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弥生と夢石  作者: Runa
第五話
10/16

弥生とそれぞれの思い

 

 

 

 次の日

 

 弥生は重い足取りで図書館に向かっていた。なんやかんやで夏休みの宿題をする暇がなかったため、今日やることになったのだ。

 だが、弥生の頭の中には夏休みの宿題はなく、昨日の睦月のことでいっぱいなのだ。

 

 …………睦月さん。昨日、最初に会ったときなんだか様子が変だった。そう思ったら今度は襲い掛かって……。そしたらあの、ラリア王女の声。

 

『気をつけて! あの人は誰かに操られてる!』

 

 まさかと思った。そんなはずはないと思った。これは夢なのかもとも思ったし、夢であってほしいとも思った。とにかく目の前の事実が信じられなかった。うそであってほしい。この前あったみたいに私を怒ってほしい。冗談だって言ってほしい。なにより、信じたかった。本当の睦月さんを。あの、睦月さんを。

 

 弥生の目から冷たいものが流れた。

 どうして、こんなにも悲しくなるの……? どうしてこんなにも胸が痛むの……? どうして、涙が出てくるの……?

 どうしてなのかは分からなかった。分かりたくもなかった。

 

 その時、見覚えのある顔が弥生の一メートルほど離れた場所から前を横切る。

「睦月さん!」

 冬川睦月、その人だった。

 弥生は思わず睦月に駆け寄る。

 今はしゃべりたい。睦月さんとお話がしたい。本当に操られているのかどうか。

 ただ、それしか頭になかった。

 だが、睦月は再び歩き出そうする。

「待って! 待って、睦月さん! 話だけでも聞いて!」

 必死で懇願こんがんする弥生。

「話だけでいいの! それ以上はいらないから! ただ、睦月さんとお話がしたいだけなの!」

 弥生の思いが通じたのか、睦月は脚を止め弥生の方を振り向く。

 睦月さん……。

 睦月が話を聞くになってくれたことに笑顔をにじませる。

「話って…………何?」

 いつもの藤色の瞳ではなく、赤くにごった瞳が映る。

 弥生とは対照的に不機嫌な睦月。

「あ、あの………………じ、実は……」

 睦月さん、操られてるって本当ですか? なんてさすがに聞けない。操られているかもしれない相手に失礼だ。最も、操られているんだから、自分が操られているってことを知っているはずは無い。 よし、昨日最初に感じたことをそのままぶつけてみよう。その方がいい。

「昨日、睦月さんの様子がおかしかったから、何か、あったのかなぁ~~って」

「………………………………それだけ?」

 さらに不機嫌な顔でにらみをきかす睦月。

 その表情に弥生は凍りつく。

 あぁっ。さらに気を悪くさせた!? 思ったことをそのまま言うだけじゃだめなの!? この後はどうすればいいの!?

 弥生は気を取り直して続けた。

「あ、いや、その、睦月さんこの前助けてくれたし、話した感じは悪くなかったし、一見、人を襲うような人には見えなかったから……」

 その言葉にぴくんと反応する睦月。

「それに、睦月さんが心配で、心配で……。何かあったらやっぱ相談して欲しいし……。友達として」

 さらに反応する睦月。

「だから……、だから……」

「お前に何が分かる!」

 弥生は肩をすくめる。

「ただ、友達づらして、分かっているようなふりをしているお前に何が分かる!」

「そ、それは……」

 反論できず口ごもるしか出来ない弥生。

 睦月は後は何も言わずその場を立ち去った。

 私って……、ほんと睦月さんのこと何も知らない……。

 弥生は何も知らない自分を責め続けた。

 

 

       *

 

 

 睦月はぼんやりと昔の記憶を思い出していた。

 

『わかっているよな? あのラリア王女を助けるんだから……それ相応のことはやってもらわないとな』

 

『分かってたんだったら、俺と手を組むことだな。悪い話ではないと思うが』

 

 やっぱり、あいつと……、手を組むべきではなかった……。シャルロットと……。

 睦月は無意識のうちに涙を流していた。

 そんな睦月を見ていたチェリーが姿を見せる。

「そうね。手を組むべきではなかったかもしれないわね。でも、そっちが悪いのよ。こっちの要求を呑まなかったんだから。こうするしか、なかったの。ごめんなさいね」

 そうつぶやくと海が見える方向に目を向ける。

 

 約束、果たせるかしら……。

 

 

 チェリーは難しい顔で見詰めた。

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