純粋な愛は人を狂わせる-Ⅶ
綾と廉太郎はお互い見つめあっていた。
「あ、あの!」
綾は、この恥ずかしさと沈黙が絶えられず声を出した。
「そろそろ、行きましょう」
「あ、そうだったね。あはは、ごめんね」
廉太郎はそう言って苦笑したのだった。
(はぁ~、恥ずかしかったわ…)
綾は自分の頬を両手で挟んで、小さくため息をついた。
「あら?廉太郎さん?」
「え?」
後ろから、知らぬ女性が声をかけてきた。
「!!」
廉太郎は、少し驚いてその女性を見ていた。
その女性は、自分とは違い、背が高くとても美人な人だった。
美しい女性は、綾をマジマジと見ていた。
綾は、どうしてこんなに見られるのかがわからず困っていた。
「えっと…」
「や、やぁ!お菊ちゃんじゃないか!久しぶりだね!」
「えぇ、まぁ。ところで、この方は…」
「あ、せっかくだし向こうで話そうよ。ごめんね、綾さん。ちょっと待ってた」
「はい」
そう言って、廉太郎はお菊という女性を連れて、人が少ない所に行ったのだった。
綾は、それを見送り自分も人がぶつからない壁端に移動した。
(あの方…誰かしら?)
チラリ、と横目で廉太郎とお菊といえ女性を見た。
何やら二人は楽しそうに話していた。
(お知り合い、なのよね)
そう思っていると、女性の頭に挿してある簪に目が行った。
(あれって……)
「私と、同じ?」
そう言って綾は自分の頭に挿してある簪に触れた。
そして、もう一度お菊が挿してある簪を見た。
(色は違うけど、形が同じだわ)
「たまたま、よね」
綾はそう言って苦笑した。
苦笑していると、ふと目の前に影がかかった。
「あ、廉太郎さん」
「お待たせ」
「お話はもう大丈夫なのですか?」
廉太郎は苦笑して
「まぁ、うん。一応ね」と、言った。
「ほら、行こう」
「はい」
そう言って、二人はまた歩き出した。
「あの、廉太郎さん。彼女とはどういったお知り合いなのですか?」
「ん?あぁ、彼女はいつもお世話になっている家の娘さんだよ」
「そうなのですか」
「うん。行きつけのお店があって、そこのお嬢さんなんだ。だから、会ったらああやって少し話しをするんだ」
「…………」
「綾さん?」
綾は少しボーッとしていた。
「えっ?!あ、す、すみません!少し考え事を…」
「そうなの?」
「はい…」
「あ、あれ、お母さんじゃない?」
「え?」