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とある非才の育児放棄(ネグレクト)

フェアリーテールにピリオドを

作者: 維川 千四号

 本拙作は、未完のまま終わります。

 そういったモノに納得できない方は、ご遠慮下さいませ。


※大変お手数ですが、詳しくはシリーズの説明をご覧ください。



 迫る矛先を躱した際に、顔から飛び散った飛沫。それで初めて、レイスは自分が泣いていることに気付いた。


 ――兄さんが死んだ。


 二人っきりの兄弟だった。

 強引で、血の気が多くて、変なところで頑固で、そのくせ妙にちゃっかりしていて――そして、どこまでも優しい兄だった。何度も喧嘩をしたが、レイスは一度だって嫌いになったことはなかった。

 だけど、死んだ。

 いや――殺された。


「お前の――お前のせいでぇぇぇっ!」


 左の剣で相手の槍を斬り上げ、がら空きになった胴体に右の一閃を放つ。

 森を覆う深い霧の中に響く快音と、振り抜いた右手に残る確かな手応え。その証に、目の前の真っ赤な全身鎧(フルアーマー)は、ガシャリと重厚な音を立てて膝から崩れ落ちた。


『西の森に《赤騎士の亡霊》ってのが出るらしいんだよ。だから明日、ちょっと討伐に行ってみようぜ』


 二人で立ち上げた、二人だけの新設ギルド《双翼の剣(ツヴァイ)》。一昨日、そこに帰ってくるなり言った兄の言葉を思い出し、レイスは奥歯を噛み締めた。

 思えば、それが間違いの始まりだった。

 自分が一言「やめよう」と言えば、こんなことにはならなかったはずだ。とどめを刺す瞬間、コイツの言葉に惑わされ、兄さんが動きを止めなければ。その不意打ちを、防ぐことができていれば。その上、コイツに逃げられるようなことがなければ、こんなことには。

 だけど、そんなことを今さら悔いても仕方ないと、レイスも充分理解していた。この復讐を果たしても、兄が戻ってくるわけではないということも。

 だがせめて、あれは何かの間違いだったと――兄は弱いから死んだのではないと、証明することはできる。

 その想いだけを胸に、両の剣を振り上げるレイス。

 眼下で跪く鎧は、黙したまま動く気配すらない。そして、その気配を与える気もない。

 この一撃で、全てを――


「終わらせるっ!」

「――終わるのはこの世界の方だよ、レイス」


 声と共に、背後から鈍い衝撃が走り抜けた。


「……な、ん……で?」


 硬直する身体を無理矢理動かし、自らの胸元を覗き込むレイス。そこには、漆黒の大剣が自身を貫いている光景が広がっていた。

 痛みは感じなかった。おそらく、限界値を超えたダメージなのだろう。だけどそんなことよりもとにかく、大きな疑問が頭に浮かんだ。

 何故なら彼にはその大剣に、そしてその声に覚えがあったから。


「グラン、兄さん……?」

「ああ。ごめんな、こんなやり方で。だけど、この世界は間違ってるんだよ。だから」


 振り返ることすらできない身体と、瞬く間に黒く塗り潰されていく視界。そこに何か赤い文字列が浮かぶが、意味はまるで理解できない。

 そんな中で、レイスは最後のその言葉を聞いた。


「おやすみ、レイス。そして――




 ――おはよう、(ひかる)


 シミ一つ無い真っ白な天井。直接目に入らないように配慮された照明。そして、自分を覗き込む兄の顔。


 ――兄さんの……顔?


 どうして自分はその顔を兄と認識したのか。

 その疑問が、一気に彼の頭を支配した。

 何故なら、目の前の顔は金髪碧眼ではない。輪郭こそ近いものがあるが、髪も瞳も深い黒で、グランとはまるで別人だ。

 それなのに何故、それを当然のように兄と思えたのか?

 そして『光』とは、誰だ? 自分の名前? どうしてそう思う?

 そもそも、ここはどこだ? 死んだはずじゃなかったのか? ゲームオーバーになったんじゃなかったのか?

 ん、ゲームオーバーって何だ?

 ゲーム……オーバー? ……ゲーム?

 この世界は――間違ってる?


「……そうか。ゲームだったのか、あの世界は……」

「さすが、君の弟だな。理解が早い」


 兄の後ろから聞こえた感嘆の声に、上半身をベッドから起こそうとする光。しかし、それはすぐに「ああ、寝たままで大丈夫だよ。筋肉がだいぶ衰えているから、無理しない方がいい」と、声の主に制された。

 そして、おもむろに光の視界に入ってきたスーツ姿の男。眼鏡の奥に猛禽のような目を宿した彼は、それと同じ鋭さを持つ声で言った。


「はじめまして、山神(やまがみ)光くん。私はサイバー犯罪対策課の大和(やまと)です。目覚めたばかりのところ大変申し訳ないが、君には是非我々に協力してもらいたい」

「……協力?」


 思った疑問をそのまま口にする光。

 それに、大和と名乗った男は「ああ」と視線を逸らさず首肯し、こう続けた。


「君には、あの世界に囚われた人々の〝暗殺〟をお願いしたい」




『設定資料』


★世界観

 近未来の日本。VRMMO-RPG『フェアリーテール・オブ・ユグドラシル(通称:FoY)』というゲームが流行していたが、ある日突如、何者かにシステムを乗っ取られ、プレイヤーに『ゲーム世界が現実』だと誤認識させられる事件が発生する。犯人、そしてその目的も一切不明なまま一ヶ月。サイバー犯罪対策課、通称C3Oは『プレイヤー間の攻撃が可能(ただしフィールドに限る)』『ゲームオーバーになると強制的にログアウト』というルールを利用し、ゲーム世界に囚われた人々の救出を試みる。



★登場人物


・山神光/レイス

 事件に巻き込まれた高校生。ゲーム内で兄に殺され、現実に帰還。死んだ現場を誰にも目撃されていないため、ゲーム内で自由に行動できる数少ないプレイヤーとなった。

 ゲームでの職業は、スピード重視の『双剣士』。本当に殺されると思っている他のプレイヤーに戸惑いながらも、救出のための暗殺を実行していく。


・山神太一/グラン

 光の兄。大学生。世界に違和感を抱いていたところ、赤騎士と交戦。「この世界は間違ってる」と言われ正気に戻る。公務員志望で、警察に協力することでコネになるかもという下心もあり。

 ゲームでの職業は、攻撃力重視の『大剣士』。レイスによって他のプレイヤーに死亡が報告されたため、彼らをフィールドに誘い出すことはできない。


・武内美空/クゥちゃん(赤騎士)

 C3Oの新人で、赤騎士の正体。職業が違うのに『槍騎士』の装備を買ったり、配属三日目で事件に巻き込まれたり、挙句『クゥちゃん』の名前で捜査しなければならないなど、色々残念な人。

 ゲームでの職業は『魔法使い』なので、『槍騎士』のスキルは一切使えない。だが人知れず死亡し、全身鎧で顔もバレていないので、レイスと同じく自由に動ける存在。ただし、すこぶる弱い。


・大和武文

 美空の直属の上司で、今回の救出作戦の責任者。これまでにも数多くの事件を担当し、警視庁内で『眠らない鷹』という異名を持つほどのキレ者。

『新規プレイヤーの受付拒否』『生体認証によるログインシステム』という障害により、自分自身でゲーム内に潜入できないことをもどかしく感じている。

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