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弥生と夢石  作者: Runa
第三話
6/16

弥生と現れた少年・睦月

 

 

 

 次の日。

 

 海堂町にある図書館。図書館の個室で淡々と勉強を進める弥生。実は昨日の出来事の後、襲われた痛みが後からやってきて、勉強どころではなくなってしまい、昨日は結局やらずじまい。次の日になり今日こそはと思ったが、葉月が塾のため結局一人でやることになってしまった。さらに、いつもの場所が夏休みの宿題をやる人たちですべて席がうまったため、しかたがなく、個室で勉強することになった次第である。

「あ~ぁ。いいなぁ……、親がいる人って」

 思わず落胆のため息をもらす弥生。

 

 本来は施設に入って生活するべきなのだが、なにせ、両親不明どこでどうやって生まれたかも分からず、両親の名前すら知らない。しかもお金が生活するだけでいっぱいで、施設に入るお金が全く足りないときた。施設に入れば、お友達がたくさんできるかもしれないが、正体不明の少女を入れようとするところなんてまずいない。楽しそうなんだけどなぁ~~……。

 再び落胆のため息が漏れる。

 

 だが、今はそんなことを考えている余裕はない。今は夏休みの宿題をやるのが先。昨日、やれなかった分もきちんと取り戻して、外で遊ぼう。しかもこの海堂町はすぐ近くに海がある。家からも近いので、この時期は遊び放題。けど、宿題が終わっても無いのに遊ぶのは気が引ける。やっぱり夏休みの宿題を終わらせて遊んだ方がまだマシだ。

 宿題がおわったら何して遊ぼう。やっぱり海に行くんだから泳がないと。一人より葉月や友達をさそってみんな遊ぶのが一番いい。よし! 宿題が終わったら、葉月たちをさそって海泳ぎだ。けっこう、楽しくなるぞ~~!

 楽しそうに笑みをこぼしながら、手を進める。

 その時。

「のんきな奴だ」

 聞き覚えのある男の声。

 聞こえてきた方向に目を向けると個室の仕切りの壁の上に座るようにして弥生を見詰める一人の男。

 昨日、弥生を襲ったシャルロット本人だ。

 弥生は思わず立ち上がる。

「心配するな。他の奴らには俺の姿は見えてはいない」

「何しに来たの……?」

 警戒した顔でシャルロットを見上げる弥生。

「昨日の答えを聞きにだ」

「ちゃんと答えたはずですが?」

「あの答えは無効だ。俺はあんな頭の悪い答えは嫌いでね。常に自分の思ったことしか納得しない性分でね。自分と考えてた答えが違うと何が何でも押し通そうとしてしまうんだよ」

 頬をかきながら「困ったものだ」と言いたげに苦笑して肩を竦めるシャルロット。

 そのシャルロットを見詰めながら、後ずさりする弥生。

「どうした? なぜ逃げる? 何も、しないさ」

「う、うそよ!自分と考えてたことが違ってたら、何が何でも押し通してしまうっていったじゃない!!」

「ふっ。 頭が悪いのか、良いのか、困った奴だな。やれやれ。仕方がない……」

 シャルロットは上から降りてくる。

 そのとたん、弥生の中で身の危険率がいっそう高まった。

「さて。もう一度問う。夢石をこの私に渡すか差し出すかどっちだ」

 弥生的には渡すも差し出すも同じだと思うのだが……気のせい?

 そう思いながらも恐怖で体の震えが止まらない。

 シャルロットとの距離が縮まる。

「答えは同じ。いやにきまってるじゃない!」

 弥生は一言言い残すと勢いよく飛び出していく。

 シャルロットはチッと舌打ちをこぼすと、弥生の後を追う。

 

 弥生は逃げながらふと疑問がよぎる。

 そういえば、あのシャルロットとかいう人どうしてそんなにも夢石とかいうものにこだわるんだろう?

 こだわる必要があるのかな?

 そもそも、夢石って一体何だろう……。それに、シャルロットって人一体何者なんだろう?

 考えるがあまり頭が回らず、走りながらも頭痛がしてくる弥生。

 深く考えるんじゃなかった。

 後々後悔がつのる。

 

 そのとき、真正面に光が目に入り込んだ。

 図書館の出入り口だ!

 夏の日差しが差し込んでよりいっそう床を熱くさせる。夏の太陽は暑すぎて困る。

 助かるかも!

 心にも一筋の光が入った。

 外に出れば、少なくとも人一人はいるはず。いれば、必ず誰か異変に気がついてくれるかも?


「甘いな」

 聞き覚えのある男の声。

 弥生は振り返ると声に出す。

「シャルロット!?」

 弥生の前に現れる男、シャルロットだった。

 いつの間に?

