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弥生と夢石  作者: Runa
第二話
4/16

弥生と図書館内の出来事

 

 

 

 弥生は今の状況が完全に把握できていなかった。気がつけば図書館には弥生しかいない。友人や図書館にいた人たち全員がいなくなっていた。全員違う場所へ避難していったようだ。

 

 ここは図書館だよね……。

 友達と夏休みの宿題をしに来ていたのに、いつの間にこんなことに。

 他の人たちは逃げてしまったのだろうか。

 無事なんだろうか。

 あの生き物はどうしてここにいるんだろうか。

 もう、なにがなんだか……。

 それよりも、いち早く逃げなきゃ……。

 

 起き上がったばかりの体は力が抜け、動こうともしなかった。

 

 自分の体なのに、どうして言うこと聞いてくれないの……。

 弥生は一気に恐怖がこみ上げてきた。

 怖い……。ただそれだけなのに……。自分が自分でなくなっていくよう。

 

 その時、耳から生き物の鳴き声が入ってきた。

 自我を取り戻し正面を向くと、自分めがけて突進してくる生き物の姿があった。

 ど、どうしよう……。

 弥生の頭の中は混乱している。今何をすればいいか、考える余裕などはない。自分を保っているだけで、精一杯なのだ。

 わ、私…………。

 

 だが、生き物は止まる気配はない。このまま弥生とぶつかる気のよう。放って置くと大怪我は免れない。良くて重体、最悪な場合なら死もありうる。

 弥生はその場から動けない。

 もうダメだ。ダメだダメだダメだ! 考えようとすればするほど、頭が痛くなる。

 考える、ただそれだけのことで。

 弥生の頭の中はパンク寸前だった。

 その時。

 

 

 パァン!

 

 

 何かがはじける音が聞こえたような気がした。

 そのすぐ後、弥生が座る床に不思議な文様や文字が書かれた魔法円のようなものが出現する。そして魔法円のようなものは強烈に輝き始め、天井を突き抜けるほどの光の柱を発生させた。光の柱から波動が放たれ、生き物を壁まで吹き飛ばす。図書館全体が地震が起きたかのように大きく揺れ始め、数分後には止んだ。床にあった魔法円も光の柱も消えていた。

 起き上がった生き物はびっくりしたのか、オドオドしながら窓から逃げていった。

 

 私って……、私って……、一体……。

 何が起きたんだろう……。

 

 一人取り残された弥生は少し苦しそうにしながら静かに眠った。

 

 

 図書館の外に植えられている木々の中の一本に一人の男がいた。まるで、図書館でおきた事を監視していたかのように幹の上で立っている。

 男は床で眠っている弥生を見おろし、にやりと微笑んだ。

 さっきの力といい地震といい、力が暴走したところを見るとやはり、あの力で間違いないようだ。だとすると、あの少女があの宝玉の継承者、つまり……………………。

 排除するものを見るかのように図書館の中を眺める男。

 まぁ、いい。目的のものは見つけたし、封印も解けた。あとは夢石を手に入れるのみ。そして、あのお方たちが来る前に使わなければ。計画に名乗り出た意味がなくなってしまうからな。

 空に視線を移すとかすかに風が通り抜けた。

 

 とにかく、あいつが来るまでに夢石を手に入れておこう。

 時間をかけてはいられない。

 自分のものは自分で手にいれなければな。

 

 フッと鼻で笑うと、男は一瞬にして消えていった。

 外では太陽が優しく図書館を照らしていた。

 

 

 

 再び図書館の中

 

 少し意識を残したまま目をつぶっていた。

 そこにかすかに聞こえる聞いたことのある声。

「……………………よい! 弥生! 弥生しっかり!」

 はっと目を開けると今にも泣きそうな友人がいつの間にか隣にしゃがみこんでいた。

「あ、あれ? 葉月………………? あれ?」

「よ、よかったぁぁ~~~~~~!! すっごく、心配したんだからね!」

「え、あぁ、ごめん……。ちょっといろいろあって……?」

 弥生は自分でそういいながらも、腑に落ちない顔で首をかしげた。

「なんで、疑問符がついているのよ?」

「ま、まぁ、いいじゃん別に。傷が無いだけでもほめてよね」

 弥生はごまかし笑いを浮かべた。

 葉月は少しの間弥生を見詰めたが、何か分かったかのようなため息をついた。

「それもそうよね。あれだけ騒ぎがあって傷一つないから、運だけは強いのね」

「なによ~! 運だけ強いってどういう意味よ?」

「そういう意味よ。弥生ってあんまし得意分野ないでしょ? 無駄に明るいだけで」

「む、無駄にって………………。本人がいるのにそれはちょっとひどくない?」

「ひどくない」

「それがひどいの!」

「そんなことよりも。ほら、弥生。はじめるよ」

 葉月は手を伸ばすが、弥生はきょとんとする。

「はじめる? 何を?」

「何をってそりゃもちろん、夏休みの宿題よ」

「あ………………」

「ほら、やるよ」

「ちょっ、ちょっとまっ………………」

 弥生の言葉はむなしくも葉月の耳には入らなかった。


 弥生は夏休みの宿題をしながら、一人考えた。

 いままでのといい、今日の出来事といい、私って一体誰なんだろう………………。

 自分が自分でなくなっていくような気がしてくる。

 もう、いつもの自分にもどれないような感じがする。

 私はこのままどうなっていくのだろう………………。

 

 弥生の考え事は寝るまで続いたのだった。

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