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第三章 コタツと推し活と聖獣機神〜神も魔王も堕落する究極スローライフ〜

システム最終兵器『聖獣機神ガオガオン』降臨!と、気まずい静寂

アレスという過去の因縁を(システム的に)片付けた俺たちは、屋敷の広大な庭で祝賀会を開いていた。

「んん~っ! ご主人様、このお肉最高です! 口の中で溶けちゃいます!」

「わたくしの錬金した特製フルーツソースもかけてみてください! ほっぺたが落ちますよぅ!」

ルナとクロエが、最高級のホーン・ボアの肉(当然、品質は『神々の晩餐』に編集済み)を七輪で焼きながらキャッキャと騒いでいる。

平和だ。これぞ俺が求めていた異世界スローライフの真骨頂である。

「ゆっくり食えよ。肉ならいくらでもあるからな」

俺がトングで肉をひっくり返そうとした、その時だった。

――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

突如として、晴れ渡っていた空がドス黒い雲に覆われ、大地が激しく揺れ始めた。

「ひぃっ!? 地震ですか!?」

「いえ、違います! 上空から、とてつもない魔力と……それに、何か変な音が……っ!」

ルナが空を見上げて警戒のオーラを放つ。

変な音? 俺も空を見上げると、分厚い雲が丸くくり抜かれるように割れ、そこから神々しい黄金の光が差し込んできた。

そして、その光の中から、巨大な『鋼鉄の塊』がゆっくりと降下してくるのが見えた。

『警告。対象バグ・個体名リクトの生存を確認。これよりシステム最終防衛プログラムに移行する』

空から、あの修正者よりもさらに上位の、威圧的な機械音声が響き渡る。

どうやら世界システム(管理者)の奴ら、前回の修正者が失敗したからって、今度はとんでもないデカブツを送り込んできたらしい。

だが、問題はそこではなかった。

その巨大な鋼鉄の塊が降臨するのに合わせて、空から『謎の大音量BGM』が鳴り響き始めたのだ。

チャララ~ン! パラパッパー!!(重厚なブラス音と、地響きのようなドラム)

『アナスタシア……! その絶望の淵で、眠れる魂が目を覚ます!』

『聖獣合体!!』

「……は?」

俺が呆然としていると、空から女性のやけにノリノリな歌声(エコー付き)が爆音で響き渡った。

『ガオッ! ガオッ! ガオッ!』

『ガオッ! ガオッ! ガオッ!』

『ガオ・ガオ・ガオ・ガオ・ガオガオオオオン!!』

雲を突き抜けて姿を現したのは、黄金の獅子を胸に構え、四神(白虎、青龍、朱雀、玄武)の意匠を全身に纏った、超巨大なロボットだった。

圧倒的な威圧感。だが、流れている曲がその空気を台無しにしている。

『静寂を切り裂く 黄金きん咆哮こえ~♪』

『眠れる獅子のに 紅蓮の火が灯る~♪』

「ご、ご主人様……! あれは一体!? 何故か歌が聞こえてきます!」

「わたくし、頭がどうにかなってしまったんでしょうか……っ!?」

ルナとクロエが耳を塞ぎながらパニックに陥っている。

俺もトングを持ったまま固まっていた。

なんだこれ。誰が歌ってるんだ。システム管理者はロボットアニメのオタクなのか?

運命さだめの鎖を引きちぎり~♪』

『錆びついた空 そのこぶしでぶち抜け!』

巨大ロボットは空中で腕をクロスさせ、変な決めポーズをとりながらゆっくりと降下してくる。

曲は徐々にテンポを上げ、サビに向けてボルテージが高まっていく。

『一人の勇気が 絆を呼び覚まし~♪』

『五つの光が 一つに重なる時~♪』

『次元の扉を こじ開けて現れろ!』

(叫べ! 魂のブースト!)

起動ブートせよ、ガオン!』

『聖・獣・合・体! ガオ――』

「うるさい」

俺は脳内で【世界編集ワールド・エディット】を展開し、『環境音(BGM)』の項目を選択。

そのまま、音量のパラメーターを一気に『0』へと引き下げた。

カタカタカタ……ターンッ!

【環境音量】MAX(爆音) → 0(ミュート)

その瞬間。

大音量で鳴り響いていた謎のテーマソングが、ブツッ!と不自然に途切れた。

「…………」

「…………」

「…………」

残されたのは、完全なる静寂。

ジリジリと七輪で肉が焼ける音と、遠くで鳴くカラスの声(カァ~)だけが、虚しく中庭に響き渡る。

空中に浮かぶ巨大ロボットは、一番の見せ場である『ガオガオン!!』のポーズをとったまま、ピタリと静止していた。

BGMが消えたことで、ただ腕をクロスさせているだけの巨大な鉄の塊が、空中にポツンと浮いているという、とてつもなくシュールで気まずい空間が完成してしまった。

「…………あの。ご主人様、曲が……止まりましたね」

「ああ。ご近所迷惑だからな。音量をミュートにした」

俺が七輪の肉を裏返しながら答えると、空中に浮かぶ巨大ロボットから、ギリギリと機械の軋む音が聞こえた。

『……エ、エラー。演出BGMノ強制停止ヲ確認。……オイ、何故止メタ。今カラ一番イイ所ダッタノニ』

ロボット(のメインコアである獅子)から、なぜか酷く落ち込んだような、それでいて苛立ったような低い声が漏れた。

「いや、飯食うのにあの曲は合わないだろ。それよりお前、なんだ?」

『我ハシステム最終防衛プログラム、聖獣機神ガオガオン! 世界ノバグタル貴様ヲ、プロイセン法オヨビ復讐法ニ則リ、消滅サセル!』

ガオガオンが気を取り直したように(しかしBGMがないのでどこか寂しげに)、右腕の青龍から紅蓮のレーザーを構える。

だが、その時。

俺の【世界編集】の画面に、あの巨大ロボットの『内部ログ』がズラリと表示された。

ーーー

【内部ステータス異常(通信ログ)】

朱雀:「ねえ白虎ぁ~、今度二人で抜け出さない?」

白虎:「うるせぇ! 仕事中だろ!」

青龍:「ちょっと朱雀! 私というものがありながら!」

玄武:「もう嫌……誰も私のこと見てくれない……リストカット(装甲パージ)する……」

メインコア(ガオン):「お前らいい加減にしろ! 法律を守れ! 合体中だぞ! ああ胃が痛い……!」

ーーー

俺は、トングを持ったまま盛大にため息をついた。

「……お前ら、戦う前にそのドロドロの職場環境、どうにかした方がいいんじゃないか?」

世界の最終兵器は、システム(外側)よりも、人間関係(内側)が崩壊寸前だった。

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