直せ!
ふざけんなあああああっ!