 眉間にしわをよせてシャルロットを見詰める。

「初めて、この俺の名前を呼んだな。うれしいよ」

 そういって自分の左手を弥生の右肩に、つかむように乗せた。

 すぐさまシャルロットの手を振りのける弥生。相当警戒した顔でシャルロットをにらみつける。

「そう警戒しなくても。ただ、夢石を渡して欲しいだけなのに」

 そりゃ警戒するわよ。普通に。

 弥生はシャルロットをにらんだままだ。

「さて。お遊びはここまでだ。約束通り、夢石はいただく」

 シャルロットの右手が弥生の顔の前まで向けられた。

 向けられた直後、手から青白い炎が燃え上がる。

 何!?

 再び身の危険を感じているのは気のせいだろうか。

「安心しろ。用が済めば楽に殺してやろう」

 あぁ……。そういうことか。

 結局は夢石とかいうのをとっても取られなくても殺される運命になるということか。

 恐怖が強くなったのか、脚が重く感じる。

「これで……終わりだっ!」

 炎が弓矢に変化。炎の矢を弥生に向けて放った。

 

 ビュンッ!

 

「やめろっ!!」

 突然、少年の叫び声が響きわたる。

 少年は走りこみ、弥生たちの場に入り込む。

 そして、弥生を抱きかかえ、勢いのまま倒れこむ。

 

 それとほぼ同時。

 

 弥生が立っていた場所に猛スピードで炎の矢が通り抜ける。

 危なかった。間一髪ギリギリだ。

 あのままだったら、確実に大怪我はまぬがれなかっただろう。

 ゾッと血の気が引く弥生。

「大丈夫か?」

 少年は心配そうな声で弥生に語りかける。

「え? あ、あぁ。大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」

 まだ、心臓が止まらないまま頭を下げる。

 だが、少年は弥生の声には聞く耳を持たない。

「まさか、お前だったとはな……睦月」

 シャルロットは驚きが隠せないのか、目を見開く。

 睦月と呼ばれた少年は何もしゃべらずシャルロットをにらむ。

 それを見入っていたシャルロットが不敵な笑みを浮かばせる。

「お前の性格は昔から、変わらずか。何故ここにいるかはしらないが、また例の旅行かなにかだろうがな」

 フッと鼻で笑うと、弥生に視線を向ける。

「まぁ、いいだろう。まだ、時間はたっぷりある。じっくりといただいていくとしよう」

 シャルロットは弥生たちに背を向けると静かに消えていった。

 

 

 

「ほんとに、ありがとうございます」

 ぺこりと頭をさげる弥生。

「別に。馬鹿な奴が襲われそうになったから、その攻撃をただよけさせただけ。ただそれだけことだ」

「そう、ですか……」

「お前、名前は?」

「え……? あ、あぁ! 名前は春野弥生っていいます!」

「そうか……」

 睦月は少し視線を落とす。

 あ、れ……?

 気のせいだろうか。表情が少しどこか寂しそうだ。

「俺の名前は冬川睦月だ」

「睦月……さん、ですね?」

「一つ、お前に忠告しておく」

「あ、はい。なんでしょう?」

「自分の身は自分で守れ。それだけだ」

「え? それって……」

「あいつに襲われる奴ってたいてい、自分を知らない馬鹿が多いからな。だから、その系統じゃないかと」

「あ、あぁ……。なるほど……」

「あと。弥生って言ったな。お前は自分のことなのに何もしらないんだな。しらなすぎる」

「ご、ごめんなさい……」

「じゃ」

 睦月はそれだけつぶやくと立ち去ってしまった。

 不思議な男の子だなぁ……。

 弥生は睦月が立ち去った後を無意識に見詰める。

 まるで、私が自分のことが分からないということを見抜いていたかのような口ぶりだった。

 まだ、何も言ってないのに。

 でも初めて会った気がしないのは気のせいだろうか。

 もっと……どこかで昔に会っていたような気がする。

 弥生はずっと睦月が立ち去った後を見続けた。

 

 

 

 とある海の中にある城

「あの小娘……この俺を馬鹿にしやがって……」

 ギリギリと歯軋りを立てる。

 弥生を襲った男・シャルロットその男だ。

「夢石を使いこなせていないあんな小娘に用はない。夢石だけが、手に入ればいい」

 にやりと笑ってみせるシャルロット。

 誰も信じない。信じるものか! 女も家族もみんなすべて信用できん!信用できるのは自分ただひとり。自分だけが得をすればいいのだ。そのために使える道具はすべて有効活用しないとな。

「相変わらずね。シャルロットは」

 どこからか聞こえる女性の声。

「あぁ。お前か。チェリー」

 チェリーと呼ばれた女性が姿を現す。

「来てやったわよ」

「やっと、来たか」

「理由は分かってるわ。春野弥生とかいう少女の中にある夢石を奪うために呼んだんでしょ?」

「なんだ。わかってるんじゃないか」

「あんたの考えていることはすぐわかるもの。あんたが昔、わたしの執事をしていた頃からね」

 チェリーははぁ~とあきれたため息をつく。

「まぁ、いい。これですべてがそろった。あとは夢石さえ手に入れるのみ」

「お手並み拝見ってところかしらね」

 シャルロットとチェリーは不敵な笑みを浮かべ続けた。

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