純粋な愛は人を狂わせる-ⅩⅣ
……………
「げふっ。あ~、喰った喰った」
「お粗末さまです、ロロ」
「へへ~」
そして、楓はパチンと指を鳴らした。
すると、何かが割れる音が聞こえた。
「やれやれ。叫ぶのはいいけど、周りに気を遣うこっちの身にもなってほしいですね」
「仕方ないよ。だって、人間だもん。驚かない方が可笑しいよね」
「やれやれ。さて、帰りますよロロ」
「は~い」
そして、黒い物体は小さな猫の姿になり、楓と黒猫は暗闇の狭い路地へと消えて行ったのだった。
………………
―後日
それは、下町の中で噂されていた。
「ねぇ、知ってる?」
「何が?」
「油屋の息子さん、行方不明らしいわよ」
「そうなの~」
「えぇ。まぁ、あの人、女遊び酷いって聞くし、何かあったのかもねぇ」
「そういえば、昨日、東屋の娘さんと一緒にいるところを見たわ」
「私なんて、氷屋さんの娘さんと一緒のところを見たわ」
「あそこの旦那も、手を焼いていたらしいけど…」
「今回の行方不明事件、どうなるのかしらねぇ」
「こわいわねぇ」
「あら、あんな所に黒猫が。いやぁねぇ、なんか不吉な事でも起きるのかしら?」
§-§-§
「ただいま~」
「おや、おかえりロロ」
ロロは、鈴をチリンチリンと鳴らして楓の机の上に乗った。
楓はというと、やはり、温かい紅茶を優雅に飲んでいた。
「楓、あの街、噂になってたぞ」
「どんな?」
「廉太郎が行方不明になってるって」
「へぇ、それは大変だね」
「………口先だけのやつ」
ロロは、ポソリと呟いた。
「ちゃんと、聞こえていたよ、ロロ?」
「ふ、ふんふ~ん♪」
ロロは、知らないとばかりに横を向いて鼻歌を歌った。
そして、ハッとして楓の方を見た。
「そうだ!途中、失礼な人間がいたんだよ!!」
「ん?」
「俺を見るたびに、不吉だ~とか言ってさ…。」
ロロはそう言って、口先を尖らせた。
「あいつもそうだった。化け物とか言ってさぁ…ちぇ」
楓は、そんなロロを見て苦笑した。
そして、ロロの頭を優しく撫でた。
「俺を、そこらの下等な奴等と同じにしないでほしいよっ。俺は、もっと高貴な悪魔なんだぞっ」
「そうだね」
「あ、楓。そういえば、今回の報酬は何なんだ?」
「ん?あぁ、そうだね……彼女の思い出全て、かな」
「思い出?」
「そう。廉太郎君と過ごした時間、全ての思い出」
「ふ~ん…それってさ、珍しく安くないか?」
そう言われた楓は、ニコリと笑った。
「そうでもないよ。幸せな思い出、そして、その後の思い出を消す…ということは、彼女は、また、純粋な女性に戻ったということだ」
「う~ん…うん?」
「ふふ。人はね、辛い思い出があるからこそ、次は、失敗しないように頑張る。しかし、その記憶がないとすると…失敗はまたやってしまう。用は、彼女は、また同じことを繰り返す、ということだよ」
「う~ん…よく、わかるような…わからないような~。
えっと、つまり、あの子はまた変な男に出会うってこと?」
「さぁ、それはどうだろうね?」
楓は、ニコリと笑って紅茶を飲んだ。
ロロは、ため息をついて
「はぁ、人間って、やっぱりよくわからないなぁ」
「そうだね」