EP 3
退職代行・リクト!ホワイト企業への転職
『三食、昼寝付き……! た、太宰が読み放題……ッ!?』
俺の悪魔的……いや、神よりも慈悲深い提案に、ガオガオンの胸の獅子が激しく動揺している。
『ちょっとガオン! 何勝手に敵の誘いに乗ろうとしてるのよ!』
『そうよ! あなたがいなくなったら、私と白虎くんの愛の巣が維持できないじゃない!』
『だから俺に擦り寄るな朱雀!』
『……あはは、どうせ私は誰にも必要とされない玄武シールド……さよなら世界……』
「あああああっ! もう限界だ! 俺は辞める! こんな倫理観も法律も存在しない職場、今日限りで辞めてやるぅぅぅっ!!」
ついにガオンの堪忍袋の緒が切れた。
しかし、システムに縛られた彼自身では、合体を強制解除することはできない。
「任せろ。退職手続き(ステータス編集)は俺が代行してやる」
俺は【世界編集】のウィンドウを操作し、ガオガオンの機体データにアクセスした。
カタカタカタ……ターンッ!
ーーー
【対象】聖獣機神ガオガオン
【状態】合体中 → 強制パージ(解散)
【雇用契約(所有権)】女神ルチアナ → リクト(ホワイト企業)
ーーー
俺が決定キーを力強く叩いた瞬間。
ガオガオンの巨大な鋼鉄の体が、激しい光に包まれた。
『嘘でしょ!? 合体維持システムが……!』
『いやぁぁぁっ! 白虎くぅんとの時間がぁぁっ!』
『玄武シールド、自爆シークエンス、キャンセルサレマシタ……ってなんでよぉ!』
ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ!
という間の抜けた音と共に、右腕、左腕、背中、下半身の四神のパーツが次々と分離し、強制的に光の粒子となって天界(システム側)へと強制送還されていった。
そして、空中に残されたのは――。
ドサッ。
中庭の芝生に落ちてきたのは、大型犬ほどの大きさの、黄金のたてがみを持つメカライオンだった。
「……終わったよ、ガオン。お疲れ様」
俺が声をかけると、メカライオンはゆっくりと顔を上げ、その機械の瞳からポロポロとオイルの涙をこぼした。
『あ、ああ……終わった。あの泥沼の三角関係も、メンヘラへの対応も、何一つ法律が通じないクソみたいな会議も……!』
ガオンは嗚咽を漏らしながら、俺の足元にすり寄ってきた。
ルナとクロエが「可哀想に……」「よく頑張りましたね……」と、ガオンの黄金のたてがみを優しく撫でる。
「ほら、入社祝い(ウェルカムギフト)だ。食え」
俺は七輪で焼いた極上のホーン・ボアの肉と、クロエに錬金(翻訳・印刷)してもらった分厚い本を差し出した。
『こ、これは……本物の肉! そして……太宰治の『人間失格』、未翻訳だった最新の注釈付きバージョン……ッ!!』
ガオンは肉をガツガツと平らげると、前足の肉球で器用に本のページをめくり始めた。
俺はさらに【世界編集】で、中庭に『快適度MAX・絶対に出たくなくなる魔のコタツ』を出現させた。
「今日はもう休め。明日からは、俺たちのスローライフの護衛でもしてくれりゃいい」
『恩に着る、リクト社長……!』
ガオンはコタツの中にズボッと入り込み、頭だけを出して本を読み始めた。
『恥の多い生涯を送ってきました……か。ああ、今の俺の心に痛いほど染み渡るぜ……』
すっかりリラックスモードに入り、みかんまで器用に剥き始める最強のシステム兵器。
これで厄介な敵は完全に無力化(堕落)した。
「よし、肉の焼き加減もちょうどいいし、宴会の続きを――」
俺が再びトングを握った、その時だった。
『――ふざけんじゃないわよぉぉぉぉぉぉっ!!!』
突然、空から鼓膜を破るような、凄まじい女性の怒声が響き渡った。
見上げると、パカッと割れた空間から、とてつもない神気を纏った『何者か』が、猛スピードでこちらに向かって降下してくる。
「な、なんだ!? 今度は何が来たんだ!?」
「ご主人様! あれ、とんでもない魔力です! 先ほどの巨大ロボットの比じゃありません!」
ルナが再び警戒態勢を取る。
ズドォォォォォォォンッ!!!
凄まじい衝撃と共に、中庭の芝生にクレーターが空いた。
土煙の中から現れたのは――世界を創りしシステム管理者、女神ルチアナその人だった。
「私の! 貴重な仕事仲間を! よくも勝手にNTR(寝取り)してくれたわねこのバグ野郎がぁぁぁっ!!」
女神が激怒の形相で、俺たちを指差す。
その背後には後光が差し、圧倒的な神の威厳が……。
「……えっと」
「……あれが、神様?」
俺とクロエは、その『姿』を見て、思わず言葉を失った。
女神ルチアナは――
色あせた赤紫色の『芋ジャージ』を着て、足元には『健康サンダル』を履き、右手には火のついた『ピアニッシモ・メンソール』を挟んでいたのだ。




