未来より
ある日、ボクの目の前にボクが現れた。
鏡で見ているいつもの姿と何ひとつ違うところはない。
唯一の違いは、ボクは寝巻きを着ていて男がボクの普段着を着ているということぐらいだ。
ドッキリやドッペルゲンガーと呼ばれるものかとも思ったが、
「ドッキリでもドッペルゲンガーでもないぞ」
男に速攻で否定されてしまった。
「まぁ、なんだ。この状況を見られたら面倒だろ」と言うと、ボクそっくりの男は家の中へとあがりこんだ。
たしかに同じ顔の人間が見つめ合っている姿を傍からみられたらおかしなことになりそうだ。
玄関で納得をしているボクを置き去りにして、台所へと男は向かった。
――なぜ台所?
後から付いていくと、男は煮干しを一匹手にしていた。
「んじゃ、部屋行こうか」
それだけを言いながら、ボクを先導するように男は台所を出て階段を上った。
ボクはやはり付いて行くしかなかった。
その途中で男は、『未来から来た』という話を始めた。
男の話をかいつまむと、ボクが明日死ぬというのだ。
男も、未来から来たという自分自身に会い、煮干しを持って階段を上りながら同じことを言われたらしい。
どうして死ぬのか、どうやって来たのか、男がボクならなぜ生きているのか、ほかにもたくさんの疑問が頭をよぎる。
どこから突っ込もうかと考えて、黙り込んでいるうちに階段を上りきり部屋へとはいってしまった。
男は、部屋にはいると真っ先にカーテンを開けて窓を開ける。
同時に、うちで飼っているサビ猫がヒョイと飛び込んできた。
全体的に黒と明るい茶色が入り混じり、手袋と靴下の部分がみごとなほどに白い。
体毛が長めですこし目つきが悪いが人懐っこく不思議な愛嬌がある
名前は『ゾーキン』。妹のつけた名前だが、悪意は無い。
ゾーキンはボクたちを交互に見ると少しのあいだ固まっていた。
「ゾー」
ボクが名前を呼ぶとゾーキンはこちらを振り向いた。
だが、ゾーキンの背後で男が煮干しを振ると、とたんに首をひねって振り返る。
男の足元へ歩み寄り、エサをもらうときの甘えるような鳴き声をあげた。
かがみ込み手のひらに煮干しを乗せてゾーキンへ差し出した。
ゾーキンは男の手から煮干しを食べ始める。
食べているゾーキンの背を撫でながら、男が勝ち誇ったような笑みでこちらをみていた。
未来のことも、男の言葉の真偽もわからない。
だが、ボクはいま、この上ないほどの敗北感を覚えている。




