EP 5
呪いの『削除』と絶対の忠誠
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【HP】4/50000
【HP】3/50000
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目の前にある半透明のウィンドウで、フェンリルの命のカウントダウンが非情に進んでいく。
『解除不能』。
それがこの世界のシステムが下した絶対の判決。
どんな高位の聖女であろうと、伝説の秘薬であろうと、決して覆すことのできない死の運命。
「……ふざけるな」
俺はウィンドウの文字を睨みつけた。
「俺にとって、このウィンドウに表示されているものは全て『ただの文字列』だ。文字としてそこに存在している以上、俺が消せないものなんてない!」
俺は仮想のキーボードに手を伸ばし、【状態異常:神殺しの呪い(解除不能)】というテキスト全体をカーソルでドラッグして選択した。
『ピーーーッ! 警告! システム干渉! 解除不能領域へのアクセス――』
脳内に不快なエラー音が鳴り響くが、そんなものは無視だ。
俺は迷うことなく、『Delete(削除)』キーを思い切り叩き込んだ。
ターーーンッ!!!
その瞬間。
空間にヒビが入るような、甲高い破砕音が森中に響き渡った。
フェンリルの体を蝕んでいた赤黒い瘴気が、断末魔のような金切り声を上げて四散し、跡形もなく消え去る。
ウィンドウの【状態異常】の欄は、見事に『空白』になっていた。
「よし、呪いは消えた! あとは……」
ついでに、【HP】の数値を「3」から「50000」に書き換える。
ズワァァァァァァァンッ!!
清浄な黄金の光が、フェンリルの体を包み込んだ。
ズタズタに引き裂かれていた傷が一瞬にして塞がり、血に染まっていた毛皮が、本来の純白の輝きを取り戻していく。
そして光が最も強く輝いた直後――。
「……え?」
光が収まったそこに巨大な狼の姿はなく、代わりに一人の少女が倒れていた。
透き通るような白銀の髪に、神秘的な金色の瞳。頭には可愛らしい狼の耳が生え、腰からはふさふさの白い尻尾が伸びている。
息を呑むほどに美しい、絶世の美少女だった。
「ん……ぁ……」
少女がゆっくりと身を起こし、その金色の瞳が俺を捉えた。
「あなたが、わたくしを救ってくださったのですか……?」
鈴を転がすような、凛とした美しい声。
「あ、ああ。呪いはもう消した。傷も全部治ってるはずだ。……怪我はないか?」
「はい……信じられません。あの『神殺しの呪い』は、創造神にしか干渉できないはず。わたくしは死を受け入れておりました。あなたは一体、何者なのですか……?」
畏敬の念を込めた瞳で見つめられ、俺は少し照れくさく頭を掻いた。
「俺はリクト。ただの……いや、元・勇者パーティーの雑用係だ。今はただの冒険者ってところかな」
「雑用係……? 神の御業を軽々と行い、これほどの力と慈悲を持ちながら、自らをそう名乗るのですね」
少女は何かを悟ったように深く頷くと、俺の前に静かに跪き、頭を垂れた。
「わたくしの名はルナ。誇り高き神狼の末裔にして、森の守護者。……リクト様。命を救っていただいたこの御恩、わたくしの生涯をかけてお返しいたします」
「えっ、いや、俺は別に恩着せがましくするつもりは――」
「どうか! わたくしをリクト様の『従者』にしてくださいませ! もし拒絶されるのであれば、わたくしは己の不甲斐なさを恥じ、ここで舌を噛み切ります!」
「わ、わかった! わかったからやめてくれ!」
俺が慌てて頷くと、ルナはパァッと花が咲くような眩しい笑顔を見せ、ふさふさの尻尾をちぎれんばかりにパタパタと振った。
さっきまでの神秘的な威厳はどこへやら、完全に飼い主に懐いた子犬のようだ。
「ありがとうございます、ご主人様! このルナ、粉骨砕身の覚悟でお仕えいたします!」
こうして。
最強の理不尽スキルを持つ俺と、絶対の忠誠を誓う神狼の少女による、規格外な旅の幕が上がったのだった。




