弥生と睦月、恋の予感
弥生の部屋。
弥生は一人考え事をしていた。
睦月のことだ。
あれ以来、睦月さんの顔が頭から離れない。
どうしてだろう。
ほめられたわけじゃないのに。
どうしてこんなにも苦しいんだろう。
ずっと気になっていたあの寂しげな表情。
忘れることが出来ない。
それと、睦月さんが言っていた。
『自分の身は自分で守れ』
と。
『自分のことを知らなすぎる』
と。
まったくその通りだと思う。
自分のことなのに、
自分のことが全く知らないなんておかしすぎる。
少しでいい。
少しでも自分のことを知れたら……。
もっと、自分と向き合えたら……。
そして、睦月さんの力になれたら……。
ぎゅっと胸の前で両手の拳を握る。
よし!
まずは、睦月さんとお友達になろう!
睦月さんとお友達になれたら、自分の正体を突き止めよう!
そうすれば、少しは睦月さんも……。
弥生は少し頬を赤らめながら天を仰ぎ見る。
「よぉし! がんばるぞー!!」
弥生はさっそく行動に移した。
図書館入り口前
「どうしよう……」
弥生は思わず顔を引きつらせる。
「睦月とお友達に」なーんて思ってはいたが、そもそも、相手の住所とか全く分からないのにどう友達になれというんだろう。馬鹿にもほどがある。初めて会ったのが図書館だったというだけで図書館に来ただけで、あては全く無い。そんなこと、睦月が知ったらどう思うだろう。余計馬鹿だと思われる。いや、絶対そうだ。ここまできたのはいいがこの後はどうしたらいいんだろう。
表情は普通だが、内心相当あせっている弥生。
どうしようもないので、あきらめて帰ろうと振り返る。
その時。
「お前は……春野弥生?」
ちょうど振り返った先に睦月がジャージ姿で立っていた。
「む、睦月さんっ!?」
どうしてここに、と言わんばかりの顔でびっくりする弥生。
まさか本当に睦月に会えるとは思っておらず、まだ心の準備が出来ていない。
「一体そこで何をしている?」
怪訝そうな顔で覗き込むように見詰める睦月。
「え、いや……、睦月さんを探してて…………」
「俺を? それまたどうして?」
睦月はますます怪訝そうな顔を深める。
弥生はしどろもどろになりながらつぶやく。
「む、睦月さん、こ、この前助けてもらったとき、どこかさびしそうな表情したから、む、睦月さんの力になれないかなぁ~と思って……。それで、もし、お友達になれないかなぁ~と思ってここに……」
「さがしに来たというわけか……」
弥生は恥ずかしそうに無言でうなずく。
弥生のうなずきを受け、はぁ~とあきれたため息を漏らす睦月。
もうだめだ。力尽きた。こんな自分と友達になんかなってくれるわけが……。
「別にかまわないけど。友達」
「えっ?」
思いがけない言葉に弥生は声をあげる。
「い、いいの?」
「あぁ。頭は馬鹿だが、根は悪い奴じゃなさそうだし、もし、嫌だといったら泣かれそうだし。女が泣くのは一番やっかいだからな」
そう言うと、弥生を一目する。
「形だけなら、まぁ、少しくらい別にいいかなぁ、と思っただけのことだ」
「でも、友達になってくれると思ってなかったら、すごくうれしい!」
弥生は満面の笑みで睦月を見続ける。
「その顔やめろ! あ、あくまで形だけだからな! 深追いなんかするなよ! わかったか!」
睦月はそれだけ言い残すと走り去ってしまった。
「うん!」
元気いっぱいの返事をする弥生。
まさかほんとに友達になれるなんて。形だけだけど。でも、それでもうれしい! どうしてこんなにもうれしさがこみ上げてくるかは知らないが、とにかくうれしい!少しずつでいい。少しずつ、絆っていうか、深められたらなぁ~~って。
弥生の顔から笑みがこぼれ続けた。
*
とある公園。
睦月はある公園にたどり着いた。
まだ、心臓の高鳴りを抑え切れないままベンチに座る。
全く……。
なぜか、知らずにため息がもれる。
まさか、思わず助けた奴が自分の力になりたいなんていってくるとは思ってもみなかった。しかも、友達になりたいなんて。一応形だけはということで承諾したが、俺は馬鹿か。なんであんなこといったんだ。
睦月が考え込んでいると近くからある男の声。
「青春してるね。睦月」
顔を上げるとそこにはシャルロットの姿があった。目の前で仁王立ちしている。
「何のようだ?」
「何のよう? お前はあの小娘とおんなじことを尋ねる。どうしてそんなことをたずねるんだい? 昔、一緒に相棒を組んだ仲じゃないか」
「だからだ! お前は自分の願いのためなら何でもする奴だからな」
「だから、相棒を辞めた……というわけかい?」
「あぁ。それで? 何?」
睦月はにらみつけながら見上げる。
「また、一緒に手を組まないかい?」
「何……だと?」
「お前の力が必要なんだよ。夢石を手に入れるためにはね。夢石は『大切な人への思い』に反応して現れる。だから、あの小娘の『大切な人』になりつつあるお前はうってつけというわけだよ」
「また、俺を利用するつもりか?」
「人聞きの悪い。だから、協力してほしい。それだけのことだ」
「それだけのことならば、俺の前に出向くはすがないだろう。お前の性格からして」
「あぁ、その……通りだ」
シャルロットは突然、黒の光球を睦月の腹に直撃させる。
睦月はそのまま地面に倒れ付す。
倒れた睦月を米俵のように担ぐシャルロット。
「さすが、睦月だな。ラリアがほれるだけのことはある」
フッと不敵な笑みを浮かべた。
その一部始終を黙って遠目するチェリーの姿があった。