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弥生と夢石  作者: Runa
序話
1/16

ラリア王女の成人式

この話はフィクションです。

 とある深海の王国。辺り一面に闇の世界が広がる。

 この王国には不思議な力を持った、人魚が住んでいる。そして今は王女様の成人式が執り行われていた。

 

 この海の世界には二つの人魚族が住んでいる。


 赤道より北半球の北の海「ノール・メール」に住む『白の人魚族』と、同じく赤道より南半球の南の海「スュド・メール」に住む『黒の人魚族』だ。

 この二つの人魚族はある宝玉をめぐっては戦い、互いを敵視している。

 

「ラリア王女様。前へ」

 ラリア王女様と呼ばれた人魚が前に出る。

 ……いよいよなのね。

 ラリアはうれしいような、後悔のような、複雑な気持ちに駆られる。


 

 大人になるのはうれしい。海の上にいけるし、どんなところか見て見たい気もする。

 それに、外の空気も吸ってみたいし、光も浴びたい。

 そして何より、王国から出ることを許可される。他の魚や住人の暮らしぶりも気になる。

 でも…………。

 

 まだやり残したことがたくさんある。

 やるべきことが残っているのだ。

 そんな状態で大人になっていいのだろうか。

 出来ることなら、すっきりとした気分で成人式に望みたかった。

 

 

 顔をしかめたままたどり着くラリア。

「では、ラリア王女様。このネックレスをお納めください」

 目の前に差し出された盆にのったネックレス。これを取れば大人と認められ、大人の仲間入りになれる。

 でも、やっぱり……。

 ラリアは静かに見つめ、躊躇ちゅうちょする。

「ラリア王女様? どうかなさいましたか?」

 その言葉ではっとする。

「い、いえ……。なんでもありません……」

 冷や汗をかきながら視線をそらす。

 

 危ない。変に思われてしまった。

 実は大人になるのを考え直しているなんて口がさけてもいえない。

 しかも、お父様、いえ、国王様も直視している。やばいかも。

 そんなことで成人式を壊すなんてことは絶対にしたくない。

 何があってとしても。


「では、改めまして。ラリア王女様。ネックレスをどうぞ」

 ラリアはネックレスに手を伸ばす。

 だが、その時!

 

 地震が起きたような轟音ごうおんがこだまする。城の壁が無残にも崩れ落ち、巨大な穴が出来た。その穴からは人魚の数倍の大きさの巨大な海蛇が現れる。

 傍観していた住人達が突如、顔色を急変させた。

「メール・モンストルだ! モンストルが現れた!!」

「た、食べられる~!」

「私達を襲いに来たのよ!!」

「もうこの国はおしまいだわ!!」

 慌てふためく住人達。悲鳴をあげる者もいる。

 

 

「メール・モンストル……。どうしてここに?」

 驚きの表情が隠せないラリア。

 

 メール・モンストル。別名リヴァイアサン。

 海を大暴れする厄介者。海に住むすべての者が恐れているといっても過言ではない。住人達を関係なく襲う危険な魔物。海の世界を荒らし、何百もの住人が死んできた。

 本来ならばここにいないはず……。

 

 

 メール・モンストルは室内を荒らし、いい獲物がないか嗅ぎまわる。

 住人達はその場で逃げ惑い、うろたえる。床にはメールモンストルによって倒された住人達が倒れ伏す。その数は次々と増えていく。

 

「このままじゃ、この人魚の国が……」

 そこに一人の男が声かける。

「ラリア」

 振り返ったラリアは、男を一見するとつぶやく。

「お父様……」

 ラリアの父親であり、この人魚の国の国王だった。

「もうこの人魚の国は終わりを告げる。滅亡まで時間の問題だ。それよりも、ラリア。お前はそのネックレスを持って逃げなさい」

「そんな……!? じゃあ、お父様はどうなるの!? 国のみんなは!?」

「心配することはないさ。命は生まれ変われるもの。またどこかで会えるさ」

「でも……」

 ラリアは心配そうな顔をしながらためらう。

 その時、メール・モンストルの目がラリアに留まった。それに気づいた国王。

「早く逃げるんだ!!」

 国王はラリアに強引にネックレスを持たし、海に押し出す。

 そして、優しい目つきで一言。

「強く生きるだよ、ラリア」


 間一髪、ラリアが城から出た直後、城はゆっくり崩れ去っていく。

 思わず後ろを振り返る。

「お父様……」

 生まれ育った城が崩れている。お父様達は大丈夫なんだろうか……。

 悩んだが、再び前に進むことを選択する。

 数秒後にはラリアの姿はなかった。

 

 その後、メール・モンストルは国王と住人の手により、ノール・メールの底に封印されることになった。

「もう、二度と暴れないよう、強めに封印しよう」

 国王と住人達は再び海に解き放たれないことを願った。

 

 

 

 それから三百年が経った。

 

 

 

 三百年後の現代 北の海ノール・メール

 そこに一人の男がやってきた。

 男はメール・モンストルが封印されている場所に来ていた。

「ここ……か」

 辺りを見渡し確認する男。

 封印されている底を眺め、不敵な笑みを浮かべる。

「三百年の時を経て、今、お前を自由にしてやろう」

 右手を封印されているはずのポイントに合わせる。

 男は黒い稲妻を放ち、大量の砂ぼこりが舞う。

 砂ぼこりの中から赤い目の巨大なシルエットが浮かぶ。

「さぁ! お前の好きな海を楽しんでこい!!」

 男の言葉を合図に巨大なシルエットは姿を消した。

 一人残された男は満面の笑みをこぼす。

「これで準備が整った。あとは夢石の封印が解けるの待つのみ」

 海には静かな波の音だけが響いた。

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