純粋な愛は人を狂わせる-Ⅻ
§-§-§
「ようこそ、呪い屋へ」
「ここが…呪い屋?」
「えぇ、そうですよ。さぁ、奥の部屋へとどうぞ」
そう言って、楓は綾を奥の部屋へと連れて行った。
「さ、そこのソファにどうぞ」
綾は、真紅のソファに腰を下ろした。
「あの…私…」
「人を呪いたい、ですか?」
綾は深刻な顔をした後、ゆっくりと頷いた。
楓は、そんな綾にニッコリと微笑んだ。
「そんな硬くならないでください。島村綾さん」
綾は、その言葉に驚き目を見開いた。
「どうして、私の名を…」
「こちらも色々と事情という物があるので、事前に調べさせて頂きました。貴女が、このチラシを手にした時点で…」
そう言って、楓はチラシを一枚綾に見せた。
「…………」
「さて、貴女が最も呪いたい人間。それは、誰ですか?貴女の口から申して下さいませ」
「私が…呪いたい相手、は………。風見 廉太郎という男です」
綾は、一息ついてから名を告げた。
「なるほど」
楓は、そう言って何かを書き出した。
「理由は?」
「憎いから……あんな奴に私は…っ。アイツなんて死んでしまえばいいっ!どうせ、お金がある他の女にもああやって騙してるんだわっ!!」
「………」
綾は、最初は段々血走った目になっていた。
「あんな奴に騙されたぐらいなら、殺して何もかも無かったことにすればいいっ!!人を馬鹿にした人間なんて、この世から死ねばいいわっ!!…………ふ……ふふ…ふふふふ…」
「…なる程。呪いには代償が付き物です。それでも、貴女は彼を?」
「代償が何だろうが構わないわ!」
「わかりました。では、こちらの紙に人差し指を押し付けて下さい」
楓はそう言って、ある紙を机の上に置いた。
綾は、それを確認しようともせず、人差し指を紙に押し付けた。
すると、直後に指に痛みが血走った。
「!!」
「安心して下さい。これは、了承のサインですから。少し、貴女の血を頂いたまでです。」
「血を…?」
そう言って綾は、紙に押し付けた指を見た。
そこには、一滴の血が流れていた。
「……ふふ…こんな痛み…あの時に比べれば…」
「契約は完了です。ご依頼、有り難うございました。」
「ふふ……ふふふ」
楓は、綾を立たせ店の入り口に向かい綾を送った。
その時の綾は、今だに指を見たまま虚ろな瞳で笑っていた。
・・・・
・・・・
「まさか、あの可愛くて綺麗な女の人がなぁ」
「彼女と知り合いだったのかい?」
「ほら、例の茶屋で会った人だよ」
「なるほど、彼女が。やはりロロには、不思議な縁を繋げる何かがあるみたいだね」
「はぁ?んなわけないじゃん」
「ふふふ」
「それよりさ、これからどうするのさ?」
楓は、掛けてあったジャケットとハット帽を手に持つと
「もちろん。仕事、だよ」
と言って、ロロに微笑んだのだった。