純粋な愛は人を狂わせる-ⅩⅢ
§-§-§
「あ~、くそ寒いなぁ~」
廉太郎は、そう言って軽く身震いをして静かな夜の道を歩いていた。
「しっかし、最近、これっていう女いねぇよな。あいつも上手く行くかと思ったら、大ハズレだったし。あ~…そういや、あの時他の女も現れた時は焦ったなぁ」
「他の女…というと、お菊さんかな?」
「!!!!」
廉太郎が独り言を言って呟いていると、狭い路地から男が出てきた。
「だっ、誰だお前は?!」
男は、ニコリと微笑みんだ。
「これは申し遅れました。私、呪い屋の主、楓と申します。」
「の、呪い屋?」
「はい。本日、ある方のご依頼により、貴方様の死を願う方がいらしまして」
「!!!」
廉太郎は、その言葉を聞いて後ずさった。
「おやおや」
「お、俺の死を…願う、だと?」
「えぇ。」
楓は微笑み、一歩足を踏み出した。
廉太郎はそれに驚き、そして、その楓の微笑みに何故か恐怖を感じ一歩後ずさった。
「……………う」
「う?」
「うわぁぁぁぁ!!!」
廉太郎は、一目散に楓から逃げて行った。
楓は、廉太郎の逃げる姿を見て苦笑した。
「困りましたね。でも、こちらも仕事なので」
廉太郎は走り続けた。
後ろを振り返らず、一目散に走り続けた。
―しかし
「!!!」
「こんばんは」
走り続けた廉太郎の前には、楓が待ち構えていた。
「な、なな何で……」
廉太郎はそれに驚いて、また、一歩後ずさり、後ろを振り向き走った。
「逃げられませんよ」
「うわっ!!…うっ…な、なんだ?」
数歩走った所で、廉太郎は何かの壁にぶち当たった。
「な、なんだよ……見えないっ!?」
ドンドンと目の前の見えない壁を廉太郎はひたすら叩いた。
コツコツと、廉太郎の後ろから足音が近づいてくる。
「ひっ!!た、助けてくれ!!!誰か、助けてくれ!!!」
廉太郎は、見えない壁を叩き続けた。
助けを求めて叫び続けた。
足音は次第に近づいて来て……遂に、止まった。
「!!!!あ…あ…」
廉太郎は、恐る恐る後ろを振り向いた。
そこには、楓が立っていた。
「う、うわぁぁぁぁ!!!ゆ、許してくれっ!お願いだっ!!何でもするっ!!金も渡すから!!!」
廉太郎は、泣き崩れ土下座をした。
楓は、塵でも見るかのような目になり、廉太郎を見ていた。
「やれやれ。人間というものは、本当に貪欲ですね。そして、救い用のない馬鹿です」
「ひっ!!」
先程の楓の声より冷徹さが含む声に、廉太郎はビクついた。
「なぁ楓~、いつまでお預けなんだ?」
楓の後ろから、少年の声らしきものが聞こえた。
「そうだね。そろそろ、いいでしょう」
「やった!」
楓がそう言うと、楓の後ろから聞こえた声は、ウゴウゴと姿を現した。
「…あ…ぁ…」
「あ~、久々のご飯じゃん」
「ば……化け…物…」
姿を現した黒い物体は、廉太郎より数倍大きな巨体をしていた。
そして、廉太郎の側まで来ると、大きな口を開いた。
口の周りを少し舐めると
「いただきまーす」
と言ったのだった。
「う、うわぁぁぁぁぁっ……」