純粋な愛は人を狂わせる-Ⅹ
「…………」
「母に、諦めなさいと言われました。父は、そういう噂がある人は嫌っているので…その…厳しいだろうとも…」
綾は、視線を床に落とした。
「このままは駄目だから、ハッキリしたいから、今日、あなたを此方に呼びました…」
綾は、ゆっくりと目線を上げ、廉太郎を見た。
廉太郎の表情は、先程と違って、無だった。
「廉太郎…さん?」
綾が廉太郎の名を呼ぶと、廉太郎は溜息をついた。
「最悪だよ」
「…え?」
綾は、廉太郎の口から出た言葉に驚いて目を見開いた。
「上手くいくと思ってたのに、ほんっと、上手くいかないよね」
「れ、廉太郎…さん?何を…」
何を言って、と言おうとした綾だが、廉太郎が遮るように言葉を重ねた。
「あの女も、変なものを置いていったよな。最悪。そもそも、俺は最初から遊びだと言ったのにさ。迷惑も甚だしいね」
「………」
「このまま、君と結婚出来て家柄も俺の物になるかと思ったのに。母親と君が騙されても、父親が駄目じゃ意味ないし。あーぁ」
廉太郎は、舌打ちをして頭を掻いた。
綾は、ワナワナと口を開いた。
「……どうして、廉太郎さん…」
「どうしたも、ね。最初から、そのつもりで近づいたんだよ。俺が興味をあるのは、お金と家柄だけだよ。」
「そんな…」
「ほんと、女って馬鹿だよなぁ。純粋な女なほど馬鹿な人はいないよ」
そう言って、廉太郎は高笑いをした。
「………」
「真っ直ぐなままに信じてる君は、まぁ、可愛くて面白かったくらいにはなったかな。バイバイ、綾さん」
ニッコリ笑って、廉太郎は綾の前から去ったのだった。
綾は、廉太郎の背をずっと見ていた。
そして、拳を強く握りしめ、唇を強く噛んだ。
「そんな…本当に…。…悔しい。」
(あんな人に、恋をした自分が、信じた自分が悔しいっ!)
そう思っていると、何処からか綾の前に一枚のチラシが飛んできた。
綾は、目の前に落ちてくるチラシを見た。
そこには、こう書いてあった。
《-呪い屋
憎しみがある方。
心に悔やみがある方。
誰かを、呪いたい方。
そんな人は、丑三つ時に神社の鳥居を潜りませ。
さすれば、我が店に着きましょう。》
「…呪い、屋…?」
綾は、チラシを見てポツリと呟いた。
《ほんと、女って馬鹿だよね~。純粋な女なほど馬鹿な人はいないよ》
《真っ直ぐなままに信じてる君は、まぁ、可愛くて面白かったくらいにはなったかな。じゃ、僕は家も継がない人間に興味無いから。バイバイ、綾さん》
綾は、廉太郎の言葉を思い出し、再唇を噛みチラシを握って立ち上がった。
そして、ゆっくりとある場所に向かって歩き始めたのだった。