EP 4
激怒の女神ルチアナ降臨(※ただし芋ジャージ)と究極の豚骨
「私の! 貴重な仕事仲間を! よくも勝手にNTR(寝取り)してくれたわねこのバグ野郎がぁぁぁっ!!」
土煙が晴れた中庭に立っていたのは、凄まじい神気を放つ女神ルチアナ。
……しかし、その出で立ちは、色あせた赤紫色の『芋ジャージ』に『健康サンダル』。口には『ピアニッシモ・メンソール』を咥えているという、深夜のコンビニにいるヤンキーもかくやというダラけきった格好だった。
「ご主人様……あれが、神様……?」
「なんか、実家の近所に住んでた世話焼きのオバチャンに似てますぅ……」
ルナとクロエが、引くというよりも呆れたような視線を向ける。
「ちょっと! ジロジロ見ないでよ! これでも一応、仕事は定時で上がって、コタツでビール飲みながらまったりする最高のリラックスタイムだったのよ! あんたがガオガオンのシステムをハッキングなんかするから、慌てて飛んできたんじゃないの!」
女神ルチアナは吸いかけのタバコを携帯灰皿(マナーは良いらしい)に突っ込むと、バチバチと空間を歪ませるほどの神の雷を右手に集め始めた。
「まあいいわ。イレギュラーなバグは、創造神である私が直々に消去してあげる! 塵一つ残さず消えなさい!」
「ひぃっ! ご主人様、あの魔力は冗談抜きでヤバいです!」
「屋敷ごと消し飛びますぅ!」
確かに、放たれているプレッシャーは先ほどの巨大ロボットの比ではない。まともに食らえば、この一帯がクレーターになるだろう。
だが、俺は慌てることなく、コタツで『人間失格』を読んでいるメカライオンに視線を向けた。
「おいガオン。あいつの弱点はなんだ?」
『ルチアナ様は、地球の日本の「福岡」という土地によくお忍びで通っている。なんでも、推しのアイドルのライブのついでに食べる「豚骨ラーメン」が狂おしいほど好きらしい。この前も「あの濃厚なスープがたまらんのよ〜」と管を巻いていた』
「完璧な情報提供助かる。ボーナス弾んでやるからな」
『恩に着る、社長』
神の兵器が、コタツの中からあっさりと創造神の弱点を売り渡した。
「クロエ! なんか適当な液体、作れるか!?」
「えっ、えっと! 『失敗作・絶対爆発ヘドロ』なら今リュックにあります!」
クロエが慌てて取り出した、ドロドロの茶色い液体が入ったフラスコ。俺は即座に【世界編集】を展開し、そのヘドロのステータスにカーソルを合わせた。
カタカタカタ……ターンッ!
ーーー
【名称】失敗作 → 【究極の福岡豚骨ラーメン(全部乗せ・麺バリカタ)】
【品質】エラー → 【神々の味覚(福岡ドーム近くの屋台の味を完全再現)】
【特殊効果】対象の敵意をゼロにし、食欲を暴走させる
ーーー
俺が決定キーを叩いた瞬間。
フラスコの中の茶色いヘドロが、まばゆい光と共に『巨大なラーメンどんぶり』へと変化した。
どんぶりの中には、白濁した濃厚な豚骨スープ。美しく折り畳まれた極細ストレート麺。トロトロに煮込まれた厚切りの炙りチャーシューが五枚に、半熟煮玉子、そしてたっぷりの青ネギとキクラゲがトッピングされている。
そして何より、食欲をダイレクトに刺激する、あの強烈で芳醇な豚骨の香りが、中庭いっぱいにフワァァァッと広がったのだ。
「さあ! 消えなさい、イレギュラ……ッ!?」
神の雷を放とうとしていたルチアナの動きが、ピタリと止まった。
彼女の鼻がヒクヒクと動き、その視線が俺の手にあるどんぶりに釘付けになる。
「な、ななな……何よその匂い!? ウソでしょ!? これは……長浜の屋台で嗅いだ、あの伝説の……っ!」
「食うか?」
俺が割り箸をどんぶりの上に乗せて差し出すと、ルチアナは右手に集めていた神の雷を「フッ」と息を吹きかけてあっさり消滅させた。
そして、猛ダッシュで俺の前にスライディング土下座をかまし、どんぶりを引ったくった。
「いっただっきまーすっ!!!」
ズズズズズズズズズズッ!!!
凄まじい吸引力。女神の威厳など微塵もない。
ルチアナは芋ジャージの袖をまくり上げ、鬼気迫る表情でバリカタの極細麺をすすり上げ、トロトロのチャーシューを頬張る。
「はふっ! んんんんん〜〜〜っ! これよこれぇっ! この濃厚なのに臭みのないスープ! 麺に絡みつく背脂の甘み! 天界の無味乾燥なネクター(神酒)なんかより、こっちの方が100万倍美味しいのよぉぉぉっ!!」
ルチアナの目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「あ、あの……ご主人様。神様が、ラーメンをすすって泣いていらっしゃいます……」
「わたくし、なんだか見てはいけないものを見ている気分です……」
「気にするな。神様も長時間の労働で疲れてたんだろう」
数分後。
ルチアナはどんぶりを両手で持ち上げ、スープの最後の一滴まで完全に飲み干した。
「……ぷはぁっ! ごちそうさまでした! あー、食った食った! ……ハッ!?」
どんぶりを置いたルチアナが、我に返ったようにハッとして立ち上がる。
だが、その表情はすでに完全に緩みきり、満腹感でぽっこりと出たお腹をさすっていた。
「わ、私がラーメン一杯で買収されるとでも思ったの!? 舐めないでよね! ……で、替え玉は?」
「替え玉なら、いくらでも出してやるよ。……ただし、俺たちの交渉に素直に応じれば、の話だがな」
俺はニヤリと笑い、【世界編集】のウィンドウから、彼女の『ヤバすぎる裏の履歴』をそっと開いた。




