純粋な愛は人を狂わせる-Ⅷ
そう言って廉太郎が指をさした方向には母親が立って、店のご主人らしき人と話しをしていた。
「本当だわ。買い出しの途中なのかしら?廉太郎さん、今日はここまでで大丈夫です」
「そう?」
「はい。母もいますし。有り難うございます」
綾はそう言って、廉太郎の側から小走りで去って行った。
本当は、他にも理由があった。
何故か、廉太郎の側にいづらかったのだ。
だから綾は、母をだしに廉太郎の側から去ったのだった。
「お母さん」
「あら、綾?あなた此処にいたの」
「あなた一人なの?」
「うん。さっき、廉太郎さんと別れたところよ」
「あら、そうなの。まぁ、でも丁度よかったわ。」
綾の母親は、掌を頬に当て難しい顔をしていた。
綾は首を傾げた。
「どうしたの?」
「廉太郎さんについて、変な噂を聞いたのよ」
「え?」
綾の心臓は、何故かドキリとした。
「家に帰ってから話をするわ。ほら、帰るわよ」
「う、うん」
綾は母の背を追い、歩き出した。
綾の心は何故かざわついていた。
そして、チラリと頭の片隅にお菊の顔が浮かんだのだった。
・・・・・
・・・・・
家に着いた綾は、母の部屋にそのまま着いて行った。
綾と母はお互いに向き直って正座をした。
綾は、母からの言葉を待った。
「…実は、廉太郎さんについて、悪い噂を聞いたのよ」
「悪い、噂?」
「あの人、色んな女性に手をつけているっていう噂があるのよ」
「…え」
「あなた、この簪に見覚えがある?」
そう言って、綾の母は袖口から水のような色のガラス玉が付いている簪を出して綾に見せた。
綾は、それを見ると目を見開いた。
「その反応だと、あなたも貰ったのね…」
綾の口の中は、カラカラになっていた。
(今…あなたもって…)
母は言葉を続けた。