5/100 お昼です。
持ってきてもらった石鹸で手を洗う。
「やっぱり石鹸にも、良い石鹸とか何とか用みたいに分類があるのかな?」
見たところ、普通に石鹸だ。あ、少し意識をすると説明が浮かんでくる。
普通の石鹸
牛乳から作られているやさしい石鹸。舐めるとちょっと甘い。
なるほど。少し注視する必要があるんだな。確かにこんな説明文がそこらじゅうで見えたら歩きづらいし景色も見づらいもんな。感覚的にはグロッサリー商品の説明文みたいなものか。よく見たら細かくびっしり成分やら注意事項やら書いてあるけど、意識しなければ模様と変わらない。
そういえば、現実世界でもARみたいな技術もあるし、それに近いものなのかも。ちなみにARってのは拡張現実とかってのの頭文字でVRの真逆。VRが仮想空間の中に入り込むのに対してARは現実世界に情報を持ってくる。ポケ○ンG○なんかがそれかな。
なんてことを考えながら手を洗い終える。ハンカチがないからシャツで拭う。
「泥のついた服のままだけど、中に入っていいのかな?」
自分の家だといやだよな。
「お、随分泥まみれだね。外作業をお願いしてたから、外でも食べられるものを用意したよ。せっかくだから椅子でも出して外で食べようか。」
ヤタガマ先生が提案してくれる。外で食べていいなら服装のことは気にしなくていいな。てか、さっきカトレアさんは中に入っていったような?どこに行ったんだ?
「ああ、彼女なら今ご飯を用意しているから、もうすぐ来るよ。」
俺がキョロキョロしてるのを見て先生が声をかけてくれる。
「その間に椅子の用意をしようかね。カトレアさんに外で食べることを伝えて来るから、少し待っててね。」
そういって先生がまた病院の中に入っていく。すぐに椅子を持って戻ってきた。
「あ、椅子がもう一ついるんだよね。今持ってきたこの2つの椅子をそこの日蔭に持っていってくれるかな?」
意外と行動派な医者なのかな?自分でちょこちょこ動いている気がするな。
椅子を運んでいると後ろから先生が椅子をもう1脚と小さいテーブルを持ってきた。その後ろにはバスケットを持ったカトレアさんがついてきている。見た感じピクニックだな。
「よし、お昼にしよう。今日は『特製サンドイッチ』だよ。栄養管理はもちろん僕が担当しました!」
先生のテンションがちょっと高い。なんでだ。
「先生は料理するのもうまいんだよ。君に振る舞うってことで興奮してるんだね。」
「そんなにうまいんですか?」
「なんでも、医者になるか料理人になるか迷ったくらいらしいよ。元々料理系のスキルと栄養管理っていう特殊能力があるんだって。」
「へぇそうなんですね。」
医者になるか料理人になるかで医者になった経緯とかも気になるけど、大事な部分を聞き流すところだった。
スキル?特殊能力?そんなものもあるのか。今の口ぶりだとスキルはいくつか系統があって、特殊能力はスキルとはまた別物みたいだ。今のところ俺のステータスにはスキルも特殊能力も表示されていない。今後ステータスに変化はあるんだろうか?
バスケットの中から『特製サンドイッチ』を取り出しながら先生がしゃべりだす。
「そういうわけだよ、ちなみに今日のサンドイッチはブタピの肉のカツレツをこの時期の旬のピコリンとカラランでサンドしたものだよ。ブタピの肉は疲労回復の効果とピコリンとカラランは隠しパラメータの身体維持機構に作用するんだ。もちろんこれだけじゃ食に関するトライアングルバランスが崩れてしまうから『特性ミックスジュース』も用意しているよ。フルーツをベースに緑黄色野菜を入れているから臭みはほとんどない。ここは自分のスキルの活かし所だったね。いい具合に作用してくれたよ。あ、そういえば今回のサンドイッチのバンズにはアレンジが加えてあってね、生地にナッツを練りこんでみたんだ。薬草系を入れようか迷ったんだけど見た目からしても栄養価からしてもこっちで正解だったと思うね。」
もう、「疲労回復」あたりからほぼ聞いていなかった。それは先生の説明が無駄に長いとか、よくわからない用語がたくさん出てきてるとかそういうことでなくて、出てきたのがサンドイッチと言いながら形状がどう見てもハンバーガーだったからだ。
・・・や、全然いいんだけどね。ちょっとびっくりしただけで。そういえば元居た世界でもどこかの国ではハンバーガーもサンドイッチも区別なく読んでいるってのを聞いたことあるからおかしくはないんだよな。
「いただきます」
先生がまだ何かいってるけど気にせず食べ始める。多分聞き終わる頃には日が落ちている気がしたからな。カトレアさんも慣れた様子で食事を始めている。それに倣っているんだから怒られはしないだろ?
――!うまい!
味は前の世界のカツサンドに似ている。だが予想以上に油っぽくない。さっぱりした後味だ。ブタビというのはほぼ豚肉みたいな感じだがイカに似た食感とさっぱりとした後味があって食べやすい。カラランとピコリンはキャベツとトマトみたいだが、この野菜たちがブタピのカツレツの後味のさっぱり感をより演出しているように感じられる。どちらも春から夏の野菜だからには水分を多く含んでいそうなものだが、カツの衣がべチャットはしていない。この世界ではそういう種類なのだろうか?
「おいしいですね。お店で買ってきたものみたいで」
「本当かい、いやあ良かったよ喜んでもらえて。ジュースも飲んでくれたまえ。」
ふむ、このジュースもかなりうまい。ベースになってるのはパイナップルと桃の味がする。そこにほんの少し食感をる程度にすりつぶした野菜の葉を感じる。臭くはないが、ただのジュースとも違う。スムージーよりもヴィシソワーズなんかに近いかもしれない。
この人、本当に料理人でもよかったんじゃないか?なにか理由があるんだろうけど、今は飯を食うほうが大事だ。
俺は時々先生の話に相槌を打ちながら、料理を堪能させてもらっていた。カトレアさんはずっと食べてたけどな。