EP 7
辺境の街へ!ギルド登録で舐めてきた受付嬢が青ざめるまで
死の森を抜け、俺とルナは最寄りの辺境都市『アルカディア』へと到着した。
「わぁ……! 人がたくさんいます、ご主人様! いい匂いもします!」
俺の隣を歩くルナが、ふさふさの白い尻尾をマントの下でぱたぱたと振りながら目を輝かせている。
人化したとはいえ、その美貌と頭の狼耳は目立つため、深めにフードを被らせてはいるが、それでも通りすがる男たちが振り返るほどのオーラを放っていた。
「まずは冒険者ギルドだな。手持ちの金がないから、道中で狩った素材を売らないと」
俺たちがギルドの重厚な木の扉を押し開けると、中には屈強な武装をした荒くれ者たちがひしめき合い、むせ返るような酒と熱気が立ち込めていた。
受付カウンターへ向かい、空いていた金髪の受付嬢の前に立つ。
「新規の冒険者登録と、素材の買い取りを頼みたい」
「はい、冒険者ギルドへようこそ! ……えっと」
受付嬢は、俺のボロボロの平服(神具のマントは目立つのでアイテムボックス代わりの麻袋にしまってある)と、後ろに隠れるように立っているルナをジロジロと見て、露骨に作り笑いを浮かべた。
「あの、ここは『冒険者』ギルドですよ? 失礼ですが、ただの村人の方と……そちらは、コスプレをした愛玩動物ですか? 迷子なら衛兵の詰所へ行ってくださいね」
「誰が愛玩動物ですか! わたくしは誇り高き神狼の——」
「ルナ、ストップ」
牙を剥き出しにして唸り声を上げようとするルナの頭を撫でて落ち着かせる。
まあ、無理もない。今の俺のステータスは偽装こそしていないが、レベルこそ50に上がったものの、職業欄は【書記官】のままだ。どう見ても戦える者には見えないだろう。
「迷子じゃない。道中で魔物を狩ってきたから、買い取ってほしいんだ。はい、これ」
俺は麻袋から、道中で遭遇して『神・木の棒』の衝撃波でワンパンした巨大熊の毛皮をドサッとカウンターに置いた。
もちろん、道中でこっそり【品質:最低】から【品質:神話級】へと『ステータス編集』しておいた特注品だ。
「はぁ……ただの熊の毛皮ですね。状態も泥だらけですし、せいぜい銅貨3枚といったところで……」
受付嬢はため息をつきながら、鑑定用のモノクル(片眼鏡)を目に当てて、毛皮のステータスを読み取ろうとした。
「えっ……?」
次の瞬間、受付嬢の動きがピタリと止まった。
モノクル越しの彼女の目が、これ以上ないほどに見開かれている。
「あの? 買い取ってくれるか?」
「…………っ!?」
受付嬢は金魚のように口をパクパクさせた後、ガタッ!と勢いよく立ち上がった。その拍子に椅子が後ろに倒れ、大きな音がギルド内に響く。
「し、しししし、神話級ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
悲鳴のような彼女の絶叫が、賑やかだったギルド内の空気を一瞬にして凍りつかせた。
「な、なんだと!?」
「神話級!? 国宝レベルのアーティファクトか!?」
「おいおい、冗談だろ……そんなもん、歴史上の英雄しか持ってねぇはずだぞ!?」
酒を飲んでいた冒険者たちが一斉に立ち上がり、信じられないものを見るような目で、俺とカウンターの毛皮を凝視している。
「あ、あの! こ、これ、本当にあなたが!? いや、嘘ですよね!? どこでこれを!」
パニックに陥り、カウンターから身を乗り出して尋問してくる受付嬢。
俺はただ肩をすくめて、平然と答えた。
「どこって……そこの死の森で拾った木の棒で、軽く小突いて倒しただけだけど?」
「「「…………は?」」」
ギルド内が、水を打ったように静まり返る。
ただの村人にしか見えない少年と、可愛いコスプレ少女。
彼らが持ち込んだ規格外のアイテムにより、辺境のギルドは前代未聞のパニックに包まれようとしていた。




