純粋な愛は人を狂わせる-Ⅰ
~純粋な愛は人を狂わせる~
―ここは、ある街の和菓子屋である。
その店の娘は、長い黒髪を一つに結い、店の接待をしていた。
「それじゃぁ、綾ちゃん。また来るよ」
「はい。お待ちしていますね、滝おじいちゃん」
そう言って、綾は老人に頭を下げた。
そして、入れ違いに若い男性が店に入って来た。
「やぁ、綾さん」
「廉太郎さん」
綾は、嬉しそうな顔で、男の名を呼ぶと側に歩み寄った。
「相変わらず、ここの和菓子屋は美味しそうなのが多いね」
「ふふ、それが当家の自慢ですから」
綾は口元に手をやり、クスクスと笑った。
「ところで、廉太郎さんは今日もいつものをお求めですか?」
「あ~……そのぉ…」
「??」
廉太郎は、少し目を泳がせ頬を掻いた。
「えっと……今日は、君にこれを渡しに来たんだ」
そう行って、廉太郎は着物の懐から、袋に包まれた物を出すと、それを綾に渡した。
綾は、それを受け取ると
「これは?」
と、言った。
廉太郎は、恥ずかし気に「開けて見たらわかるさ」
と、言った。
綾は袋を綺麗に開けた。
「……まぁ」
袋の中には、紅い雫と蝶をモチーフにした簪が入っていたのだった。
綾は、それをじーっと眺めた。
「…綺麗」
「喜んでくれた?」
「はいっ」
そして、綾は早速その簪を自分の髪に挿した。
綾が頭を動かすと、チリンと鈴の綺麗な音がした。
「どうですか?似合いますか?」
「うん。凄い綺麗だよ。」
「ふふふ」
綾は、少し照れ臭そうに笑った。
「やっぱり、君には紅い色がとても似合うよ」
そう言って、廉太郎は綾の頬を優しく撫でた。
「…あ」
綾は、ビクリ、と体を震わせた。
でも、嫌では無かったので綾はその手から逃げなかった。
―すると
「こらこら、二人とも!ここは、お店ですよ?そんな甘い空気を漂わせるんじゃありません」
と、二人の後ろから年配の女性が現れ綾と廉太郎に叱咤をしたのだった。