純粋な愛は人を狂わせる-Ⅸ
「この簪を貰ったお嬢さんがいるのだけれど…そのお嬢さん、彼に騙されたと言っていたらしいわ。」
「…それ…どういうこと?」
「そこのお嬢さんも、廉太郎さんとお付き合いをしていたみたいよ。そして、この簪を貰ったのだけれど…彼、他の女性ともお付き合いをしていて、色は違うけれど同じデザインのこれを女性に渡しているらしいわ。」
「……で、でも、噂でしょ?」
「えぇ。だから、鵜呑みにしなくてもいいのだけれど……そこのお嬢さん、彼の失態を見つけた後、自殺したらしいのよ…。」
「そんな…」
「そこのお嬢さんなんだけれどね、家の常連さんの娘さんなのよ。」
綾の母は、小さく溜息をついた。
「親御さんに強く言われたわ。彼には気をつけなさいと。綾、あなた、彼と結婚したいとお思い?」
綾は、目線を母から落とした。
「……したい…と思っていたわ」
母は、その言葉を聞くと、また溜息をついた。
「やっぱりね。…でも、あなたには申し訳ないのだけれど、そんな噂があるような人に、家には嫁がせることは出来ないわね。お父様も、反対なされると思うわ」
「………私…廉太郎さんに聞いてみる」
「…綾」
綾は、母の目を真っ直ぐ見つめた。
「噂なんて、信じるものじゃないけど…このままは駄目だから」
「…そう。でも、結果がどうであれ、この噂が続き知れ渡っているなら、あなたはもう彼のことは諦めなさい。」
母は、強い眼差しで綾に言った。
綾は、渋々首を縦に頷いた。
そして、綾は、次の日の夕刻に廉太郎を人通りが少ない場所へと呼び出した。
「やぁ、綾さん」
廉太郎は、ニコリと綾に微笑んだ。
綾は、その表情が好きで、綾自身も微笑んだ。
「廉太郎さん」
「どうしたの?急に呼び出して」
「すみません。実は…」
綾は、廉太郎に母から言われた事、そして噂の事を全て話した。
廉太郎は、黙って聞いていた。