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21層目からはコボルトが出現する、レベルは18~23とゴブリンと大して差はない。
ただ厄介なのが、ゴブリンよりも速いこと。
子鬼の名を冠する通り、ゴブリンはどちらかと言うとパワーファイターで当たらなければどうということはない。
対して、コボルトはスピードファイターに属するので1つ1つの攻撃は致命傷にならないけど、勿論攻撃を受ければ消耗していく。
現にリサちゃんは、あまりHPが減っていないのに動きが鈍くなってる。
精神的なダメージが増えてきている証拠だろう。
仕方ないので回復魔法を取ることにする。
『取得完了しました。このまま使用しますか?』
うん、お願い。
エルには今後魔法の自由使用を許可します。
僕達を守ってね
『任務了解しました』
さて、頼もしい援護が完成したところで、コボルト退治と洒落込もうか。
意気揚々と参加したのはいいもののコボルトの群れはリサちゃんが倒してしまっていた。
し、仕方ない、次のフロアいってみよー。
……あれぇ? マップ上にも敵がいない。
さっきまで居たのに、もしやエル?
『このフロア以外を対象に、熱魔法を使用しました。もちろん人間のいるフロアは別ですが』
上級悪魔さんはどうなったの?
『一応健在です』
一応なんだ、だったら早く30層目に行こう。
空間魔法の転移で30層目のボス部屋の前に移動する。
悪魔の周りにはオークが30体ほど、レベルは20固定、リサちゃんは25だからなんとかなる筈だ。
リサちゃんの護衛にエルをつければ完璧だろう。
これで僕と悪魔の一騎打ち……一騎じゃないけどね。
作戦を伝えると文句が返ってきた。
「オークを30体なんて無理だよ!」
「大丈夫、魔法で手伝うから」
「本当に?」
「うん、本当」
「絶対だからね?」
「約束するよ」
一段落したところで、ボス部屋に入る。
中に居た悪魔は大変ご立腹だった。
まあなにもないところからいきなりの先制じゃあ怒りたくもなるよね。
「なかなかに卑怯な手を使うな、ツカサよ」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「ふざけおって、オーク30を相手にどこまで立ち合えるかな?」
「グラビティ」
先制で重力魔法を放つ。
まずは10倍の重力、この重さだと普通の人間なら内臓が潰れて死んでしまうのだとか。
でも、さすがにそこはオーク、立ち上がることはできないけど、死んでもいないみたい。
そこにリサちゃんがとどめを刺していく。
僕はその間に悪魔に近寄る。
近寄りざまにレイピアによる突きをお見舞いする。
頭部を狙ったその一撃は咄嗟に腕をふるわれた事により防御されてしまう。
どうして? 攻撃のタイミングも力加減も完璧だったはずなのに。
『実戦にそぐわないものであれば完璧でしょう。しかし、完璧に型にはまっていたためにわかりやすくもあります』
なるほど、そういうこと。
要は虚実織り交ぜて攻撃すればいいということでしょう?
『是であります』
ちょうど、袴も着てることだし、久々にやってみよう。
左足に体重を預けて左足で踏み出して攻撃する。
さすがにこれは予想外だったらしく、悪魔は簡単に攻撃を受けた。
致命傷にはなってないけどこの方法でいけることが分かったと、ねえエル?
『足運びのスキルは取得しました』
さすが話が早い。
うん、どうすれば相手の虚をつけるか分かった。
今度は普通に踏み出して攻撃する。
繰り出した突きの軌道を防御される寸前でずらす。
胸を狙って頭にずらした感じだ。
今度は防御されることもなく頭にきっちりと突きが入った。
「見事、楽しいひと時であった」
「それは良かった、周りに迷惑にならない場所でなら、またいつでも戦えるよ」
「それはまた楽しみが増えたな」
そう言って、悪魔は消滅していった。
また光りに包まれて、迷宮から出た場所はちゃんとセイル市だった。