The fight suddenly
怖くない、怖くない、その言葉だけが、俺の頭を回した
俺は、喧嘩も知らない、平和主義者気取りの腰抜けだ
ヒーローになりたい
そう、思った
でも、そんなことはできない
俺が弱いから、俺が腰抜けだから
そんな自分が腹立たしくて、嫌いで
そんな、気持ちを全部
このマスクに叩きつけて、顔にあてた
瞬間、グロの不気味な声が頭に響いた
「弱いな、実に弱い、人間はこんなものだったのか?綺麗事ばかり連ねて、結局なにもできないの動物なのか?」
周りを見渡す
俺が立つ、路地裏には誰もいない
ただ、人間の皮を被った怪物が、「ある」だけだ
『走夢さん!大丈夫ですか!?走夢さん!』
耳元から、優しい声が聞こえた
リアさんの、声
「大丈夫です、ちょっくら、人間の本気見せてきます」
…返事はなかった
が、なぜか今はそちらの方が心強かった
変形した腕を目の前の怪物に突き立てる
「よぉ怪物、人間が発達しすぎたとかなんとかだっけか?」
「…」
「返事をするはずもないだろう、そいつは力のみでできた物だ、知性などない」
そう、グロが呆れた声で言う
「だから、力でコミニュケーションするってか?」
「そういうことだ」
グロのその言葉を合図に、怪物の腕が「携帯」から鋭く飛び出し、体を貫こうとしてくる
「見える…」
グロが精神を食ってるおかげか、怪物の動きはスローに見え、軽々と避けることができた
そして、目の上を通った鋭い腕を爪で切り落とす
血も、なにも出ず、腕は光となって消えた
「つまり、無限に出てくるわけだ」
ずいぶん厄介だ、倒すためには…
と、考えている間も、腕を避け、切るを繰り返している
「人を殺すか、「携帯」を壊すか」
二択か
いや、一択だ
それにしても怖いほど体が軽く動く、グロのやつ、なんか俺の体に変な改造でもしたか?
「まあどうでもいいけどさ」
真正面に来た腕を飛んでかわし、その勢いのまま怪物、いや怪物に操られた人間の頭を左手でつかみ、体をひねり一回転し、背後をとった
「どうでもいいけど、もう終わらせようか」
ツメが鋭く本体を貫いた
ドサッ
人は倒れ、意識を失い、携帯から光は消えた
「ご苦労さん、ひょろひょろなボウズだと思ったが、結構な戦いぶりじゃねぇか」
手出しをせず、待っていてくれた松鶴さんが路地の角からヌッと出てきた
「すみません、ワガママ言って待っててもらって」
「俺が出たって、生身じゃ足手まといになるだけだろう、生身じゃな」
皮肉なように松鶴さんが言う
「生身だったら」今頃俺は死んでいた、当たり前のことだが恐ろしくも感じだ
「松鶴さんは戦闘、しないんですか?」
「生身の俺にしろってのか?」
「あ、いや…」
言葉が行き詰まった
「人間ってのは限界を持って生まれてくるもんだからよ、さすがにできねぇことはできねぇよ」
「あ、はい、その…」
「だったらなんで、あそこにきたのかわかんねぇけどな…」
プッ
気まずい雰囲気になったところに、無線の音がした
『松鶴さん!夢走さん!終わりましたか?」
凄まじく慌てた声で、リアさんが言う
『その地点の二駅先にある場所で複数名の捕食者が確認されました!』
「ふ、複数!?」
『はい、今急に飛び出していったあの、女性の方が向かっているのですが、もう何が何だか…』
「わ、わかりました、すぐ行きます」
少し困惑しながらも、場所と地点はしっかりとわかった
「あの女性って、みどりさん、でしたっけ」
「ああ、たしか、な」
なぜだか、その名前が少し記憶から消えかけていた
やはり、あの人は何か違う
「松鶴さん、行き、ますか?」
「ま、役に立てないが、な」
俺が右手に持つグロを見て、松鶴さんはそう言った