EP 4
傷だらけの神獣
『神・木の棒』のあまりの威力に呆然としながらも、俺はデス・ベアの毛皮を編集して作った『漆黒の外套』を羽織り、森の奥へと歩みを進めた。
「死の森」は、本来ならAランク以上の熟練冒険者パーティーでも全滅を覚悟する最難関ダンジョンだ。
だが、今の俺にとっては、ただの散歩コースでしかなかった。
『ギシャァァァッ!』
頭上から襲いかかってきたのは、鋼鉄の鱗を持つ巨大な蛇、アイアン・バイパー。
アレスのパーティーですら、以前苦戦した魔物だ。
「邪魔」
俺は振り返りもせず、担いでいた木の棒を後ろに軽く振った。
――パリィィィンッッ!!
乾いた音と共に、アイアン・バイパーは鱗ごと粉砕され、霧散した。
もちろん、経験値はバッチリ入る。
「……本当に、この棒一本で魔王も倒せるんじゃないか?」
【ステータス編集】の恐ろしさを改めて実感する。
これなら、勇者パーティーの「荷物持ち」なんて、最初からやる必要はなかったんだ。
アレスたちには、せいぜい頑張って魔王のデコイにでもなってもらおう。
そんなことを考えながら、数時間が経過した時だ。
――ドォォォォォンッ!!
森のさらに奥部から、尋常ではない魔力の衝突音が聞こえた。
木の棒を手に入れたことで感覚が鋭くなっているのか、その魔力が「ただの魔物」のものではないことがわかる。
「……何かが、戦ってる?」
好奇心に駆られ、俺は音のする方へと気配を殺して近づいた。
そこは、広大な開けた場所だった。
中心には、血を流して倒れている、一頭の巨大な生物。
「……綺麗だ」
思わず言葉が漏れた。
それは、雪のように真っ白で、神秘的な輝きを放つ毛皮を持つ、美しい狼だった。
だが、その体は無数の爪痕と魔法の痕跡でズタズタに引き裂かれ、純白の毛皮が赤黒く染まっている。
『伝説の神獣……フェンリルか?』
脳内のシステム音が、その生物の正体を告げる。
しかし、そのフェンリルは今、三頭の禍々しい上位魔物、ダーク・グリフォンに囲まれていた。
『グルルル……』
グリフォンたちは、瀕死の神獣を前に、勝ち誇ったように舌なめずりをする。
フェンリルは、力なく横たわりながらも、その瞳だけは誇り高く、敵を睨みつけていた。
だが、その命の灯火は、今にも消えようとしている。
「……おいおい。いくら弱肉強食の森とはいえ、あんな綺麗な生き物が、あんな醜い奴らに食われるのは……」
胸の奥で、何かが疼いた。
勇者パーティーで道具のように扱われ、捨てられた自分と、今の彼女(?)が重なって見えたのかもしれない。
「……胸糞が悪い」
俺は木の棒を強く握りしめ、茂みから飛び出した。
『ギャァッ!?』
グリフォンの一頭が、突然現れた俺に気づき、咆哮を上げる。
だが、遅い。
「お前らのステータス、全部『1』にしてやるよ」
俺は【ステータス編集】を発動させ、空中にあるウィンドウを高速で操作する。
三頭のグリフォンのレベルを、一瞬で『1』に書き換えた。
――ピロンッ、ピロンッ、ピロンッ。
『キュ、キュゥ……?』
突然、全身の力が抜け、飛ぶことすらできなくなったグリフォンたちが、無様に地面に落下する。
彼らが混乱している隙に、俺は神・木の棒を静かに振り下ろした。
――ドォォォォォンッ!!(※ただし、今回は威力調整して、デコピン程度の衝撃波に)
三頭のグリフォンは、あっけなく光の粒子となって消滅した。
残されたのは、血の海の中で横たわる、瀕死のフェンリルだけ。
俺は彼女の元へ駆け寄り、そのステータスを確認した。
ーーー
【個体名】ルナ
【種族】神狼
【レベル】MAX(100)
【HP】5/50000(瀕死)
【状態異常】神殺しの呪い(解除不能)
ーーー
「おい……嘘だろ」
HPが残り『5』。
それ以上に、俺の目を引いたのは【状態異常】の項目だった。
『神殺しの呪い』。
それは、世界のシステムですら『解除不能』と定義された、絶対的な死の呪い。
彼女のHPが、今も1秒ごとに削られていく。
「……クソッ。どうする? HPを書き換えても、呪いがある限りすぐに0になる。アイテムは……神具のマントじゃ、他人の呪いは解けない」
俺は自分の手のひらを見つめた。
【ステータス編集】。この力は、世界のルールを書き換える力。
解除不能?
そんなの、世界のバグだろ。
「俺の仕様が、世界のバグ(呪い)に負けるわけがないだろ……!!」
俺はウィンドウの『神殺しの呪い』という文字に、意識を集中させた。




