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弥生と夢石  作者: Runa
第六話
12/16

弥生とよみがえった記憶

 

 

 

 この状況を打破するためには……。

 

 弥生は竜巻に呑まれながらも考えた。

 アクアアローでは竜巻から通り抜けるだけで、竜巻そのものが消えるわけではない。かといって、アクアシールドで打破するというのは有効の手とは限らない。必ずしも成功するはいえないから。

 こうなったら……いちかばちかだ!

 お願い……ラリア。私に力を貸して!!

 弥生は大きく息を吸い込んだ。

 そして。

「アクアシールド!」

 大量の水がドームのように再び覆い始める。

 さらに、弥生は続けて叫んだ。

「アクアアロー!」

 水で出来た矢がドーム全体から飛び出してくる。水の矢は次々と竜巻に当たり、はじけ飛んでいく。竜巻は水の矢に当たったことでじょじょに消えていく。

「ちっ。そんな手を使ってくるとは」

 チェリーは竜巻を消されたことに舌打ちをする。

「でも、私に勝つことはできないわ。その程度の魔法じゃあ……」

 その時、一つの氷の矢が飛んできてチェリーの腹部に直撃する。

「…………っ!」

 チェリーの服の上には血がどんどん染まっていく。

「…………え?」

 弥生は突然の事で思わず声が出てしまう。

 私……。氷の矢なんて放っていない……。

 チェリーはその場に倒れこむ。

 どうして……?

 ぽかんとする弥生。

 なぜなら弥生は水系と光系の魔法しか使えないからだ。氷の魔法は使う事ができないのだ。弥生はそこまで分かっていないが、自分が放った魔法が全部水の魔法ということは嫌でも分かる。

 誰が、こんなことを……。

 弥生ははっと我に返り、チェリーに駆け寄る。

「チェリー! 大丈夫!?」

「弥生……? あんた……どうして…………」

「どうしてって……そ、そりゃあ……心配だから……」

 チェリーの顔に弥生の心配そうな表情が目に入る。

 チェリーは弥生の顔を見詰めたまま、しばし黙り込む。

 そして、チェリーの口から思わぬ言葉が飛んだ。

「…………私ね、黒の人魚族っていう闇の魔法を使う人魚だったの」

「え……」

「私にはね、あんたと同い年の病弱の妹がいてね、ある約束をしたの」

「約……束……?」

「もし、夢石を手に入れることができたら、病弱な身体を治して、一緒に……海の世界を回ろうって……」

「チェリー……」

 弥生は思わず言葉が出てこなくなる。

 最初、チェリーはただ単に夢石が欲しいだけで戦っているんだと思った。シャルロットの相棒だから、絶対そうに違いないって思っていた。

 でも違った。病弱な妹さんとの約束を守りたくて、ずっと戦っていたんだ。なんかチェリーを見てると今までの自分はなんだったんだろうって思ってしまう。ううん、そう思ってる。

「けど、果たせなかったわね……。それに、こんな汚いやり方で手に入れようとしているの知ったら……約束果たせたって言ってなんかくれないわよね。私のこと嫌いになるだろうし……」

「ううん。そんなことない。チェリーの思い、それだけ強いんだもん。絶対届く。必死になって約束を守ろうとしてくれたんだから。絶対分かってくれるよ」

 にこっと目に涙を浮かべながら、優しく微笑んで見せる。弥生の笑顔を見ていると、まるで海のようなはたまた母のような、ほっとして心やすらぐ心地になる。

 なるほどね……。あの、睦月が惚れるわけね……。

 チェリーは仕方がないといわんばかりの満足げな笑みを浮かべると身体が泡と化し消えていった。

 チェリー……。

 その時!

 

 

 どくんっ!

 

 

 心臓が逆流したかのような衝撃におちいる。その直後、頭が破裂しそうなめまいが起きる。

 な、何……?

 両手で頭を押さえつけると、どんどん記憶が逆戻りしていく。

 弥生ははっと我に返った。

 そして。

 あることを思い出す。

 あぁ……。そうだ……。思い……だした……。

 私……、私…………。

「私はラリア王女なんだ……」

 生まれ変わってきたんだ……。あの人に会うために。もう一度会ってお礼が言いたくて……。

 別の世界の王子である睦月に……。

 でも、生まれ変わるには大きな代償があった。

 

 

 それは『壊れてしまった夢石』だ。

 

 

 一度シャルロットに出会い、夢石を奪われそうになった。

 シャルロットは夢石を奪った後、私(ラリア王女)を監禁して閉じ込めるつもりだった。

 だが、思わぬ邪魔が入った。

 それが、睦月だった。

 睦月は私を助け逃がすかわりに、シャルロットと手を組む制約をした。

 私を助けるために、シャルロットなんかと手を組むことになってしまって、私は泣いた。泣くしかできなかった。それでも、睦月さんを助けたくて、もう一度会って力になりたくて……。

 

 でも、シャルロットが奪いそうになったとき、その拍子で夢石が壊れてしまった。

 夢石は一人の人魚を生け贄にして作られる魔力の宝玉。

 

 人魚のうろこ。

 

 人魚の涙。

 

 人魚の髪。

 

 人魚の歌声。

 

 人魚の泡。

 

 この五つで作られるため、どうしても、一人の人魚が必要となってしまう。

 しかも、夢石は世界を支配できる力を持つ。

 その力があるおかげで、夢石で海の世界を保たせていた。

 

 その、夢石を私が壊してしまった。

 それは計り知れない罪だった。

 償っても償いきれない罪。

 

 だから、自分が生まれ変わって、自分の身体を差し出すことで夢石を新たにつくるという選択肢を選んだ。それで、お父様が守ろうとした海の世界を守れるんだったら……と。

 忘れていた……ずっと……いや、これが、生まれ変わるために出された条件なんだから仕方がない。

 はぁとため息が漏れる弥生。

 思い出したのはいいけど……これから、どうしたらいいのだろう……。

 

 

       *

 

 

 とある海にある城の中

 

 チェリーが泡になった瞬間を穴を開けたブラックホールのような大きな影が映し出していた。

「ついに、消えうせた……か」

 ワイン片手に座り、不敵な笑みを浮かべるシャルロット。

 その横には身体の自由をふさがれた睦月が胡坐あぐらをかいている。

「せっかく、チェリーの執事となって、夢石を奪う瞬間を狙っていたというのに。三百年前だってそうだ。わざわざメール・モンストルの封印を解いて、北の海の人魚の国を滅ぼしたというのに……肝心のものは手に入らずじまい。しかも、俺自ら出向いたがとんだ邪魔に入られたしな……」

 そうつぶやくといまいましそうに睦月を一目する。

「まぁ、いい。良い手駒てごまが手に入ったし、黒の人魚族の皆様ももうすぐこちらに向かう。あと、少しだ。あと少しで終わる。黒の人魚族の皆様が禁断といわれる黒と白の融合魔法により創り出してくれたおかげで今の俺がいる。黒の人魚族の皆様には感謝しないとな……」

 シャルロットは鼻で笑うと影が映し出す映像を可笑しそうに見詰めていた。

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